「よりよく働くために」 ワークルールが大切な理由

「よりよく働くために」 ワークルールが大切な理由

2019/01/16

数々のトラブルを見てきたからこそ分かる「知識の必要性」

 こんにちは、「ワークルールとお金の話」の佐佐木由美子です。今回で5年近くにわたり続けてまいりました本連載も最終回を迎えることとなりました。最後に、私がワークルールや社会保障制度について書き続けてきた理由について、お伝えしたいと思います。

よりよく働くための知恵

 私たちが働く上で、密接に関わっている労働法。この連載では、ずっと「ワークルール」という言葉を使ってきましたが、「労働法」という名前のついた法律は存在せず、労働基準法や労働契約法など労働問題に関するたくさんの法律を総称して労働法と呼ばれています。

 法学部出身の方や法律を学んだことがある人であればいざ知らず、社会人になる前に、こうしたワークルールを体系的に学校の授業で教えてくれるわけではありません。学校を卒業すると同時に、多くの人が社会人となって働くことになりますが、ワークルールについては自分で勉強しないといけないため、「雇用契約書の見方も分からない」という状況は決して珍しくありません。「会社から渡されるものだから、何となく正しいものだろう」といった感覚で、何かおかしいなと思っても、受け流してしまう人は多いのではないでしょうか。

 しかし、入社してからトラブルになることは、ままあることです。

「残業はないと言っていたのに、毎日残業ばかり」
「残業代が支払われない」
「上司からセクハラを受けた」
「妊娠したと言ったら解雇された」
「給与が突然引き下げられた」

 これらは一例ですが、私は仕事柄、数え切れないほどの労使トラブルを目の当たりにしてきました。しかも、女性の場合は、パワーバランスで負けてしまい、泣き寝入りするケースも少なくありません。

 そうした話を後から聞くと、「もっと早く相談してくれていたら……」とやるせない気持ちになりました。同時に、「もしトラブルに遭ったときに、必要な知識があったら、問題を上手く解決できていたかもしれない」ちょっとしたボタンの掛け違いで、修復不能となってしまった残念なケースもあったからです。

 交渉のテーブルに着くとき、共通言語は法律です。会社が就業規則などで独自に決めたルールはもちろん大切ですが、解釈の仕方などによって、必ずしも正しいとは限らないこともあります。そのとき、法律(ワークルール)を知っていることが重要な意味を持ちます。

未来を予測して備えておくことも可能に

 ワークルールを知っておくといい理由は、決してトラブルに遭ったときのためだけではありません。自分の働き方を考えるときに、役に立ってくれることもあります。

 例えば、転職を考えているときに、有期労働契約の求人があったとしましょう。そのとき、給与や仕事内容、就業場所の立地など、表向きの労働条件だけで判断してはいけません。有期労働契約であれば、契約更新の可能性の有無、更新された場合でも上限が定められているか、あるいは正社員転換制度などがあるか、といった労働条件を確認しておくことが大切です。

 有期労働契約であっても、同じ事業主の下で5年間働くと、無期労働契約に転換できる権利が発生します。しかし、そもそも5年働くことができなければ、こうした権利は行使できませんので、切り替えて次の職場を探さなければなりません。そうしたところまで見越した上で、この転職が今後のキャリアにどのような意味を持つか、冷静に考えていただきたいのです。要は、ワークルールの知識があれば、次に打つ手をあらかじめ立てて備えておくことができるといえるでしょう。

密接に関わる社会保障

 もう一つ、連載タイトルにある「お金」について。この連載では、社会保障制度でいざというときに受けられる給付金について、主に取り上げてきました。私たちは、いわゆる「揺りかごから墓場まで」、社会保障制度の恩恵を受けながら暮らしています。

 20歳になれば国民年金の被保険者となりますが、会社に勤めるようになると、雇用保険や健康保険、厚生年金保険に自分自身が被保険者として加入して、保険料を支払うようになります。しかし、会社でわざわざ社会保険のことについて、教えてくれることはありません。気付けば、「給与明細からたくさんの社会保険料が天引きされているなぁ」程度の感覚ではないでしょうか。

 しかし、これらのお金がいったい自分にどのように関わっているか、どのような状況のときに活用できるか、知る手立てが普段の生活の中ではなかなかありません。そして、いざ働けなくなって生活に困ったときにお金が欲しい、給付金をもらいたいと思っても、自動的に振り込まれるわけではなく、自分で請求しなければなりません。自己責任と言ってしまえばそれまでですが、自分で請求するためには、ある程度の仕組みを理解しておくことが大切です。

ワークルールや社会保障に関心を

 人生100年時代といわれ、寿命が延びていく中で、働き方も今後変わっていくことでしょう。多様な働き方を考える上でも、ワークルールを知っておくことは大切ですし、お金(社会保障制度)も一体を成しています。

 これまで、さまざまなケースをご紹介しながら、ワークルールについてお伝えしてきました。何か一つでもストーリーやキーワードが頭の片隅に残っていれば、ネットを通して検索してみることで、いろいろな情報をキャッチすることができると思います。

 私たちがよりよく働き、生きていくために、これからもワークルールや社会保障制度にぜひ関心を持っていただければと思います。きっとあなたの未来に、役立ってくれるものだと信じています。

 最後になりますが、これまで長い間にわたり、「職場で賢く生き抜く! ワークルールとお金の話」をお読みいただき、ありがとうございました。

文/佐佐木由美子 写真/PIXTA

Profile
佐佐木由美子(ささき・ゆみこ)
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。中央大学大学院戦略経営研究科修了(MBA)。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、働く女性のための情報共有サロン【サロン・ド・グレース】を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌等メディアで活躍

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日経ウーマンオンライン

2018/12/12掲載記事を転載
「よりよく働くために」 ワークルールが大切な理由