「幸せで最強の働き方」を実現するために今できること

「幸せで最強の働き方」を実現するために今できること

2018/06/07

「働き方を決めることは自分の人生を決めること」である

 「専業主婦は2億円損をする」という衝撃的なタイトルの著書で話題の橘玲さん。数々のデータを分析した上で「専業主婦の道を選ぶのはお勧めできない」といいます。とはいえ、「今いる会社にしがみつく」ことを勧めているわけでもありません。橘さんの考える、賢い女子が目指すべき働き方とは?

会社を辞めること=専業主婦ではない

編集部(以下、略) 若い女性たちは、今就いている仕事が忙し過ぎる、職場の理解が得られそうにないなど、子育てと仕事を両立させて働き続けることができないのではないか、という不安から、専業主婦を希望しているという面もあるようです。それでも、「専業主婦は損」であり、何がなんでも今いる会社にしがみつくしか選択肢はないのでしょうか?

 日本は男女の社会的な格差を示すジェンダーギャップ指数が世界最底辺の114位なのですから、会社で働く女性たちが理不尽な思いをするのは当然だと思います。

 日本人は「サラリーマン」が当たり前だと思っていますが、これは和製英語で、海外ではこんな働き方はありません。転勤を命じられればどこへでも行き、異動を命じられれば断る権利はなく、みんながサービス残業をしているのが普通、などという国は日本だけです。こんな異常な働き方をしていて、安心して子育てと仕事を両立できるわけがありません。だから、どんなハラスメントを受けても会社にしがみつくべきだ、とは考えません。私の提案は、嫌なら会社を辞めてもいいけど、「仕事」は辞めずにキャリアを切らないようにする、というものです。

 現代社会において、幸福な人生の土台となる「資本」は、家族、友人などの人間関係である「社会資本」、貯金や不動産などの「金融資本」、そして自分で稼ぐことができる力「人的資本」の3つです。若いうちは財産といえるような「金融資本」はほとんどない代わりに、将来にわたって働いて稼ぐことを考えると、誰でも少なくとも1億円以上の「人的資本」を持っています。「豊かさ」への道は、この「人的資本」を維持し、大きくしていくことなんですね。

 専業主婦となってキャリアを切ってしまうことのリスクは、この「稼ぐ力」=「人的資本」を失ってしまうことです。「お金がすべてではない」と思われるかもしれませんが、生きていくためにも、そして自由な人生を生きるためにも、経済的に自立していることは大切です。

 そのことを考えると、たとえ出産や育児で一時的に仕事をペースダウンしたり、会社を辞めたりすることになったとしても、何らかのかたちでキャリアを継続していくべきだと思います。インターネットの発達した今は、会社を辞めてフリーランスとして働く方法もあるでしょうし、徐々に制度も整ってきています。

共働きフリーエージェントが最強

――自分で稼ぐ力「人的資本」が大切だというのは分かりますが、会社を辞めて独立して仕事をするのは、資格があるとか、専門的な能力がないと難しい気がします。

 組織に属さずに働くには何らかのスペシャリストでなければなりませんが、必ずしも弁護士や公認会計士であったり、その分野の第一人者であったりする必要はありません。企業の経理や法務などの部署で働き、専門的な知識、経験を身に付けていれば、自分の得意分野を生かして、複数の会社から業務を請け負って働くことも可能でしょう。

 実はこうした働き方をする人は世界的に増加傾向にあります。アメリカでは、組織に雇われない働き方をする「フリーエージェント」が、数年以内に労働人口の半分を超えるといわれています。先進国では、会社に所属しない働き方はもはや一部の特別な人のものではありません。日本ではまだそれほど多くはありませんが、間違いなく今後は増えていくはずです。

 「人生100年時代」などといわれ、定年後の長すぎる老後が大きな問題になっています。これを解決する最も簡単な方法は、働き続けて「老後」を短くすることです。生涯現役なら、老後問題そのものがなくなりますから。日本の会社の「終身雇用」というのは、60歳あるいは65歳で社員を「強制解雇」する制度です。「会社を辞めて自立するのは不安だ」という声をよく聞きますが、生涯現役の時代では、誰もが定年後の長い「フリー」の期間を過ごすことになります。そう考えれば40代、50代でフリーになるのも同じことでしょう。

 フリーエージェントの収入がサラリーマン時代より不安定になるのは間違いありません。だからこそ、夫婦共働きで、どちらかの仕事がうまくいかなくなったときのリスクを減らすことが必要になるわけです。


働き方を決めることは自分の人生を決めること

――「会社を辞めても仕事はやめない」ということは分かりました。会社を辞めたとしても、稼げる力「人的資本」を高めていくためには、どうやってキャリアを積んでいけばいいのでしょうか?

 仕事内容にもよりますが、ほとんどの人にとっては、会社での仕事経験がフリーエージェントとして仕事をしていく上でのベースとなります。

 今、どんな仕事をしているのか、これまでどんな仕事をどんなふうに取り組んできたのかを棚卸して、それを汎用的な(どこでも使える世界標準の)専門性につなげていくことが大切です。

 終身雇用を前提としてきた日本企業では、広報から総務、その後は営業へ……といった具合に短期間でさまざまな部署に配属して「ゼネラリスト」を育てるような人事が行われてきました。定年までその企業に勤められるならそれでもいいでしょうが、転職市場では、こうした経験は「キャリア」としてまったく評価されません。どれも中途半端だからです。

 自分は広報の仕事が向いていると思えば、社内で営業など無関係な職場に異動するのではなく、別の会社の広報に転職してキャリアを継続すべきでしょう。これなら、子育て中でも契約社員やフリーとして広報の仕事を続けることもできます。子育てが一段落して本格的に働こうと思ったときに、一貫したキャリアをつくってきたと説明できるかどうかで、採用担当者の評価は全く違います。会社を辞めても稼げる力=「人的資本」を高めていくためには、自分のキャリアを自分でデザインし、仕事選びも戦略的にやっていく必要があるのです。

 さらに言えば、「人的資本」として育てる仕事は「好きなこと」であるべきだと思います。男でも女でも同じですが、これからやってくる生涯現役社会では、20歳から80歳まで60年間働くことになります。そう考えれば、好きでない仕事でも歯を食いしばって頑張るという「置かれた場所で咲きなさい」では続かなくなってしまいます。何より、嫌なことを我慢してやり続ける人生は、幸福とは言えません。

 どんな仕事をするのか、どんな働き方をするのかを決めることは、どんな人生を生きたいのかを決めることでもあります。自立した幸福な人生を手に入れるために、戦略的にキャリアを築いていってほしいと思います。

 自分のキャリアを会社任せにしたり、自分の人生を夫任せにしたり、あるいは老後の人生を(年金に依存することで)国任せにしていては、自分らしい人生を送ることはできません。それが、この本を通じて働く若い女性たちに伝えたかったことです。

聞き手・文/井上佐保子 写真/PIXTA

この人に聞きました
橘玲(たちばな・あきら)さん
「専業主婦は2億円損をする」(マガジンハウス)著者。作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。編集者を経て、2002年国際金融小説「マネーロンダリング」(幻冬舎文庫)でデビュー。小説、評論、投資術など、幅広い分野で活躍。自身は共働きで子育て経験あり。「言ってはいけない 残酷過ぎる真実」(新潮新書)は45万部を超え、新書大賞2017を受賞。

Provider

日経ウーマンオンライン

2018/06/07掲載記事を転載
「幸せで最強の働き方」を実現するために今できること