【新連載】副業しても「一人ブラック企業」にはなるな

【新連載】副業しても「一人ブラック企業」にはなるな

2018/10/03

時間を切り売りするのではなく、価値を交換していこう

 今後、副業が当たり前になっていく中で、時間の切り売りをする仕事を副業や兼業に選ぶことは、ブラックな働き方につながりかねません。会社員を続けながらも、自分の価値を見極め、能力を役に立つ形でパッケージ化するには、どうしたらいいのでしょうか。この連載では、働き方改革のコンサルティングを行っている池田千恵さんが、「ポータブルスキル(持ち歩き可能な、どこでも通用するスキル)」を磨く方法を指南します。第1回の今回は、「一人ブラック企業」にならないための方策についてです。

もうすぐ、副業解禁時代がやって来る

 政府は2018年1月、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」にて、「長時間労働や企業秘密の漏洩などを招かないように留意しつつ、労働者の希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境を整備することが重要である」とまとめました。(*1)

 守秘義務の都合や長時間労働に対する懸念から、まだまだ副業に慎重な企業も多い一方で、ITベンチャーなどの働き方にもともと柔軟な考えを持つ企業だけでなく、製薬会社や銀行などの伝統的な大企業も徐々に副業を解禁し始めました。私はこのような流れを見て、もう手あかが付き過ぎた表現かもしれませんが、「終身雇用の崩壊」という言葉が、やっと現実味を帯びてきた気がしています。

 会社がずっと面倒を見てくれる安心と引き換えに、転勤やジョブローテーションを受け入れ、愛社精神のもと目の前のことに一生懸命取り組みながらゼネラリストとして成長していくというのが、ほんの少し前まで、多くの会社員が信じる一般的な幸せの形でした。

 しかし、世の中はさま変わりしました。数十年前に「エクセレントカンパニー」といわれた企業が今ではランキング圏外になったり、会社更生法を適用されたりしても不思議ではない時代です。小売りをやっていた企業が銀行業や保険業に乗り出したり、フィルムメーカーが化粧品や健康食品の販売を始めたりといった「異種格闘技」も当たり前となり、競争のルールもどんどん変わってきています。数十年後の未来は誰にも分からない中、会社が自分を理想の未来に連れていってくれると盲目的に信じることは難しくなりました。

(*1)厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン
今の子どもの半数は、私たちが知らない職業に就く?

 また、今まで専門性が高く、機械に代替されることはないと思われていた銀行や弁護士、会計士といった業界からAIやRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション=ホワイトカラーの単純な間接業務を自動化する技術)による機械化が進んでおり、「潰しが利く業界だから大丈夫」ということは、もはやどの業界にも言えません。

 デューク大学の研究者、キャシー・デビッドソンは、「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に、今は存在していない職業に就くだろう」と発表したそうです。(出所:「働く女性のワーク・バース・バランス キャリアと出産」大葉ナナコ著 河出書房新社)。

 そんな中、今後企業が成長を続けていくために欲しい人材は、言われたことを正確に、真面目に一生懸命やり続ける人よりも、未来の変化を見据えてイノベーションを起こし続ける人です。よって企業側が副業を解禁する狙いは、本業との相乗効果がある副業を許可することによって、従業員のスキルアップが図られ、それが本業にも生きるようないいループを回してほしいというものでしょう。つまり、社内にどっぷり漬かって井の中の蛙(かわず)になってしまう人間よりも「ヨソモノ」の視点で常識を疑うような人間になってほしい、そのためにも副業で視点を培ってほしい、というのがホンネではないでしょうか。

 副業解禁のメリットは企業側だけではありません。私たちとしても、イノベーションを起こし続ける思考を副業と本業で生かすことができれば、それは自分の「ポータブルスキル(持ち歩き可能な、どこでも通用するスキル)」となり、今後のキャリア形成にもとても魅力的なものになると思います。特に日経ウーマンオンラインの読者である女性はライフステージによって働き方が大きく変わるため、結婚・出産・子育てなどのキャリアの転換点があっても長く働き続けるスキルを得ることが、今後の大きな力になるでしょう。

時間の切り売りは「一人ブラック企業」化の始まり

 しかし、今副業をしている人の状況を調べてみると、企業側が期待する「ヨソモノの視点によるイノベーション」という理想とは少し違うものとなっているようです。

 求人・転職支援サービスの「エン転職」が20代~40代の正社員3111名に実施したアンケートでは、副業に興味がある人は9割で、副業に興味がある理由は「スキルアップのため」が22%、「キャリアを広げるため」が18%、「人脈を広げるため」が15%なのに対し、83%が「収入を得るため」でした。実際にやったことがある副業の6割はアルバイト(接客・販売・サービス系)で、副業をする際の難しさ第1位は「時間管理」だそうです。(*2)

 つまり、「家計の足し」にしたいという理由での副業が大半で、多くの人は自分の専門とする能力と関連する職種ではないアルバイトをしているというのが現状のようです。

 副業をするということは、自分の1日を、もう一つの組織のために費やすことです。工夫をしないと家族との時間も、今までより減る可能性もあります。時間は、イコール、命。そう考えると、大げさですが自分の身代金を差し出して仕事をするのと同義です。だとしたら、副業した分、それが複利となって、本業にも副業にもプライベートにもいい循環が生まれるような流れをつくれずに、単なる時間の切り売りに終わってしまうのは、命の無駄遣いともいえるのではないでしょうか。

(*2)エン・ジャパン 『エン転職』ユーザーアンケート調査 結果発表
時間ではなく価値を交換する「じぶん商品化戦略」

 このような話をすると、「会社はもう守ってくれない」「自分はどうなってしまうのだろう」「副業といっても私には他にできるものは何もない」と不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、悲観する必要はありません。私はむしろ、面白い時代になってきたなぁー、とワクワクしています。

 なぜなら、自分自身のスキルや思いを市場に問うことにより、副業先に雇ってもらって時間を切り売りするのではなく、あなたが自分自身を雇い、小さな事業主として「価値を交換する」ことが、今までよりもずっと簡単になってきているからです。

 今はネットでの発言や創作発表から出版デビューが決まったり、SNSでの「いいね」や「スキ」の可視化で自分の考えを世に気軽に問えたりという機会が多くあります。企業の名前や肩書きを通じた意見でなく、自分がどう感じたか、どう生きてきたか、誰のどんな問題を解決できるかといった、個人のスキルや魅力をそのまま世の中に問える時代です。また、オンラインの小売り環境も整い、創作物を直接販売することも容易になりましたし、クラウドソーシングという仕組みが整ったおかげで自分のスキルを求めている人とのマッチングも容易になりました。

 一つの企業にどっぷり漬かっていると、何に、どんなコストがかかって、どこでどう売り上げが上がり、どの部分が赤字を招いているかという全体像が見えなくなってしまいます。赤字部署でも給料が毎月予定通り支払われるのが当たり前のような環境にいると、自分が担っているどの仕事にどのような価値があるかという市場感覚は鈍ってしまいます。市場感覚は小さい商いを始めることによって磨くことができるようになりますし、磨かれた感覚は本業でも生かすことができます。

 今後年金支給年齢がどんどん上がることが予想されている中、ずっと会社員のコスト感覚、市場感覚のまま定年まで過ごすのはリスクでしかありません。自分のどの部分に、どんな価値があるか、それはどうやったら売れるかを考えていくことが、そのまま人生100年時代の対策にもつながるのです。

いきなり独立はハードルが高くても、副業なら小さく始められる

 私は独立して10年、講演、コンサルティング、執筆など「個人」の名前で生きている立場であるため、最近はフリーランスや独立をして、個人の名前で生きていくためにはどうしたらいいか? という相談を多くもらうようになりました。

 日経ウーマンオンラインの読者の皆さんの中にも、

「今の会社でのキャリアップだけを視野に入れるのではなく、自分のスキルを他でも生かしたい」
「好きなことで食べていきたい」

という方は多いのではないでしょうか。

 いきなり独立、はハードルが高いとしても、会社が副業解禁をし始めている今こそ、今の会社にいながら、市場で自分がどのくらい受け入れられるかを小さく試すチャンスなのではないかと私は思います。

 前回の連載「じぶん働き方改革」で提案したのは、会社の変化を待たずに自分を改革することで来るべき時代に備えるための仕事の効率化の提案でした。次に提案するのは、仕事の効率化から一歩進んだ、自分の価値の上げ方、つまり「じぶん商品化戦略」です。

 この連載で言う「じぶん商品化戦略」とは、「自分の価値がここにあるのではないかな?」と仮説を立て、パッケージ化し、値付けして販売しながら試行錯誤を繰り返すことを言います。

 今後副業が当たり前になっていく中で、単に時間の切り売りをする仕事を副業や兼業に選ぶことは、自分を自らブラックな働き方に連れていくことにつながりかねません。会社員を続けながらも、自分の価値を見極め、能力を役に立つ形でパッケージ化するための方法をこの連載ではお伝えしていきたいと思います。

 幸福度は、自分が選択して責任を持つという「選択の自由」があると高まることが神戸大の研究で分かったそうです。(*3)

 たとえ今は独立するつもりはない人でも、会社で副業が禁止されている人でも、個人としての能力を磨き、会社に貢献し続けていくことは、変化が激しい世の中では評価される上で必要な能力です。何があっても自分で決め、責任を持つことができれば、それはそのまま、あなたの幸福感にもつながっていきます。

 来るべき時代に備え、今からしっかりと準備し、人生のハンドルを自分で握っていきましょう!

(*3)神戸大学 所得や学歴より「自己決定」が幸福度を上げる 2万人を調査
まとめ

●副業解禁は、今後の社会情勢からも避けられない流れだ

●時間を切り売りする感覚でいると失敗する。時間ではなく価値を交換できれば、時間にとらわれない働き方を実現できる。

●自分の能力を最大限に生かすためには、「じぶん商品化」が不可欠

●自分商品化とは、「自分の価値がここにあるのではないかな?」と仮説を立て、パッケージ化し、値付けして販売しながら試行錯誤を繰り返すこと

●「じぶん商品化」ができれば、たとえ会社がなくなったとしても、自分で柔軟に生きていける力がつく

●副業に興味がない、会社が副業禁止という人でも、今のうちに備えておくべきスキルが「じぶん商品化戦略」

文/池田千恵 写真/PIXTA

Profile
池田千恵(いけだ・ちえ)
株式会社 朝6時 代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部卒業。外食企業、外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。企業や自治体の朝イチ仕事改善、生産性向上の仕組みを構築している他、個人に向けては、教えるプロ(講師・コンサルタント・専門家)として起業したい人が商品作りを学べるコミュニティー「教えるプロのための自分商品化実践会」を主宰。9年連続プロデュースの「朝活手帳」など著書多数。

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日経ウーマンオンライン

2018/10/03掲載記事を転載
【新連載】副業しても「一人ブラック企業」にはなるな