女性機長の奮起術 全身鏡の前で「お前ならやれる!」

女性機長の奮起術 全身鏡の前で「お前ならやれる!」

2018/07/03

後輩や部下には「前向き評価」いいイメージは前進につながる

 日本初の女性旅客機機長として、日本やアジア上空をフライトしている日本航空の藤明里さん。パイロットとして活躍するまでには、どのような道のりを歩んできたのでしょうか。影響を受けた人物や時間の使い方について伺った前編に続き、後編では、後輩への指導の仕方やモチベーションを上げるコツをお話しいただきました。

前編:日本初の女性旅客機機長 人生を変えた「いい言葉」

 大学卒業後、米国と日本でのライセンス取得を経て、1999年にJALエクスプレスに入社した藤さんは、2010年に女性として日本で初めて旅客機機長に就任しました。人生の分岐点となったのは、30歳前後でのJALエクスプレスへの入社だったといいます。


【質問6】人生の分岐点を教えてください

【回答】JALエクスプレスに入社した頃です

 日本航空のグループ会社だったJALエクスプレスに入る時が、一番の分岐点でした。JALエクスプレスができるまでは、ジェット機で航空運送をしている会社の中で、自分でライセンスを取った人を採用している会社はありませんでした。新しい会社が誕生したことで、エアラインのパイロットになれる可能性が生まれたのです。

 当時は別の会社に勤めながら、試験を受けるために必要なライセンスを取るためのお金をためていました。「早くエントリーしないと入社のチャンスが逃げてしまう」と思い、父親にライセンス取得のためのお金を借りられないかと相談していた矢先、父が他界してしまいます。どうしようかと思っていたら、母親が「続けなさい」と言って助けてくれました。

 時を同じくして、勤めていた会社でリストラに遭ってしまいます。「チャンスが来た」という気持ちと「後がない」という思いで、何が何でもJALエクスプレスに受からなければと必死でした。無事に入社した時には「捨てる神あれば拾う神ありで……」と挨拶しましたね。それが30歳ごろの出来事です。

【質問7】後輩や部下への指導で気を付けていることは?

【回答】前向きに評価することです

 全体的には前向きな評価を心掛けています。できないことがあれば落ち込むものですが、その経験は次の成功につながるものなので、「それを次に生かせばいいんじゃない?」とポジティブな解釈で伝えるのです。仕事に悪いイメージしかないと、ネガティブな方向に行ってしまいますが、いいイメージを持てれば、落ち込んだことも前進するためのきっかけになります。

 また、「表面的なことにとらわれないようにしなさい」ということも伝えています。私たちの仕事にはマニュアルがたくさんあるのですが、「マニュアルに書いてあるからやる」のではなく、どうしてそう決まっているのか、根拠を示せるように自分で考えることが大切です。時間がないときや切羽詰まっているとき以外は、後輩や部下には横から口を出さず、自由に考えてもらうことを意識しています。


【質問8】自分のモチベーションを上げるコツは?

【回答】「お前ならやれる」と自分に言い聞かせます

 機長訓練を受けていた頃、天気が悪くていろいろなトラブルが起こりそうな日には、玄関に置いた全身鏡の前で、「お前ならやれる!」と自分で自分に気合いを入れていました。「自分ならできる」と信じることが大切なので、暗示をかけるのです。

 ストレスリリースも大切にしています。頑張った後や大変なことが起きた後には、面白いテレビを見て笑うようにしているんです。笑うことはいいストレスリリースになるので、いろいろな人にすすめていますね。人によってストレスリリースの方法は違うので、自分なりの方法を見つけるといいと思います。女性は、友達に話すことがストレスリリースになるという人が多いですよね。私も友達に話をすることがあります。何をしたら自分がリセットされるかを知ることが大切です。

【質問9】落ち込んだときはどうやって対処しますか?

【回答】プラスに捉えて、自分を甘やかす予定を入れます

 失敗をしたら「この程度の失敗で済ませてくれた」と、プラスに考えるようにしています。日常生活で嫌なことがあったときには、楽しいことを探しますね。例えば、「今日は青森に滞在だからどこのお店に食事に行こうか」と考えたり、「心身共に疲れている」と感じたら、いいマッサージ屋さんを探したりしています。自分で自分を甘やかして、プラスマイナスをゼロにしてあげるのです。


【質問10】将来のことはどうやって考えますか?

【回答】自分が心地いいと思える生き方の大枠を考えます

 細かいことは決めていませんでしたが、学生の時に「定年まで働ける仕事を持ちたい」「結婚するならこのくらいかな」「働き方はこういう感じで」と妄想することで、自分にとって心地いい状態を探しました。漠然とでも、どういう人物になりたいか、どういう立ち位置にいたいかを想像していると、自分をそこに近づけられると思います。

 また、「失敗したらどうしよう」と思わずに挑戦してみることも大切です。失敗したとしても、対処を考えることで自分を進みたい方向に導くことができます。仕事で悩んだとしても、自分が一番自分らしく生きられるところを見つけられればいいと思います。自分がやることに自信を持つことが大切なのです。

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 後輩・部下への指導や仕事のモチベーションを上げる方法、将来像の考え方を伺った後編。失敗からも学び、自信を持って仕事に向かっていくことの大切さを感じられるお話でした。

聞き手・文/飯田 樹 写真/竹井俊晴


藤明里(ふじ・あり)
日本航空  航本部 運航訓練審査企画部 定期訓練室 調査役 737機長(兼)運航訓練部 737訓練室 飛行訓練教官。1992年大学卒業後、米国のパイロット養成学校に入学し、ライセンスを取得。1993年に帰国し、仕事をしながら国内のパイロット養成学校で日本のライセンスを取得。1997年、地方空港を拠点とする航空会社に入社。1999年JALエクスプレス(現・日本航空)入社。2000年に副操縦士となり、2010年に機長に昇格。

Provider

日経ウーマンオンライン

2018/07/03掲載記事を転載
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