「32歳までに出産したい」ベンチャーを選んだ26歳

「32歳までに出産したい」ベンチャーを選んだ26歳

2017/08/28

鈴木晶子(後編)社内の「ブルゾンちえみ」 キレキレ仕事術

 新卒でスタートアップの「社員第一号」になったシェルフィーの鈴木晶子さんは、持ち前の聞く力と人への興味で、ゼロからの組織づくりに奮闘してきました。「落ち込むことはない」と言うポジティブさの源や、プライベートも含めた将来のビジョンについて聞きました。

同僚・後輩へのアドバイスは「打率3割」と考える

 私はどうも物事を言い切り過ぎる癖があるみたいで、社内では「ブルゾンちえみっぽい」と言われています。言うことは割とコロコロ変わるんですけど、その時々では内容に100%自信がある(笑)。だから切れ味がよくなりすぎてしまうのかもしれません。

 悩んでいるメンバーにアドバイスをして、相手に反発されることももちろんあります。でも、人の考え方やキャリアに関わるような深い話って、「打率3割」くらいだと思うんです。反発は食らって当たり前。その上でいかに最善を尽くすかという気持ちで取り組んでいます。私は基本的に人間が好きなので、話しづらい人はいても、嫌いな人はいません。

シェルフィー ブランドマネジメント統括 鈴木晶子さん


組織づくりは「人に聞く」「観察する」

 創業から1年半がたってある程度事業の形が見えてきたところで、人事や広報、営業といった会社としての組織づくりを始めました。経験も知識もないので、まずは本を読んでおおまかな地図を理解し、それでも分からないことは人に聞きます。

 面識のない人にもSNSでコンタクトを取り、「御社では法務はどうやっているんですか?」と質問したりしました。ITベンチャーかいわいの人たちって優しくて、門前払いされることがないんです。常にいろいろなことを教え合っていますね。

 インターンをしていたときの経験も役に立ちました。社内を観察していると、「ここは経営陣の意図と現場の意図がずれているな」とか「スキルで人を雇っちゃいけないんだな」といったことが分かってきます。

 ベンチャーは常に人手不足なので相手のスキルだけを見て雇ってしまいがちですが、そうすると、例えばあるプログラミング言語を手掛けたくて入社した人は、会社が別のもっと効率のいい言語を使おうとすると反対します。ビジョンに共感していないと、個人のやりたいことと会社の方向性がぶつかってしまうんです。

自分が落ち込む原因を考えてみた

 シェルフィーも今ではメンバーが17人に増えました。皆が同じ方向を向いていくために私が気を付けているのは「予防医療」です。

 組織にはいろんな落とし穴があって、誰かがすごい不満を持っているのに、爆発するまで気が付かなかったりすることがある。そうならないように、一人一人の話を聞くようにしています。ポイントは、身構えられないよう、いかにさりげなく話し掛けるか。一言目は「最近、どう?」。そこから「最近もやっとしていることはある?」「うまく整理できていないことでもいいから言ってみて」と続けます。

取材中も、鈴木さんは社員の方々と雑談したり、声を掛け合ったりしていました

 意識しているのは、ニュートラルな状態で聞くことです。「あの仕事がうまくいかなかったから落ち込んでいるのかな」といった予断は一切排除して、相手の思考をトレースすることに徹する。全部話を聞いてから、「こういう選択肢があるよ」と提案してみます。「こうしたほうがいい」とは言いません。

 仕事や人との関わりで「あのときああ言えばよかった」「ああすればよかった」と思うことはありますが、落ち込むことはないですね。それよりも次にどう生かすかを考えます。

 もともと楽観的な性格ですが、以前は気分が乗らないこともありました。原因は何だろう、と考えた結果、たどり着いた答えは「落ち込んでいるのは、思考停止しているからだ」ということ。考えるのをやめてしまうことが不快の原因だと気付いてからは、気持ちを切り替えるようになりました。

出産を見据えて「今崖っぷちに立とう」と判断

 スタートアップを選んだ理由の一つに、「32歳までに子どもを産みたい」ということもあります。周りで不妊に悩んでいる人が多く、30代後半になると妊娠する確率が下がるということを知ったんです。

 出産前後は物理的に動けなくなるので、それまでに実力を付けて、人材としての市場価値を上げておきたいと思いました。大手企業にはさまざまな制度が整っていますが、もしリーマンショックの数倍の経済危機が起きたら、会社がいつなくなるとも限りません。一番いい方法は、ベンチャーで自分を崖っぷちに追い込んで成長させることだと判断したんです。もちろんこれは私の考えで、唯一の正解だとは思っていません。

「量」より「難易度」のハードワークを選択したい

 力を付ける方法として戦略コンサルタントになるようなエリートコースもありますが、ハードワークな職種はどうしても体力勝負になるので女性は不利です。成長のために必要な崖っぷちは、仕事の「量」ではなく「難易度」。ベンチャーも長時間労働のイメージがあるかもしれませんが、シェルフィーのメンバーは無茶な働き方はしていません。

 仕事は常に一定以上のパフォーマンスを出すマラソンのようなものだと思っています。ちゃんと寝なくてはいけないし、プライベートで誰かに会わないと、学びもないので消耗していくだけになってしまいます。健康管理は私にとってすごく大事なテーマです。脈拍で眠りの深さが測れる「Fitbit」を使って、睡眠の質もチェックしています。

仕事の効率を上げるためには健康が第一。「Fitbit」で1日の運動量や睡眠時間を管理している。「基本は夜12時に寝て朝7時に起きると決めています。自律神経が整ってきて、目覚ましも必要ないんですよ」(鈴木さん)

 ただ私自身は、プライベートと仕事を分ける感覚はないんです。名付けて「ワークライフインテグレーション」。人生イコール人間への興味、すべて鈴木晶子の活動なんです。

 自分自身を知るために、自分の体と向き合うヨガを1年間集中的に学びました。原理原則がつかめたら、あとは教えるのが一番勉強になるので、週末は依頼があった方の自宅で出張レッスンをしています。ボランティアで子どもに英語を教えたりもしていますが、どちらも趣味や副業という感覚ではなく、ビジネスでのパフォーマンスを上げるためにやっていること。ヨガでは「人が何かを習得するとはどういうことか」を学べるし、子どもは組織づくりと一緒で、「人間ってこういう言葉をかけたらこう反応するんだ」ということを目の当たりにできます。

 仕事かプライベートかみたいな二項対立は好きではありません。どちらか一方を選ばなければ、ではなく、どちらに寄りたいか。その時々で、自分の快適な位置を探せばいいのではないでしょうか。

 私は「月曜日に会社に行くのが嫌だなあと思った瞬間、会社を辞める」と周囲に宣言しています。今のところ、3年間でそう思ったことは一度もありません。私にとっての仕事は、幸せになるための手段なんです。

取材・文/谷口絵美 写真/西田優太


鈴木晶子(すずき・しょうこ)
シェルフィー ブランドマネジメント統括。高校時代に1年間のアメリカ留学を経験。横浜国立大学を卒業後、2014年にスタートアップ企業のシェルフィーに社員第一号として新卒入社。3年の間に営業、広報、人事、CSといった会社の主要部門の立ち上げに携わる。現在はブランドマネジメント部のマネージャーとして広報と人事を担当する他、新規事業を行う。趣味はヨガとクロスフィット。

Provider

日経ウーマンオンライン

2017/08/28掲載記事を転載
「32歳までに出産したい」ベンチャーを選んだ26歳