どこででも働ける自分を目指して難関資格に挑む

どこででも働ける自分を目指して難関資格に挑む

2019/05/15

産前にも挑戦していた「弁理士」の資格試験。逆境を味方につける育休中の勉強法とは?

育休中に、復職後のキャリア形成に向けてスキルアップや資格取得に励む人が増えています。とはいえ、これから育休に入るママたちの中には「何をすればいいの?」「どうやって学べばいいの?」「そもそも育児と両立できるの?」といった疑問や不安もあるのではないでしょうか。

この連載では、育児と学びを両立している人、育休中にスキルアップを果たした先輩たちのリアルな声をお届けします。今回は、海外で働くことも視野に入れ、弁理士の資格を取得したママのストーリー。子どもが生まれる前にも挑戦してきた資格ながら、子どもができて「無理をしない」と決めたことが功を奏し、スムーズな合格につながったそうです。逆境を味方に付ける育休中の勉強法とは、一体、どのようなものだったのでしょうか?

夫の転勤先でも働ける自分でいたかった

 育休に入る前から、弁理士の資格取得に向けて勉強してきたという西田聡子さん。弁理士とは、特許などの権利化を担う知的財産の専門家です。毎年、合格率が1桁という難関資格の一つに数えられますが、西田さんが弁理士を目指すようになったのは、パートナーの影響によるものだったそうです。

 「大学院に通っていた頃、結婚しました。国内外への転勤がある彼の仕事を優先するとなると、転勤するたび、私が仕事を辞めることになります。資格さえあれば、どこででも働くことができると考えたのが、最初のきっかけでした」

 当時は、大阪の特許事務所で働いていた西田さん。理系の知識を生かせること、国が知的財産保護の重要性を訴え、試験の合格者を増やす施策が進められていたことも後押しして、勉強をスタートしました。しかし、数年後には、夫の転勤で東京に引っ越すことに。

 「特許庁の任期付職員として働くことになりました。当時の業務は、弁理士との関連も薄かったので、勉強は一時中断していました。再び取り組もうと思ったのは、一人目の子どもを出産したタイミングです。育休中であれば、まとまった時間が取れると思いました」

育休中に超難関である弁理士資格を取得した西田聡子さん


限られた時間しかないから、インプットするためのツールは一冊にまとめる

 幼い子どもを抱えての、試験勉強が始まりました。そんな西田さんが、最も重視していたのは「無理をしないこと」だったそうです。

 「子育てと両立しながらの勉強は、子どもが急に熱を出すこともあり、予定通りに進められるとは限りません。ぎっしり予定を詰め込んでも計画通りに進まないばかりか、子どもにしわ寄せがいってしまうので、それだけは避けたかったんですね。弁理士試験は、短答試験・論文試験・口述試験の3つがあり、一度合格すると数年間はその試験が免除されます。まずは、短答試験だけ合格すればいいと考えることにしました」

 とはいえ、弁理士は超が付くほどの難関資格。限られた時間の中で、西田さんはどのように勉強を進めていったのでしょうか。

 「まずは勉強範囲を広げ過ぎないようにしました。以前は、あらゆる試験範囲を網羅することを重視していましたが、この時、条文を覚えるために使用したのは、弁理士試験の基本である『四法対照法文集』だけ。法文集には、特許法・実用新案法・意匠法・商標法の4つがありますので、そこに必要な情報を書き加えていって、インプットするツールを一冊に集約しました」

さらにはこんな工夫も。

 「色分けによるマーキングで、効率よく暗記できるよう、赤、青、黄色、緑のマーカーをフル活用しました。項目によって色分けする際には、ネガティブな事例には青、ポジティブなら赤のマーカーを割り振るなどして、直感的に記憶できるよう工夫していました」

弁理士試験の基本となる『四法対照法文集』。ほぼこの一冊を暗記していなければ合格はできないのだとか

 一冊にまとめたことで、幼い子どもと外出する際にも常に携帯でき、電車での移動中にも、復習する時間が取れたといいます。

 「隙間時間をフルに活用していました。家事を行いながら、子どもが生まれる前に通っていた資格スクールの授業の音声データを流したり、子どもが眠ったタイミングで、いつでも勉強に取り掛かれるよう、勉強道具をいつも机の上に出しっ放しにしたり。あえて時間を捻出するのではなく、私自身が、瞬時に勉強モードに切り替えられるよう工夫していました」

 小さな成功体験を積み重ねていくことも、新しい挑戦を継続させるためのポイントです。西田さんの場合、日々の勉強記録を付けることがモチベーションアップにつながったといいます。

 「どれくらいの時間、どんな勉強をしたのかを毎日記録していたところ、しっかり前進できている実感が得られました。日々の頑張りを“見える化”できたからこそ、諦めることなく続けられたのだと思います」

資格の存在が転職の大きなアドバンテージに

 その後、西田さんは、1年4カ月の勉強の末、ついに弁理士資格を取得します。日々の業務が劇的に変わることはなかったそうですが、精神的には大きな変化がありました。

 「私にとって弁理士の資格は、お守りのような存在です。仕事を続けていく上での自信につながったのはもちろん、『将来、どこに夫が転勤になっても何とかなる』と思えるようになったのは、非常に大きかったですね」

 弁理士のように、特許に関わる仕事は、実はとてもグローバル。海外から日本に出願するケースがあるだけでなく、逆に、日本で出願してから、中国やアメリカに出願するケースも少なくないからです。西田さんはその後、二人目の子どもを出産したタイミングで、夫について渡米しました。その際には、現地でもまた、育休を利用して資格取得を目指したといいます。

 「日本の弁理士資格はアメリカでは使えませんので、アメリカの特許制度を学び、現地で資格取得できればと考えました。結果は伴いませんでしたが、知識の幅がグンと広がった実感はありました」

 育休を「学びのチャンス」と捉え、スキルアップをし続ける西田さん。その頑張りは、その後のキャリアにも大きな影響を与えることになります。

 「帰国後、任期付きだった特許庁の契約が満了となったので、就職活動を始めました。その際、弁理士の資格がアドバンテージとなり、次の就職先がすぐに決まりました。現在は、IT業界に特化した特許業務法人で、特許出願等の業務を担当しています」

 西田さんにとって、弁理士の資格は、どこへ行ってもできる仕事に就くお守りのような存在でした。しかし、それは同時に、新たなキャリアを切り開く武器となったのです。育休中に勉強を再開し、子育てと両立しながら超難関資格に挑戦したことは、大正解だったと語ります。

 「ママであっても、夫の転勤があっても、やっぱり私は働いていたかったんですね。資格取得はそのための手段です。ただ、一方では、自分を追い詰めてまで、資格取得のために勉強する必要はないとも思っています。たとえ資格が取れなかったとしても、育休中に頑張って学んだ知識やスキルを生かすチャンスは、いずれ巡ってくるはず。焦る必要はないと思います」

取材・文/佐野勝大

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日経DUAL

2019/05/07掲載記事を転載
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