副業で、自分の仕事に「適正な値段」を付ける時のコツ

副業で、自分の仕事に「適正な値段」を付ける時のコツ

2019/01/16

「やりがい搾取」に陥らないための小さな実験の進め方

 今後、副業が当たり前になっていく中で、時間の切り売りをする仕事を副業や兼業に選ぶことは、ブラックな働き方につながりかねません。会社員を続けながらも、自分の価値を見極め、能力を役に立つ形でパッケージ化するには、どうしたらいいのでしょうか。この連載では、働き方改革のコンサルティングを行っている池田千恵さんが、「ポータブルスキル(持ち歩き可能な、どこでも通用するスキル)」を磨く方法を指南します。第5回の今回は、副業をする上で最も難しい「値付け」。どうしたら、自分の仕事に適正な値段を付けることができるのでしょうか。

無料で仕事を頼まれた…なぜ、損をしたようなモヤモヤを感じるのか

 自分よりも人の都合を優先し、自分の気持ちや「こうしてほしい」という希望を伝えるのがついつい後回しになってしまう、ということは誰でも一度は経験しているのではないでしょうか。

 あなたも心当たりはありませんか?

●趣味の活動やイベントで、本当はものすごく手間と時間と費用がかかっているのに、友達だからといってお金も請求できずに、ちょっとソンした気分になった

●ボランティアでお願いします、と言われて、納得して受けたものとはいえ、自分から喜んでやっているわけではないのに報酬ももらえないのは、なんだかモヤモヤする

 実は、こうした「モヤモヤ」をないがしろにしていると、「じぶん商品化」(=「自分の価値がここにあるのではないかな?」と仮説を立て、パッケージ化し、値付けして販売しながら試行錯誤を繰り返すことで、どこででも通用するスキルを磨くこと)の妨げとなります。なぜならば、「じぶん商品化」には、自分の労働に対して正当だと思う金額を相手に請求することが不可欠だからです。

 でも、経験のない人にとっては、お金の請求はとても怖いことです。特に友達からの依頼だと、この分だけの作業量に対する対価をください、というのも気が引けるし、そこまで自分のやっていることに価値があるかも分からないし、売り込みや親切の押し付けだと思われて今後の関係性を崩したくないから、どうしたらいいか分からない……モヤモヤはガマンするしかない、と思うのも分かります。

 頭で分かっていても、自分のスキルのどの部分をいくらで売る、という感覚は、まずは試してみないと身に付きません。特に会社員を長く続けていると、仕事内容が専門的なものに限らずに多岐にわたるのに加え、月収・年収で仕事を受けているため、自分がしたことが果たしていくらの価値となるのかを判断するのはとても難しいものだからです。

 この問題は実は根深く、早いうちに解決しておかないとずっと悩みはついてまわります。今会社員で定期収入を安定的にもらっている身だから、モヤモヤを心にとどめておくことができますが、今後起業したり副業を実際に始めたりしようとしているのなら話は別です。人間は、「役に立てるのがうれしいから」だけで、かすみを食べては生きいけないからです。

今のうちにモヤモヤを解消しておかないと、待つのは「やりがい搾取」

 このマインドのまま独立・起業・副業を始めると、待っているのは「やりがい搾取」です。「金銭の報酬がいちばんの目的ではなく、自分の成長や、役に立てるという喜びが目的だ。だから、お金は安くてもいい」この言葉が「本当の本当の本当に」本心から出ている言葉で、今は修行期間だからタダでもこの経験をものにしたい! と割り切っているのならいいでしょう。しかし、キャリア相談などで多くの人の話を聞いて思うのは、「やっぱり、そうはいっても、せめて自分が食べていけるだけのお金は欲しい」がホンネなのです。

 ホンネにフタをして「喜んでもらえてうれしい」というアピールをしたままのあなたに待っているのは、「あなたなら安くやってくれるはず」という依頼主からの「やりがい搾取」、つまり「やりがい」を盾にした最低金額での労働かもしれません。経営とは利益の追求で成り立つものなので、仕事を依頼する側のホンネとしては、安くてクオリティーが高いあなたを手放したくはないのです。世の中は良い人ばかりとは限らないので「あの人なら安く買いたたくことができそう」と狙っている人は、けっこうたくさんいるもの。それを「いつもお世話になっているから」「今後につながりそうだから」「関係が崩れるのが怖いから」という理由で受け続けていては、体がいくつあっても足りませんよね。

 もちろんスキルがまだ足りない時期は、一定期間低賃金になってしまうことは仕方がありません。しかし、ずっと低賃金に甘んじていては「一人ブラック企業」まっしぐらです。

 副業した分、それが複利となって、本業にも副業にもプライベートにもいい循環が生まれるような流れをつくれずに、単なる時間の切り売りに終わってしまったら、何のために副業するのか分かりません。頑張れば頑張るほど、豊かになるどころか疲弊していき、健康も害してしまっては元も子もありませんよね。このような理由から、人生100年時代を迎える今、会社員という安定した収入がある時こそ、価値に対してお金をもらうという感覚に今のうちに慣れていく必要があるのです。

 かくいう私もたくさん失敗をしてきました。書くのも恥ずかしいですが、恥を忍んで私の失敗エピソードとそこから得た経験について紹介しましょう。

「じぶん商品化」を試して分かった教訓その1:パン教室の値付け編

 私は会社員時代、会社の許可を得て、週末起業で月に1回程度天然酵母パン教室の講師をしていました。しかし、毎回食材にこだわり過ぎて、原価率が40%~50%になるため、開催すればするほど赤字になってしまうのが実情でした(原価率とは販売価格のうち原価が占める割合のことで、飲食業ではだいたい30%くらいが上限だといわれています)。

 もちろんこれは経営上NG行為ですが、私にとって当時どうしても譲れないポイントが「こだわりの食材」だったのです。安く仕入れられる質の悪いバターを使って教室をするくらいなら、開催したくない! とまで思っていました。しかし、当時パン教室の相場は1回3500円程度だったので、その範囲で開催したい、という気持ちも抜けず、値段を上げてまで提供するほどの自信もなく、頑張ってその価格で開催していました。

 参加の皆様には喜んでもらい、リピーターになってくれた人も多かったのですがやはり日に日に赤字が募っていくのはつらいものがありました。会社員のままだったから続けられたものの、結局独立したのを機にパン教室の開催はやめてしまいました。

 今考えれば、食材へのこだわりが独り善がりのものではなく、相手にメリットがあるものであるとすれば、教室の高額化でもう少し結果は変わったかもしれない、などなど改善点、反省点は多く思い浮かぶのですが、これも実際に経験してみなければ分からないものでした。

 また、この経験から、実は私は料理を作ったり教えたりするのが、実はそんなに好きではないという自分自身のホンネも分かってしまいました。「料理好き」だと思っていたのは思い込みで、実は料理を通じた人との関わり、つまり「コミュニケーション」を取ること、料理を囲んで「おいしいね」「楽しいね」という場をつくることが好きなんだと気付きました。

 この経験から得た学びは、次のものでした。

●私の場合、趣味を仕事にすると冷静な経営判断ができなくなる → 好きで得意、だけでなく、好きで得意で勝てるものを見つけないとダメ

●相場にとらわれて、相場以上の値段でそれ以上の価値を付けるという思考が過去の自分にはなかった

●私は料理という手段(料理)を伝えたいのではなく、料理で得る目的(コミュニケーションの場)を伝えたかったと分かり、料理研究家の道は自分の進むべき道ではないと気付いた

「じぶん商品化」を試して分かった教訓その2:講師デビューの相場編

 2009年、独立してすぐに出版した「『朝4時起き』で、すべてがうまく回りだす!」(マガジンハウス)というデビュー作がいきなり10万部を超えるベストセラーとなったおかげで、私には、人前で話す経験がほとんどなかったのに講演の依頼が殺到しました。

 ベストセラーは「千三つ(1000人に3人)」といわれるほど珍しいことです。それに売り込まなくても続々と依頼が来るなんて、仕事が欲しい周囲からしてみたら夢のような話でしょう。しかし、今明かすと、講演の経験がほとんどないのに「いくらで受けていただけますか?」とひっきりなしに依頼が来るというのは、私にとってはかなりの恐怖でした。

 パン教室を開催していた時はあれほど相場を気にしていたのですが、講演の相場はネットを見ても出てきません。そこで、知人で講演を多く受けている人に、いくらで受けているかを聞いてみると「1時間35万円」とのこと。「そうなんだ!」とうのみにして、毎回依頼があるごとに「1時間35万円」と返事をしていたところ、サーッとひくように講演の依頼が途絶えてしまいました。今なら分かりますが、だいたい駆け出しの講師が企業に依頼されて話すときの相場は、どんなに高くても「1時間3万円~5万円」程度だそうです。駆け出しのくせに相場の10倍以上の値付けをしてしまったばかりに、人前で話すという場数を踏む貴重な機会を失ってしまった上、先方に高飛車な印象を与えてしまいました。

 後で分かった話ですが、「1時間35万円」と教えてくれたその人も、ちょっと見えを張った金額を私に伝えていたようです……。よっぽどのベテランでも1時間35万円はかなり高い部類に入るようです。

 このエピソードを講師仲間に最近話したところ「あー、それは、一瞬で研修講師派遣かいわいから引かれたね」「いきなりそんな金額を言う人は敬遠されるね」と言われてしまいました。

 今振り返ると、あの時もし1時間35万円で講演を受けていたらどれほど恐ろしいことになったかが、クレームの嵐になったかが分かるので、「断ってくれてよかった!」という経験です。おかげでコツコツ、見習いのような講演料から徐々に評価されて力をつけることができました。

 この経験から得た学びは、次のものでした。

●相場は、正しい情報を持っている人から聞くべき
●駆け出しの段階では、仕事を値段で選ぶとかえってソンをする
●仕事を選ばず依頼を受けていくことで単価を上げる実力をつける時期がある

 他にも、ここに書き切れないほど大小の失敗を繰り返しましたが、それでも、この経験があったからこそ、今自分がどう感じて、どういう案件なら気持ち良く受けられるか、自分のこのサービスをいくらで値付けするのが適切か、ということが分かってきたわけです。

 もちろん失敗のせいで遠回りの道を通ってしまうこともあるでしょうし、失敗しないようにするさまざまなノウハウは今の時代、ネットで検索すればすぐにみつかります。しかし、命に関わらない範囲で失敗しながら積み上げた経験こそが、今後のあなたを形づくっていくことを忘れないでください(この記事だって、一般的な教科書的な話ではなく、生々しい過去の失敗があったから原稿料としてお金を頂けるわけですから)。

今回の記事のまとめ

 今回伝えたかったのは、次のようなことです。

●今のうちから自分の価値に値付けする習慣を持たないと、今後副業・起業したときに「やりがい搾取」に引っかかる可能性が高い

●会社員である今のうちに小さく何度も自分の「値付け」を試してみよう

●自分が進みたい分野や評価されることは、自分で思い込んでいるところとは違う点にあることが多く、値付けの習慣化で自分の本当の道に気付く

●命に関わらない失敗である限り、何度でも失敗して経験をネタにしていこう

 失敗を繰り返して、何度でも立ち上がるところから、自分の価値観や、これは譲れない、という経験ができるのです。チャレンジしてダメダシされ、失敗を経験にしていきましょう。自分商品化→販売して世の中の流れを肌感覚で知っていき、自分「ならでは」の精度や判断軸を蓄積していきましょう。

 あなたの経験を心から知りたい人がきっといます。応援しています!

文/池田千恵 画像/PIXTA

Profile
池田千恵(いけだ・ちえ)
株式会社 朝6時 代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部卒業。外食企業、外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。企業や自治体の朝イチ仕事改善、生産性向上の仕組みを構築している他、個人に向けては、教えるプロ(講師・コンサルタント・専門家)として起業したい人が商品作りを学べるコミュニティー「教えるプロのための自分商品化実践会」を主宰。9年連続プロデュースの「朝活手帳」など著書多数。

Provider

日経ウーマンオンライン

2018/11/28掲載記事を転載
副業で、自分の仕事に「適正な値段」を付ける時のコツ