経験ゼロ・新卒女子の「聞き役」営業戦略

経験ゼロ・新卒女子の「聞き役」営業戦略

2017/08/21

鈴木晶子(前編)3年後を考えて大手企業の内定を辞退

 大手企業の内定を辞退して、新卒で「社員第一号」の道を選んだ鈴木晶子さん。大胆に見える選択の裏には、自身のキャリアに対する冷静かつ戦略的な判断がありました。

新卒で社員第一号に 経験値ゼロでも営業はできる

 知識も経験もない状態で営業することは全然怖くなくて、むしろ面白いと思っています。自分にとって全く未知の領域の人たちが何を考えていて、どう行動しているかということに興味があるからです。

シェルフィー ブランドマネジメント統括 鈴木晶子さん

 私が新卒で入社したのは、店やオフィスをつくりたい人と内装会社のマッチングを行う、スタートアップ企業のシェルフィーという会社。内装会社の方々はいわゆる職人さんなので、訪ねていっても「うるせえ!」みたいに怒鳴られることもしょっちゅうですが、私の人間性を否定されているわけではないのでつらいと思ったことはありません。それよりも、「前に来た営業が嫌な人だったのかな」「忙しかったのかな」と、怒られた理由をあれこれ考えてみたくなります。

 シェルフィーは2014年6月に創業しました。立ち上げのメンバーは、代表と一人目社員である私の二人だけ。お客さんや、後から入社したメンバーには「恋人同士ですか?」とよく聞かれましたが、もちろん違います(笑)。

 創業当時、私の仕事は楽しいけれどなんとも泥臭いものでした。シェルフィーは、顧客と内装会社をマッチングして直接つなげるウェブ上のプラットフォームです。内装会社についての情報から見積もりまでを、ワンストップで入手できる革新的な仕組みを作っています。そのため、まずは登録してくれる優れた内装会社を集めなくてはいけません。業界のことは何も知らなかったので、ひとまずパワーポイントで簡単な資料を作ってアポイントを取り、知ったかぶり9割で営業に行きました。

 「ヒアリングさせてください」と正直に言っても誰も時間をくれませんが、営業という体裁で行くととりあえず取り次いでもらえます。すると、「そんなのやらないよ、だって〇〇だから」と、断られる理由が聞けるんです。例えば、「似たようなサイトに登録したことはあったけれど、ろくな客が来なくて」といったように。逆にサービスを使いたいと言ってくれた人にも、どこがいいと思ったのかを聞くようにしました。

好みの洋服をレンタルできる「エアークローゼット」を愛用。「月火水はエアークローゼット、木金はワンピース。考えないで1週間のワードローブを回せるので楽です」(鈴木さん)


聞き役に徹することが信頼につながる

 いい話であれ悪い話であれ、まずはひたすら聞き役に徹して、仕事での困り事から家族のこと、どういう日常を送っているかということまで何でも聞く。そうすると、その人がどのようにコミュニケーションを取ってほしくて、何に価値を置いているかが見えてきます。そうして得たさまざまな情報を持ち帰り、事業づくりに生かすことを繰り返しました。

 人って不思議なもので、自分のことを一通り話すとこちらに信頼感を持ってくれるんです。「で、君が言いたいことって何だったの?」と、話し終わると聞いてくれる。「今のお話だと、うちのサービスのこことここが御社にとってメリットだと思います」とシンプルに説明するだけで、「じゃあやるよ」と契約に至ったケースは少なくありません。

 私のサービス説明は網羅性がないと他の営業メンバーからよく怒られるんですが、ありとあらゆることを聞いた上で、その人にフィットする部分だけをピンポイントで見せるのが私のスタイル。最初は門前払い同然だった人に、試行錯誤の末に話を聞いてもらえると達成感がありますね。

直感や勢いより、筋道立てて考えるタイプ。スタートアップの「社員第一号」という道も、リスクや将来を考えた上での判断だったそう


両親への反発から始まった就職活動

 就職活動を始めた当初は「エリートサラリーマンになってやる!」と思っていました。私の両親はそれぞれ事業を起こしていて、「会社員は人に使われる立場でリーダーシップがない。お前も起業しろ」とずっと言われ続けていたんです。そんな「決めつけ」の先入観に反発して真逆の道に進もうと、「給料が高くて、ブランド力があって、海外駐在ができる」という3つの条件を決めて会社選びをしました。

 条件にぴったり合う大手の外資系IT企業から無事内定をもらえると、時間に余裕ができたので両親の言う世界も一度は見てみようと思い、ベンチャーでインターンをすることにしました。そのとき上司だったのが、後にシェルフィーの代表となる呂(ロイ)でした。

 ベンチャーでの仕事は、いざやってみたらすごく面白いものでした。インターンであっても、権限も責任も社員と同じレベルで与えてもらえて、成果さえ出せば自分ですべて決められる。やっぱり親の血には逆らえなかったみたいで、社長の近くで仕事をさせてもらえたこともあり、「エリートサラリーマンになりたい」という思いはすぐに消えてしまいました。

たとえ倒産しても、人材として市場価値が高まる道へ

 インターン先から「うちに就職しないか」と言ってもらったのですが、迷いがありました。その会社は創業からある程度たち、ビジネスモデルがかなり出来上がっていたんです。私は社長から創業期の話を聞いていたので、むしろ会社が生まれる瞬間を見てみたいという気持ちが湧いていました。そんなときに、上司の呂から「会社を辞めて起業する」という話を聞きました。

 当時の彼の印象は、「会社員には向いていない人」。ものすごく成果は出していて優秀ですが、気を使ったり空気を読んだりせずにズケズケものを言うので、経営陣とも現場社員ともよくぶつかっていました。ただ、言っていることはすごく筋が通っているし、本質を見ている。この人と仕事をしたら面白そうだと思い、内定もベンチャーの誘いも断って、呂と一緒に働くことにしました。

 勢いで決めたように見えるかもしれませんが、私にとってはむしろ逆の選択です。スタートアップに行くことが、リスクがゼロでかつ成長できる環境だと判断しました。

 事業が成功したらもちろんそこで頑張ればいいし、たとえうまくいかなかったとしても、「大手で3年間同じ製品を売っていました」という人と、「3年間本気でスタートアップをやったけど倒産してしまいました。でも、立ち上げからすべて見てきました」という人とでは、後者のほうが人材としてははるかに市場価値が高いはず。それに「自分が頑張らないと会社がだめになる」という状況が、一番成長できると思いました。

 こうして、起業嫌いだったのが一転、私はスタートアップのシェルフィーで社員第一号になりました。

聞き手・文/谷口絵美 写真/西田優太


鈴木晶子(すずき・しょうこ)
シェルフィー ブランドマネジメント統括。高校時代に1年間のアメリカ留学を経験。横浜国立大学を卒業後、2014年にスタートアップ企業のシェルフィーに社員第一号として新卒入社。3年の間に営業、広報、人事、CSといった会社の主要部門の立ち上げに携わる。現在はブランドマネジメント部のマネージャーとして広報と人事を担当する他、新規事業を行う。趣味はヨガとクロスフィット。

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日経ウーマンオンライン

2017/08/21掲載記事を転載
経験ゼロ・新卒女子の「聞き役」営業戦略