世界が認めたケーキデザイナー29歳 キャリアの分岐

世界が認めたケーキデザイナー29歳 キャリアの分岐

2017/06/26

鈴木ありさ(前編)「世界に一つのケーキ」で幸せを届けたい

 結婚式や誕生日といった特別な日を祝う、その人らしいモチーフや言葉をあしらったアート作品のようなケーキ……。鈴木ありささんは、そんな「スペシャルティ・ケーキ」を手掛けるケーキデザイナーです。いわゆるパティシエとは全く違うアプローチのケーキ作りとは、一体どんなものなのでしょうか。

唯一無二のケーキは詳細なスケッチから生まれる

 「スペシャルティ・ケーキ」とは、簡単に言うと完全オーダーメードのケーキのことです。

 日本では記念日の特別なケーキというと、お店で決まったものの中から選ぶとか、好きな素材をオーダーしてメッセージプレートをのせてもらう、といったスタイルが一般的です。一方、スペシャルティ・ケーキは結婚式や誕生日、イベントごとなど、その日のためにデザインする唯一無二のもの。アートの要素が強く、私が製菓を学んだアメリカではパーティー文化の中で広く浸透しています。

スペシャルティ・ケーキデザイナー 鈴木ありささん。仕事場のキッチンにて

 お客様から依頼を受けると、まずは打ち合わせをします。メールや電話がほとんどですが、大きな作品やウエディングの場合は、一度は直接お会いします。どんな機会に、どんな方に差し上げるものなのか。ウエディングケーキなら、二人のエピソードや大切にしていることは何か。そういったことを伺った上でデザインを考え、かなりリアルなスケッチを描いて提案します。

 私はシュガーペーストという粘土のような素材で花やミニチュアを作り、デザインに取り入れるのが得意です。本物そっくりに作って、もちろん食べることもできます。車やパン、ギターなどその人が好きなものをバースデーケーキにあしらったり、ウエディングケーキを花嫁のブーケと同じ花で彩ったり。イニシャルなど、新郎新婦にまつわる要素をさりげなく盛り込んだりすることもあります。

鈴木さんが手掛けたケーキの一例。こちらは幼なじみの方のために作ったウエディングケーキ 写真/Alisa Suzuki Cakes


パン教室をされている奥様へ、旦那さんから結婚記念日のお祝いにと依頼されて作ったケーキ 写真/Alisa Suzuki Cakes

 「想像以上にすてきだった」「すごく感動した」。出来上がったケーキを見て、そんなふうに反響をいただけるのが毎回本当にうれしいです。サプライズのケーキだと、パーティーの場にお届けして、私がそのままプレゼンターも頼まれることが結構あるんですよ。一瞬みんな「誰?」って感じになりますが(笑)、もらった人の驚きと、計画した人たちの「うまくいった!」っていう反応を目の当たりにできて楽しいです。

スペシャルティ・ケーキとの出合いは母がきっかけ

 スペシャルティ・ケーキの原体験は、子どもの頃に母が作ってくれたケーキです。母もアメリカに留学経験があって、日本にはないパーティー文化や、母親が子どものキャラクターに合わせてバースデーケーキを手作りすることを面白いと思ったようです。

 スペシャルティ・ケーキという言葉はたぶん知らなかったと思いますが、アメリカで毎年発売されている「ウィルトン イヤーブック」という家庭向けのケーキデコレーションの本を手に入れて、レシピを見ながら毎年違うケーキを作ってくれました。

鈴木さんの目標は「日本でスペシャルティ・ケーキの文化を広めること」

 例えば、8歳のときは丸をくりぬいて二つつなげて「8」を表したデザインでした。ディズニー映画に出てくるような、すごく小さな3段ケーキを作ってくれたこともあります。色もカラフルで、友達の誕生パーティーで見るものとは全然違いました。

 私自身も中学2年生の頃からケーキを作り始めました。元々ものづくりが好きで、母のイヤーブックの写真を見ているうちに「ケーキもアートなんだ」と興味を持ったんです。初めて作ったのはハロウィーンのとき。オレンジや紫のカラフルなカップケーキを学校に持って行ったらみんなすごく喜んでくれて、それがうれしくて。すっかりはまりました。

ケーキ作りが自分のキャリアと結びついた瞬間

 そんなケーキ作りがビジネスとして成り立つものだと知ったのは、大学時代に友人が住むアメリカのボストンに遊びに行ったときです。アメリカには何百万円もするウエディングケーキを作るデザイナーがいて、テレビではスペシャルティ・ケーキを紹介する番組がいくつもありました。日本人はかわいいものがすごく好きだし、需要はきっとあるだろうと思ったんです。

 大学をやめてニューヨークの製菓学校に入学し、フランスなど世界中の調理法と、ケーキデザインの技術を学びました。ただ、アメリカのデザインケーキは正直に言って味よりもデザイン重視。日本でやるなら日本人の舌に合う、食べてもおいしいものにしないとダメだと思いました。

製菓学校の卒業祝いに両親から贈られたケーキナイフとケース。ケースは手作りで、鈴木さんの子どもの頃の洋服をリメイクしたものだそう


プロポーズ前に依頼されたウエディングケーキ

 2014年に帰国してからは、自分でレシピをいろいろ考え、甘過ぎず、バター控えめで日本人の口に合う味にたどり着きました。

 依頼の中心はウエディングと誕生日、企業のイベントなどです。あとは芸能界の方の誕生日。渡辺直美さんがプロデュースするブランドの広報で友人が働いている縁で、直美さんのバースデーパーティー用にサプライズのケーキを作らせていただいたりもしました。

 毎回のお仕事にたくさんのストーリーがあるのですが、印象的なものの一つが、昨年結婚した中学の同級生のウエディングケーキです。東京から一時期広島に引っ越していたときに1年間同じクラスだっただけなのですが、ずっと関係が続いている数少ない友人の一人です。長く付き合っている彼がいて、まだプロポーズもされていないうちからケーキを作ってほしいと頼まれていました。

 いよいよ結婚することになって打ち合わせをしたのですが、彼女があまりにケーキのことを考え過ぎて、どんなものにしたいのか分からなくなっていたんです。「とりあえず思いつくアイデアを持ってきて」と頼んでいろいろ出してもらったのですが、なかなかまとまらず。

 それでいったんすべて白紙にして、一から考え直すことにしました。彼も交えていろいろ話し合っているうちに、二人を象徴する言葉を入れてはどうかという話になったんです。

 その頃黒板をモチーフにしたケーキがはやっていたので、ケーキの一番下の段を黒板に見立てて、「人生は、親友と一緒の方がもっと楽しい。だから私は私の親友と結婚するの。」という英文を入れることにしました。二人は7、8年くらいの本当に長い付き合いで、けんかもするけれど、仲の良い友人のような関係でもある。これがぴったりだと、わずか1時間のうちに意見が一致して。式の当日、出来上がりにも大満足してくれました。

 日本は結婚式の会場にケーキを持ち込めないことが多いので、ウエディングケーキの依頼の多くは、芯を発泡スチロールで作るフェイクケーキなんです。だからこそ後々まで残ります。結婚して何年かたって、そのケーキを見るたびに「あのときにこういうふうに考えたよね、こんな式だったよね」と思い出せるようなものになってほしい。そう思いながら大切にデザインしています。

聞き手・文/谷口絵美 写真/西田優太


鈴木ありさ(すずき・ありさ)
スペシャルティ・ケーキデザイナー
大学在学中に訪れたアメリカ・ボストンでケーキビジネスの存在を知り、日本でスペシャルティ・ケーキの文化を広める存在になることを決意。2009年にニューヨークのThe Culinary Institute of Americaのペイストリーアーツ学科に入学し、製菓やケーキデコレーションの技術を学ぶ。2年次には国際コンペティションで最優秀賞を獲得。帰国後、「Alisa Suzuki Cakes」を立ち上げ、現在は国内で結婚式やイベント向けにケーキを製作するほか、レシピ開発なども行っている。著書「ALISA SUZUKIのスペシャルティ・ケーキとデコレーション」が7月13日に発売予定

Provider

日経ウーマンオンライン

2017/06/26掲載記事を転載
世界が認めたケーキデザイナー29歳 キャリアの分岐