夫が病気で復職決意 主婦の私を変えた看護師の言葉

夫が病気で復職決意 主婦の私を変えた看護師の言葉

2018/05/31

専業主婦時代の私は「自分の人生に向き合っていなかった」

 誰もが皆、結婚や出産を経て働き続けるわけではありません。積極的に専業主婦を選び、あるタイミングで復職する人も多くいます。今回は、妊娠のタイミングで専業主婦になり、10年後、夫の病気をきっかけにして復職した女性に、本音をお聞きしました。

S・Sさん(40歳)
雑貨店 勤務(販売職)
子ども…小6、小3
専業主婦歴…約10年
職歴…新卒でメーカーに入社。激務のため派遣社員に転職後、結婚、妊娠後に退職。専業主婦となる。約10年間の専業主婦を経て、夫が入院を伴う病気をしたことをきっかけに、3年前に雑貨店勤務として復職。

――S・Sさんは、新卒で経理などのお仕事をされていたそうですね。

 「新卒でメーカーに就職し、主な業務は経理でした。小さな会社だったので営業アシスタントから内勤補佐、トイレ清掃まで幅広く仕事がありました。ものすごく忙しく、有休も取りにくい雰囲気で、『早く転職したい』と思っていましたね。入社3年ほどで派遣社員に転職しました。前回と同じような正社員で激務をこなすのは難しいと思ったからです。ある会社のグループ会社の経理担当だったのですが、結果的に本社の経理部配属となりました。派遣社員なので仕事の範囲は狭く、前職に比べるとやりがいは減りましたが、心理的な余裕はできました。公私ともに充実していました」

――28歳の時に結婚し、29歳で妊娠したタイミングで退職されたとお聞きしました。

 「はい。ちょうど妊娠が分かった頃、社内システムの移行で急に忙しくなりました。つわりがつらくても定時で帰ることができず、毎日残業。配慮してもらって、同僚より早く帰らせてもらいましたが体力的にキツくて……。このまま続けていけるだろうかという不安がありました。

 同じ頃、職場から『派遣社員から契約社員にならないか』という打診がありました。でも、こんなに忙しい部署で子育てと両立できる自信はない。迷惑を掛けてしまうのが嫌で退職することにしたんです。妊娠の時期がもっと遅かったら、契約社員になる道を選んでいたかもしれません……。

 当時は、同僚も学生時代の友人も、出産、結婚している人がおらず、『仕事と家庭、育児は両立できるか』について誰にも相談できませんでした。誰か一人でも相談できる人がいたらよかったのですが……」

専業主婦になったらなったで大変でした

――専業主婦になって、出産後はいかがでしたか?

 「『子どもがなかなか寝ない』『なかなか泣きやまない』と、日々必死。専業主婦なので『家事も育児も完璧にこなさなくては』という使命感に駆られていました。夫には、なかなか家事・育児の大変さを分かってもらえず、『私は専業主婦だから仕方ない』と思いながら、常にイライラを抱えていたように思います。

 地域で出会うママたちはほとんどが専業主婦です。だから『これが当たり前なのかな』と思い込んでいました。育児も家事も、手を抜くコツも分からず、模索していた時期です」


少し余裕が出てきて働こうと思ったのだけど…

――およそ10年間、専業主婦をしてから仕事に復帰されましたが、きっかけはどのようなことだったのですか。

 「子どもが小学校高学年になってきて、私も家事の手の抜きどころが分かってきました。周りのママ友のほとんどがマイホームを持っていたので『わが家もお金をためて、いつかはマイホームを買いたい!』という思いが高まり、私も働きに出て、お金をためようと思ったのです。

 でも、いざ履歴書を出してみたら、運よく面接に進んでも採用には至らず、全滅……。『私なんて、どこも採用してくれるところがないのではないか。一生仕事なんて無理なんじゃないかと悩みました。すべてにおいてネガティブ思考になりましたね」

――専業主婦のブランクは感じましたか。

 「はい、約10年というのは、かなり長いブランクです。新卒の時の就職活動では、問い合わせや履歴書のやり取りは電話や郵送でしたが、今はすべてWEB。WEBでの操作やメールルールに不慣れで、やり取りするのも不安でいっぱい。運よく面接まで進んでも、『こんな私で仕事ができるだろうか』『時代に取り残されているのではないか』と委縮してしまって。緊張感が面接官に伝わってしまい、本来の自分の姿を見せることができず、採用に至らなかったのだと思います」

――その頃、旦那さまがご病気で入院されたとお聞きしました。

 「はい、夫が病気で突然入院することになったんです。最初、私はその事実を受け止められずにいました。まだ就職もできていませんし、子ども二人を抱えてこれからどうしていけばいいのかと……。毎日、精神的、体力的でいっぱいいっぱいでした。そしたらある時、夫が入院している病院の看護師さんがこんなことを言ってくださったんです。

 『10年後、子どもたちはママのところにいないんだよ』、と。

 私が仕事をしないで毎日面会に来ていて、夫や子どものことに必死になっていた姿を見て、恐らく私の将来を心配してくださったんだと思います。その看護師さんは、娘さんが既に独立されたそうで、夜勤もこなされていました。

 私は、『ああ、そうか』と少し目が覚めた気持ちになりました。

看護師の言葉が気付かせてくれたもの

 夫が入院するまで、私は、経済的な視点でも、自分の将来を深く考えず、どこか他人事のように考えていました。でも看護師さんの言葉を聞いて、『そうだ、子どもたちにそれぞれの人生があるように、私の人生は誰のものでもない。自分で道をつくるしかないんだ』と気付かされました」

――そうして、現在働いていらっしゃる雑貨店でのお仕事に出合ったんですね。

 「はい、私の弟がたまたま雑貨店の経営者と知り合い、『人出不足で、誰かに手伝ってほしい』と言っていたと聞きまして。軽い気持ちで履歴書を送ってみたら、採用されることになりました。

 ただ、当初提示された時給があまりにも安く、『こんなに安いのなら、わざわざ働かなくても……』と正直思いましたが、次の仕事が見つかるまで、まずはこの雑貨店で頑張ってみようと。思い切って経営者に相談してみたところ、納得のいく時給を提示してもらえて、気持ちよく働き始めることができました」

――約10年ぶりのお仕事、いかがでしたか?

 「これまで会話の相手は、子どもや家族、ママ友くらいだったので、仕事としての会話ができるか心配でしたね。元気な声もしばらく出していなかったので……。不安はありましたが、いざ仕事を始めてみると、すぐに慣れて問題はありませんでした。仕事自体はすべてにおいて新鮮で、刺激的でした。仕事に行くと、新しい世界が目の前に広がっていくような気がしました」

――お仕事では、どんどんステップアップしているとお聞きしました。

 「最初は商品を並べたり、接客したりという仕事内容でしたが、最近はどんな商品を仕入れるかなど発注も任されるようになりました。また、共同経営者である店長が産休に入ることになり、私が店長代理を務めるようになって……。毎日同じ時間に出勤して同じような作業をしていますが、そのこと自体、『自分の新しい居場所』ができたようで心地よく感じています。

 常連で子連れのお客さんも多く、その子どもたちが私に懐いてくれたり、抱っこしてあげると泣きやんだりするんです。お客さんもお子さんもうれしそうな顔をしているのを見ると、大きな喜びを感じますね。『家族以外の誰かが喜んでくれる』という新しい感覚。それが、日々私の背中を押してくれているように思います」

笑顔が増えた、子どもが喜んでくれた

――働きに出たことで、お子さんはいかがでしたか?

 「子どもたちも笑顔が増え、うれしそうにしています。仕事を始めたことで充実感にあふれて、笑顔が増えたと自分でも感じています。職場に行けば仕事がある、誰かがいる。専業主婦時代とは違ったワクワクがいつもあります。

 ただ、夫はいまだ闘病中のため、経済的、精神的な不安が大きいことには変わりありません。家族や親しい友人と定期的に会って話をしながら、目の前のことを一つずつ、乗り越えていきたいと思っています」

――再び働き始めて3年ほど、最近はいかがでしょうか。

 「仕事にも慣れ、さらに店長代理となって、もはや仕事を辞めることは考えられない状況になりました(笑)。ステップアップのために、今後はいろいろな資格を取ろうと考えています。

 仕事をしている今も充実していますが、振り返ってみると、専業主婦時代もすごく充実していました。専業主婦だったあの10年間、仕事をしていたらきっと貯金もしっかりできて今ごろマイホームがあったかもしれない。でもそれと同じくらい、家族と一緒に過ごせた時間は幸せにあふれ、大きな価値があったように思っています。専業主婦として過ごした10年に悔いは全くありません。

 ただ、専業主婦時代の私は、自分の人生についてしっかり考えていなかったように思います。いつも、家族が最優先でしたから。あの看護師さんに言われた言葉で気付かされた『自分の人生は、自分で道をつくる』ということ。これからも心に留めながら、前に進んでいきたいと思います」

聞き手・文/西山美紀 写真/PIXTA

Provider

日経ウーマンオンライン

2018/05/31掲載記事を転載
夫が病気で復職決意 主婦の私を変えた看護師の言葉