初のキャスターで批判殺到「あなたが小西さんですね」

初のキャスターで批判殺到「あなたが小西さんですね」

2018/09/21

身の丈以上のオファーには「あなただから」の思いがある

 「news every.」に出演中の日本テレビ解説委員の小西美穂さん。記者としての実績を重ね、海外特派員も経験。帰国後も政治部記者として仕事にまい進していた矢先、35歳で全く未経験のキャスター職に抜てきされる。「私には無理。でも、まだ見ぬ世界に挑戦したい」――そうして、日テレのニュース番組として初の討論コーナーの司会としてキャスターデビューをしたのだが……。

前編はこちら
「私には無理」と答えたキャスター職を引き受けた理由

――キャスターデビューをした翌朝、一体、何が起きたのですか?

 前回の記事「『私には無理』と答えたキャスター職を引き受けた理由」でもお話しした通り、抜てきしてくれた当時の部長、中山良夫さんと構成作家の藤田亨さんから「素の自分でやっていけばいいから。大丈夫、大丈夫」という言葉を真に受け、オンエアでもその通りに、どんな相手だろうと、ズバズバ切り返し、素直な質問をぶつけていったんです。

 放送の翌朝、私は報道フロアの自分のパソコンに向かって、何気なく「視聴者メール」というフォルダをクリックしてみて、一瞬硬直しました(※当時は、視聴者からのメールの反響が司会の私も見られるようになっていました)。

 開けても開けても抗議のメール。すべて、私に関するものでした。「小西美穂とは何者だ」「政治家の話に途中で割って入るなど、非礼だ」「日テレの社員なのか」「なぜ関西弁なのか」、「芸人か」など、それはもうたくさん。

――そんなに批判が殺到したとは。

 無名で若い女性、しかも関西弁だった私は、視聴者にとっても「新し過ぎる存在」だったのだと思います。表情を伴わないメールの字面って、グサリグサリと容赦がないんです。批判の洪水にのまれ、涙で画面がにじみかけ、耐えられずに席を立ちました。

 フロアの隅で電話をかけた相手は、キャスターの大先輩である辛坊治郎さんでした。「辛坊さん、視聴者からこんなに厳しい声ばかり届いています。それも、家族や友人にも言われたことがないくらいのきつい言葉で……」。電話の向こうの辛坊さんから返ってきた声は、ひたすら明るいものでした。

 「それな、勲章やで!」

 え? 勲章? 意味が分かりませんでした。辛坊さんは続けます。「わざわざ批判を言いたくなるということは、視聴者の心に引っ掛かったということや。当たり障りのない番組には批判すら来んもんよ。それに、クレームを言ってくるのは全体の1~2割のもんで、残りの8~9割は『まあまあ、ええのと違うか』と思ってはるんや。たくさんの人が君のことを応援、賛同していると思っていい」

 折れかけていた私の心に、辛坊さんの言葉はじわーっと染みました。

止まないクレーム でも続けてこられたのは…

――気持ちが立ち直っていったんですね。

 はい。辛坊さんにはすごく力を頂けたのですが、それでも私の不安は消えず、局内の階段を駆け上がって、構成作家の藤田さんのデスクに駆け込みました。

 「藤田さんに言われた通りにやったら、こんなにクレームが来たんですよ。一体私はどうしたらいいんですか!」

 不安からフツフツと湧いてくる気持ちのやり場がなくて、私は藤田さんに矛先を向けたんですね。机の上にあったハンカチを勝手に取って悔し涙を拭きました。動揺する私に対し、「小西はよくやってくれている。よくやっているから、批判も来るんだよ」と藤田さんは繰り返しました。

 「私、このままでいいんですか」と聞くと、藤田さんは「いい、いい」と答えました。「これからも批判はしばらく来ると思うけれど、気にせずそのままでいい。ただし、『公平じゃない』という意見が来たら、しっかり耳を傾けるようにしないといけない。それだけ気を付けて」。この言葉はずっと私の中に残っています。

――では、その後も同じスタイルを貫いたと。

 はい。放送を2回、3回と重ねても、私へのクレームはやみませんでした。

 ある時、社内研修で視聴者相談センターに行った日のことは忘れられません。

 「お疲れさまです。報道局の小西美穂です」と自己紹介の挨拶をした途端、電話応対をしていたフロア中のスタッフが一斉に顔を上げて私のほうを見た気がしたのです。

 「ん? 私、変なこと言ったかな?」と不思議に思いつつ、研修用の席に着き、隣の女性にあらためて「小西と申します」と挨拶をすると、女性はニッコリと笑って「知っています。あなたが小西さんなんですね」と。

「よーくあなたに関する電話を受けますから。実はね、みのもんたさんの次に、多いんですよ」

 背中をツーッと汗が流れるような思いがしました(笑)。視聴者対応の研修を受けたその日に、私が私自身へのご批判の電話を受けなかったのは幸いでしたね。まともに受けていたら、相当落ち込んでいたかもしれません。

――心が折れかける経験をしながらも、自分のスタイルを貫けた理由は何だったと思いますか?

 そうですね。ありがたかったのは、これだけ批判を受けていたにもかかわらず、局内から「小西のやり方を改めるべき」「視聴者から怒られているんだから、もっとこうしなさい」というおとがめは一切なかったということです。

 私が思い切り自分を発揮できるように、転びながらもゆっくりと進めるように、寛大な心で会社が見守ってくれていたというのは、大きな大きな救いでした。

――その後、番組への反応はどうでしたか?

 初めは批判ばかりだった視聴者の反応も少しずつ変化していったことに、手応えを感じられるようになりました。慣れるまでに時間はかかりましたが、荒削りながら率直に疑問をぶつける、よく言えばフレッシュな感覚が私の持ち味として徐々に支持されるようになったのです。

 当時出演してくださった政治家の方からは、今でも「あの番組は楽しかった。また小西くんに仕切ってほしいなぁ」と言われることもあります。未熟な私だからできた予定調和ではない番組進行が、かえって新鮮だったのかもしれません。

 そしてその後、番組は移りながらも討論の司会という役割を頂くことは続き、最も長く続いた「深層NEWS」(BS日テレ)は3年3カ月。トータルで12年間も、私は討論の司会を務めることになるのですから、人生というのは本当に分からないものです。

 さらには、私が40代になって「仕事で行き詰まりを感じる」という憂き目に遭った時にも、この討論司会の経験が私自身を救い上げてくれたのですから、苦くてつらい経験ほど「肥やし」になっていると実感しています。


声を掛けられたのは「あなただから」

――当時の小西さんと同じように、「大きな試練」に直面している女性たちに、アドバイスをするとしたら?

 「私には無理」と足がすくむときや、「やってみたら、やっぱり向いてなかった」とヘコむとき。こういった局面は、思いがけない役割が降ってくることも多い会社員ならではですよね。最近では、管理職のオファーを断る女性も多いと聞きます。

 断る理由がやむを得ない事情ならば仕方がありませんが、もし「能力不足」や「自信のなさ」によるものだったら、私は「迷わず受けたらいい」と助言したいと思います。

 でも、「失敗をするのが怖い」という不安が先立つ。私もそうでしたから、よく分かります。

 そこで、どうして怖いと思うのか、考えてみるんです。恥ずかしいから? 誰かに迷惑を掛けるから? 自分が傷つくのが嫌だから?

 確かに失敗を避けて現状維持をするほうが「安全」かもしれません。でも、その安全な箱にいつまでも居続けると、気付いた時には周りはとっくに先に行ってしまっていた、ということは少なからずあるのです。

 一度断ってしまうと、同じチャンスは巡ってこなくなるという可能性だってありますよね。「あの人は前もやろうとしなかったから、きっと次もやらないよね」とイメージがついてしまうから。その間に、若くて有望な人たちもどんどん入ってきます。

 だから、思い切って飛び込んでみる。たとえ、すぐに成果が出せなくてもいいし、「失敗に終わった」という結果となったとしても、失敗も含めて前に進んだことに変わりはありません。

 「失敗は後退ではなく前進」だと私は思っています。その経験の前後では、見えている世界はより広くなっているから。出会う人、日々関わる人の顔には必ず変化があるはずです。

 「うまくやらなきゃいけない」と力を入れずに、「私なんか」と小さくならずに、まずは飛び出すことに価値がある。

 チャンスをくれた人たちは、あなたの強みも弱みも全部分かった上で、「あなただから」と声を掛けていることに気付いてほしいと思います。

聞き手・文/宮本恵理子 写真/稲垣純也

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一見キラキラの小西さんのキャリア、実は、突然の辞令で出向、36歳で正社員→契約社員、初のキャスターで批判殺到、41歳で襲ってきたひとりぼっちの寂しさ…とデコボコ道でした。自分にしかできない仕事のつくり方やチーム力を高めるコツ、行き詰まるモヤモヤ期の脱出法、11歳下の男性との結婚に至った40代からの婚活術は、悩める女性たちから毎回大反響! 共感たっぷりのリアルなお話を、今度は生でお届けします。
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Profile
小西美穂(こにし・みほ)
日本テレビ解説委員・キャスター。1969年生まれ。読売テレビに入社し、大阪で社会部記者を経験後、2001年からロンドン特派員に。帰国後、政治部記者を経て日本テレビ入社。BS日テレ「深層NEWS」ではメインキャスターを約3年半務め、現在は報道番組「news every.」でニュースを分かりやすく解説。関西出身の親しみやすい人柄で支持を集める。著書に「3秒で心をつかみ10分で信頼させる聞き方・話し方」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。インスタアカウントはmihokonishi69

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日経ウーマンオンライン

2018/09/21掲載記事を転載
初のキャスターで批判殺到「あなたが小西さんですね」