現場対応の繁忙部署がチーム全体で働き方改革

現場対応の繁忙部署がチーム全体で働き方改革

2019/05/08

ANA【前編】2カ月の育休を取って復帰したら、残業が10分の1に減った

全日本空輸(以下、ANA)。ダイバーシティ&インクルージョンを推進してきた同社では、イクボス養成や男性社員の育児休業も積極的にすすめて、仕事と子育てを両立しやすい環境を整えてきた。前編では育児休業を取得した男性社員に登場いただく。

<ANA取材リポート>
【前編】 現場対応の繁忙部署がチーム全体で働き方改革←今回はココ
【後編】働き方の選択肢を増やしたANAの秘策

妻の妊娠と同時に上司に育休取得を打診

 男性育休取得率の低さを社内の問題として、取得率を上げるために人事部がいろいろな施策を展開しているANA。育休を取る際のフローやイクメンになるメリットなどを掲載した『ANAイクボス&イクメンHANDBOOK』というオリジナル小冊子を配布したり、男性社員で育休を取得していない場合、上司経由で取得を促進する案内を発信している。男性の育休取得率は1.9%(平成25年度)から、5%(平成28年度)、7.2%(平成29年度)と確実に成果を上げている。

 3歳6カ月と、10カ月の姉妹の父親である石井孝幸さん(36歳)も育休取得者の一人。石井さんが所属するのは、現場で働く整備士をサポートする機体技術部。運航中の航空機において、整備が必要となったときに現場に駆けつける整備士をフォローするため、チームスタッフは交替で365日スタンバイしていなければならない。そのため、4日働き2日休むシフト勤務と、カレンダー通りの勤務が周期ごとに入れ替わる変則的な勤務体制だ。そんな半シフト制の部署で、石井さんは第二子誕生時に2カ月間の育休を取得した。

整備センター機体事業室 機体技術部 原動機運用技術チームの石井孝幸さん


「ANAイクボス&イクメンHANDBOOK」

 「実は当初は育休ではなく、週2日あるいは3日働く短日数労働制度を利用しようと考えていました。しかし、妻が産後、育休の場合にはこの制度が使えないことが分かったため“育休を取ろう”と決意したんです」と石井さん。

 育休取得を決めた理由は、一人目の時よりもつわりが重く、動けない状態が続いていた奥様をサポートするため。上の子の保育園があるため里帰り出産はできず、お互いの実家に手伝いを頼むのも難しい状況だった。妊娠が分かってすぐに、夫婦で膝を詰めて話し合ったという。

 「妻は体調に不安があったようで“育休を取ってもらえたらありがたい”とのことでした。さらに、夫婦の懸念は当時2歳だった長女のこと。転居で保育園を転園したばかりで、夜中に叫んで泣き出すなど精神的に不安定だったので、下の子が産まれてさらに大変になることが予想できました。私が家事全般と長女のフォローをするのがベストという結論になりました」

 石井さんが上司に育休取得の意思を伝えたのは妊娠判明後すぐのこと。かなり早い段階だったのには理由があった。

チームの業務量はピーク。穴を埋めるためにチームの働き方を改革

 石井さんの所属するチームは全員男性で、育休取得者は石井さんが初めてのケースだった。チームのメンバーも上司も育休取得には好意的だったが、現実問題としてチームの仕事をどう回していくか、上司は戸惑っていた様子だったという。

 「当時は現場の整備作業が多く、サポートするチームの業務量も増加していました。チーム全員が属人的な仕事のやり方で乗り切っていたので、誰かが一人でも欠けると仕事が回らない状況。しかし、この働き方を続けていたら、みんなが行き詰まると危機感を抱いていました。上司に育休取得を願い出ると同時に、仕事のやり方を変えるべきだと提案したんです」

 石井さんが育休に入るまでの数カ月間で、チームの仕事のやり方を見直すことになった。一人ひとりが抱えていた仕事は、誰もが担当できるように手順書を作り、プロセスを簡略化した。結果的に、石井さんの育休取得が、チームの働き方の改革につながった形だ。

 育休を2カ月に設定した理由は何だったのだろうか。

 「2カ月か3カ月かで迷いましたが、2カ月が仕事に影響しないギリギリのラインかなと。それまで12カ月かけて出していた成果を、2カ月の育休を除いた残りの10カ月で出すことでカバーできると思いました。さらに、当時社内的にも業務量の増加が認識されていた整備関連の部署から男性育休取得者を出し、なおかつ部内のパフォーマンスを下げなければ、社内的にもうちの部署の評価が高まるのではないかと上司にメリットを話しました」

 チーム内の仕事の仕組みを整え、石井さんは心置きなく2カ月間の育休に入った。

2カ月の育休後、残業が10分の1に減った

 育休に入ってからは、石井さんが長女の保育園の送迎、食事作り、買い物などの家事全般を担当。産後に体調が思わしくなかった奥様は、体を休めながら次女の世話に専念することができたという。

 「妻が二人目を出産する前の夫婦共働き期間も、家事は結構やっていたほうだったので苦にはなりませんでした。大変だったのは、保育園の給食メニューとかぶらないように献立を考えること(笑)。あとは長女の保育園の送迎にはちょっと苦労しました。私が会社を休んでいることを察して“パパがいるのになんで保育園に行くの?”と言われてしまい、わざわざスーツを着て保育園に送っていったこともあります。でも、そのうち長女にも育休中であることをきちんと話し、平日に保育園を休ませて二人で遊びに行く日を設けたりしました」

 育休生活も1カ月を過ぎた頃には余裕が出てきて、後半は異業種交流セミナーに参加したり、通信教育でスキルアップを図ったりと、普段はできないことにチャレンジする有意義な時間になったという。

 「育休を取得してみて、自分の人生の中で仕事が大きなウエイトを占めることがわかりました。後半の1カ月は“早く仕事がしたいな”と思っていましたから。休職中も部内の状況を確認できる仕組みはあったので、スムーズに復職することができました」

 復職すると、チームには嬉しい変化が起きていたという。「仕事の効率化が一層進み、チーム全員で協力して残業を減らそうという意識が高まっており、2017年に比べると残業時間も10分の1になりました。育休取得後は、決められた時間で成果を出すことにより意識が向くようになり、“早く帰りたい”ではなく“早く帰る”と決めてパフォーマンスを落とさずに仕事に取り組むようになりました」

上司にできるだけ早く意思を伝えることが大切

 石井さんのケースのように、替えがきかない多忙を極める部署で、育休を上手に取得するにはどうしたらいいのだろうか。

 「まずは早い段階から取得の意思を上司に伝えて、人事制度を自分で調べておくこと。調べるところで時間をとられたりもするので。私の場合は、育休取得が自分の働き方や、チームの仕事の進め方を見つめ直す、いいきっかけになりました。万が一、上司にいい顔をされない場合でも、育休取得のメリットを話すことで周囲の反応も好意的になるのではないかと思います。私の場合は、上司が理解のある人だったので、そこはありがたかったなと思います」

 石井さんは育休後も積極的に家事育児を担っている。自身も公務員の両親の元で育ち、父親が積極的に家事育児に参加していた環境で育ったこともあり、妻のサポートは「当然のこと」と言う。

 「来年の4月には妻も復職予定で、2人の子育てをしながらの共働き生活が始まります。姉妹で同じ保育園に入れるかどうかによっても大変さは変わってきますが、妻が復職することに不安を感じないよう、自分もできる限り協力していくつもりです。

取材・文/中島夕子  写真/鈴木愛子

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日経DUAL

2019/04/25掲載記事を転載
現場対応の繁忙部署がチーム全体で働き方改革