キャリアプラン不要「人生を変える偶然」との出会い方

キャリアプラン不要「人生を変える偶然」との出会い方

2017/07/25

成功する人は、「偶然」をつくり出すことができる人

 「あなたのキャリアの転機は何ですか?」

 女性誌の記者となって30年以上たちました。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」の受賞者をはじめとして、仕事で大きな実績を上げた女性たちを数多く取材してきました。幸せにキャリアを築いているたくさんの女性たちに会いました。そういう女性たちに必ず聞く質問がこれです。

 あなたが輝かしいキャリアを歩くようになった分岐点はどこだったのかということを聞くのですが、そうすると、年齢も業界も仕事もこれまでの経歴も住んでいる場所もさまざまであるのにかかわらず、「偶然の出来事が転機になった」という女性が多かったのです。

 「たまたま参加したセミナーで…」「偶然見かけた記事がきっかけとなって」とか、ですね。
 今回は、女性たちを成功に導く「偶然の出来事」についてお伝えしたいと思います。

第1回「号泣の不本意な異動だったのに全く後悔していない理由
第2回「『私はダメ』自虐の無限ループ あなたのせいじゃない
第3回「キャリアプラン不要「人生を変える偶然」との出会い方」(今回はここ)

幸せにキャリアを築いた人の共通点は「偶然の出来事が転機となったこと」(C)PIXTA


たまたま読んだ5行の記事が、彼女の運命を変えた

 5月に出した新刊「仕事も私生活もなぜかうまくいく女性の習慣」の中にもたくさんの「ハッピーキャリア」な女性たちを紹介していますが、その中から二人の女性のケースをご紹介したい思います。

 「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞者の中でも印象深かったのが、2005年にリーダー部門を受賞した「ビッグイシュー日本版」編集長の水越洋子さんでした。なぜなら、彼女の場合は、偶然読んだ5行の記事が転機となったからです。

 ビッグイシューはホームレスの社会復帰を目的として、1991年に英国で誕生したソーシャルビジネスです。街角で「ビッグイシューはいかがですか」と雑誌を手に掲げて販売する光景を見た人は多いのではないでしょうか。その大きな特徴は販売者がホームレスのみということです。その日本版を創刊し、ホームレスに仕事を提供し自立を支援する事業を仲間と立ち上げたのが、水越さんなのです。

 10代の頃から福祉の仕事に就くと決めていた水越さんは、20代は保育士として働き、30歳でシンタンクに転職。38歳で福祉関係の著書を初出版し、「福祉と活字両方にかかわりたい」という若いときの夢を実現させます。そして40代で「ビッグイシュー」に出会うのです。

 「02年に、偶然、雑誌で読んだビッグイシューの紹介記事がすべての始まりでした。かねてからホームレス問題には関心があったので、『自分がやりたいことはこれだ!』と思ったんです」

 水越さんはその4週間後には渡英し、「ビッグイシュー・スコットランド版」発行人のメル・ヤング氏と会い、全面支援の約束を取り付けました。翌03年5月には有限会社ビッグイシューを設立、その9月には日本版を創刊します。07年には、就業を含めた総合的なサポートが必要と考え、ビッグイシュー基金を設立しました(08年NPO法人化)。創刊して既に14年、この間の販売登録者はのべ1728人にも上ります(17年2月現在)。

 水越さんがその雑誌を手に取らなければ、その記事を読まなければ、ビッグイシューのことも知らず、日本版創刊にもつながりませんでした。その5行の記事が水越さんの運命を変えたわけです。ホームレスという社会課題を解決する新たな事業の誕生につながったのです。

 水越さんを取材した当時、私は、雑誌「日経WOMAN」の副編集長でした。「偶然の出来事のすごさ」に感嘆するととともに、どうしたら、自分の人生を変えるほどの素敵な偶然に会えるのだろうと思いました。

主婦から人気FPへ。偶然参加したセミナーがキャリアの転機

 もう一人は「日経WOMAN」の連載でおなじみのファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんです。働く女性の気持ちに寄り添い的確にかつ詳細にアドバイスをする深田さんの人気は高く、日経ウーマンの連載は既に14年目に入りました。数多くの書籍を出し、セミナーはすぐに満員。まさに成功したFPである深田さんのキャリアの転機にも、「偶然の出来事」がありました

 そもそも深田さんがFPという仕事に出会ったのも偶然でした。深田さんは28歳で、「独立して自営業になるために」会社を退職しますが、その時点では何をするかは決まっていませんでした。そのときに書店で手に取ったマネー誌でFPという仕事があることを知り、興味を持ったのがFPになるきっかけでした(今の活躍からしたら信じられないことですが、最初、深田さんは、「FPという仕事があるのか、すごいな。でも、金融機関にいたわけじゃないから、私には無理だな」と思ったそうです)。

 その後、FP講座を受け、FPの資格を取りましたが、当時深田さんは一人の主婦に過ぎません。実務経験もなかったため、なかなかうまく仕事につながりませんでした。

 しかし、そのときにたまたま参加していたセミナーが大きな転機となります。セミナーに登壇した高名なFPが壇上で、「今、一人FPを育てているけれど、もう一人育てたいと思っている」と発言したのです。人気FPの言葉に、300人はいるであろう会場はざわめきました。セミナー終了後、彼のもとには名刺交換のために長蛇の列が出来ました。深田さんもその一人でした。

 そのセミナーが開催されたのは96年7月です。「たぶんみんな応募するし、すごい競争倍率になる。未経験の自分が応募してもどうせダメに違いない」とダメもとで履歴書を送りました。しかし、深田さんは見事合格、9月には彼の会社で働き始めます。第一線の有名なFPのもとでキャリアの第一歩を踏み出したのです。
「後にたくさんの人から『彼の会社で働けるのはすごい』『どうしてそれができたの?』と聞かれたんですが、なんと、履歴書を送ったのが、私だけだったんです」

 深田さんからこの話を伺って、私は本当に鳥肌が立ちました。その会場には何百人もFPやFPになりたい人が集まっていて、彼のもとで働きたいと思った人は何人もいたはず。しかし、”履歴書を送る”という具体的な行動を起こした人は深田さん、ただ一人だけだったのです!

 「いいな」「やりたいな」「やろうかな」と思った人はたくさんいたとしても、そこから行動まで起こす人は本当にごく少数なんですね。そして積極的に行動を起こしたごく少数の人がキャリアの次の扉を自分で開け、ハッピーキャリアの道を歩み出すのです。だから積極的に行動を起こすことが本当に大事なのです。深田さんの初期のキャリアのお話を聞いて、よりその感を強く持ちました(私が、「号泣の不本意な異動だったのに全く後悔していない理由」で「勇気を出して一歩踏み出しましょう」「積極的に行動しましょう」と書いたのも、そういうことです)。

偶然な出来事が起きたときに、どんな行動を取れる? (C)PIXTA

 これまで、目標を立ててコツコツ積み上げることが大事だと思ってきました。しかし、成功する女性たちを見ていると、それよりも「偶然の出来事」が大事だということが分かりました。私は50歳で法政大学大学院に入りましたが、そのときに、クランボルツの「計画された偶発性理論(Planned Happenstance)」を学び、「まさにこれまで取材した成功した女性たちのことだ!」と思いました。

 有名な理論なので知っている方も多いと思いますが、改めてご説明しますね。

「人生を変える偶然」との出会い方

 同大学院では、宮城まり子教授の「キャリアカウンセリング学」という授業で、この理論を学びました。宮城教授は、「計画された偶発性理論」を、著書「キャリアカウンセリング」(駿河台出版社)の中でこのように説明しています。

 「我々のキャリアは、それぞれ予期せぬ出来事によって決定される。そして我々が人生上遭遇するその予期せぬ偶発的出来事を上手に活用することによって、ただの偶発的出来事も自分のキャリア形成の力に変えていくことができる。それは一人一人の主体性であり、意識的努力によるものである。なぜなら、偶発的出来事が起きるその前には、自分自身のさまざまな行動が存在しており、その自分の行動が次に偶発的に起きるその出来事を決定しているともいえるからである」

 これまで、よいキャリアを築くためにはきちんと準備をしたほうがいいと思われてきましたが、クランボルツは、用意周到に計画的に準備できるものと思ってはいけないと言います。彼は1999年にこの理論を発表していますが、2005年に出版された彼の著書の日本語タイトルは、「その幸運は偶然ではないんです!」(ダイヤモンド社)。帯には、「もうキャリアプランはいらない」と書かれています。

 この世の中、何が起こるかわかりません。「ドッグイヤー」と言われるほど技術革新などの外部変化のスピードが速いのですから、計画的に準備したとしてもそれでは対応できない、想定外のことも多くなるのです。むしろ、キャリアは予期せず偶然の出来事によって決定されるとクランボルツは結論づけたのです。

 「たまたま読んだ雑誌の記事で」「偶然参加したセミナーで」などがそれに当たりますね。しかし、その偶然をつくり出しているのは何かというと自分自身。つまり、主体的に積極的に行動した当人がつくり出しているというわけです。

偶然をつくり出しているのは自分自身 (C)PIXTA

 たった5行の記事から新たな事業モデルを日本で創出した水越さんの場合は、その前段階として、「ホームレスを支援する」という社会課題に関心がありました。それを何とか解決したいという熱い思いがありました。だからこそ、その小さな記事にもかかわらず見逃さずにきちんと見つけることができたのです。普段から自分の興味や関心のむく方向で積極的に行動していくことが偶然を呼び込み、自らのチャンスをつくり出しているのです。

 キャリアは偶然の中で形成されること、偶然にもたらされた機会を大切にし、主体的にキャリアに生かして、偶然を意味のあるものへと転換させること。そして積極的に行動することによって偶然を自らつくり出すということなのですね。

 大学院で宮城教授から学んだ次の言葉は深く私の胸に刻まれました。その言葉で今回の原稿を締めくくりたいと思います。

 キャリア・チャンスは準備のある人のところにやってくる。
 キャリア・チャンスをつかむのも、自分の主体性である。

文/麓幸子 写真/PIXTA


「仕事も私生活もなぜかうまくいく
 女性の習慣」
 著者:麓 幸子
 出版社:日経BP社
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Profile
麓 幸子(ふもと・さちこ)
日経BP総研マーケティング戦略研究所長
日経BP社執行役員。1984年筑波大学卒業。同年日経BP入社。88年日経ウーマンの創刊メンバーとなる。2006年日経ウーマン編集長。12年ビズライフ局長。14年日経BPヒット総合研究所長・執行役員。15年日経BP総合研究所副所長。16年日経BPヒット総合研究所長を経て現職。法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。内閣府研究企画委員などを歴任。筑波大学非常勤講師。一男一女の母。著書に『女性活躍の教科書』『就活生の親が今、知っておくべきこと』など多数

Provider

日経ウーマンオンライン

2017/07/25掲載記事を転載
キャリアプラン不要「人生を変える偶然」との出会い方