「専業主婦は2億円損をする」が響いた女性と男性たち

「専業主婦は2億円損をする」が響いた女性と男性たち

2018/06/06

「好きで専業主婦になったわけじゃない」「実は妻に働いてもらいたい」

 昨年、「専業主婦は2億円損をする」という衝撃的なタイトルの著書が話題になりました。本の内容は、専業主婦批判ではなく、女性が経済的に自立し、自分が望む人生を送ることを勧めるものとなっていますが、出版直後は、専業主婦を中心に、女性からの批判コメントが殺到し「炎上」。一方で、意外にも多くの男性読者がいることが分かってきたそうで……。著者の橘玲さんにお話を伺いました。

働く女性の6割近くが出産を機に退職する現実

編集部(以下、略) 「専業主婦は2億円損をする」というタイトルが衝撃的でした。反響も大きかったのではないですか?

 ネットを中心に、専業主婦の方々からたくさんのお叱りをいただきました。お叱りの内容は大きく分けて2種類で、一つは「女性が2億円も稼げるわけがない」というもの。もう一つは「好きで専業主婦になったわけではない」です。

 「2億円」という金額は、もちろん私が勝手につくったわけではありません。厚生労働省所管の独立行政法人である労働政策研究・研修機構が発表する「ユースフル労働統計2016」によれば、大卒の平均的な女性が60歳まで働いたときの生涯年収は2億1800万円で、しかも退職金は含まれていません。しかし多くの専業主婦の方たちは「女が2億稼ぐなんてあり得ない」と思っているようで、自己評価の低さも感じました。

 一方、「好きで専業主婦になったわけではない」という言葉には、自分で人生を選ぶことができなかったことへのうらみのようなものも感じました。実際にそれしか選択肢がなかった女性たちがいることは確かで、「損をしている」と言われて不愉快になる気持ちは分かります。ただ、不都合なことが書いてあるからといっていくら批判しても、自分が置かれた状況は何も変わりません。

 厚生労働省の「若者の意識に関する調査」(2013年9月)によると、独身女性の3人に1人が専業主婦を希望しているといいます。実際、日本では働く女性の6割近くが出産を機に退職して専業主婦になるというデータもあり、子どもが成長して手が離れた後は、キャリアを積むことが難しいパート、非正規雇用になることが多かったのです。

 こうした現実を前に、若い女性たちの中には「子どもを産んだら、仕事も自分の好きなことも諦めなければならない」と感じ、「子どものいる(専業主婦の)人生」と「自分のために生きる自由な人生」は二者択一だと感じている人が多いようです。欧米をはじめ先進国では、家庭(子育て)と仕事を両立させ、自己実現することは当たり前とされています。未来ある若い女性たちにこんな理不尽な選択を迫る社会は絶対におかしい、そんな思いでこの本を書きました。

男性たちは妻に働いてほしいと思っていた

――この本を買っているのは、女性だけでなく、男性も多いと聞きました。どんな男性たちが興味を抱いているのでしょうか? また、男性たちがこの本に興味を持つのはなぜでしょうか?

 もともと女子高生から20代前半の女性を対象に考えていたのですが、出版後に「妻に働いてほしい」と思っている男性が意外と多いことが分かりました。

 「俺が家族を支えるから働かなくていい」などと言ってしまったものの、出世も頭打ちで給料も上がらない。おまけに労働時間短縮が政府の大方針になって残業代も減っていく。この先の家計を考えると、妻に働いてほしいと思うようになったミドル世代の男性は、実はたくさんいます。でも今更言っても「約束がちがう」と怒られてしまうから、この本を買って、こっそり机の上に置いてみたりするようです(笑)。あと、若い世代の男性からも反響がありました。「結婚したら専業主婦になりたいと言っている彼女に読ませたい」のだそうです。

 男性を対象にするメディアからの取材もたくさん受けました。50代男性向けの雑誌の編集者に理由を尋ねると、いまや読者の一番の関心は老後資金なんだそうです。60歳で定年を迎えても、人生100年時代、老後は40年もあり、年金と貯金だけではとうてい足りそうにないと不安になるんです。では、どうすればいいのか。

 家計の所得を増やす方法は、(1)もっと稼げる自分になる、(2)長く働く、(3)(家計内の)働き手を増やす、この3つしかありません。(1)は自己啓発で成功するとは限りませんが、(2)と(3)は、やれば必ず効果があります。

 妻が50歳から60歳まで年収300万円で働けば、それだけでプラス3000万円です。50代のサラリーマンがどれほど頑張っても、いまから収入を何千万円も増やすことなどできませんから、共働きの効果は実は絶大です。世の男性たちは、ようやくこの事実に気付いたんですね。でも今更「働いてほしい」などと言えないから、「家庭を支えてくれてありがとう」などと言いながら、さりげなくこの本を家に置いておくというわけです。

夫婦共働きは老後不安解消の切り札?

――長年、妻に専業主婦をやってもらい、家事や育児を押し付けてきた男性たちもいるようですが、今さら働いてほしいというのは虫が良すぎる気が……。

 それはそうですよ。「定年後に経済的不安を抱える50代の男性が今からできることはありますか?」と聞かれたので、「これまでの自分の生き方は間違っていた」と正直に認めて、平身低頭して謝って、奥さんと一緒に働けばいいんじゃないですか、と答えました。当然、今まで妻任せだった家事は、すべて共同でやる覚悟が必要ですが。

 今、「格差社会」が問題になっていますが、10年後、20年後の格差社会は、「夫が定年まで働いて貯めたお金と乏しい年金で暮らす老後」か「生涯現役で働き続ける共働き世帯の老後」の、どちらを選ぶかの差になってきます。60歳以降も夫婦で働くのなら、その分の収入が積み上がっていくわけですから、貯金を取り崩してかつかつの生活をする人との経済格差はどんどん開いていきます。近い将来、私たちはこの残酷な事実を嫌でも目にすることになるでしょう。

文/井上佐保子 写真/PIXTA

この人に聞きました
橘玲(たちばな・あきら)さん
「専業主婦は2億円損をする」(マガジンハウス)著者。作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。編集者を経て、2002年国際金融小説「マネーロンダリング」(幻冬舎文庫)でデビュー。小説、評論、投資術など、幅広い分野で活躍。自身は共働きで子育て経験あり。「言ってはいけない 残酷過ぎる真実」(新潮新書)は45万部を超え、新書大賞2017を受賞。

【参照】
厚生労働省「若者の意識に関する調査」

Provider

日経ウーマンオンライン

2018/06/06掲載記事を転載
「専業主婦は2億円損をする」が響いた女性と男性たち