渡辺真理 介護と仕事、両方あるからバランスが取れる

渡辺真理 介護と仕事、両方あるからバランスが取れる

2019/07/24

テトリスのように美しくはめこみ、一筆書きのように最短距離を考える

ARIA世代には避けることのできないテーマ「親の介護」。終わりの見えない状態だと聞きますが、どれだけ大変なのでしょうか? 働きながらの介護生活はできるのでしょうか? 両親の介護を20年間続けているアナウンサーの渡辺真理さんと、日経ARIA編集部が「親を介護するということ」をテーマに往復書簡で気持ちをつづります。

拝啓 渡辺真理様
 お手紙をありがとうございます。S子さん、Y子さんとのエピソードを通じて「介護職の方々にも、それぞれの生活があり、家族があり、それぞれに人生の節目も訪れる」ということが、よく分かりました。
 本日は、お仕事と介護の両立についてお尋ねします。渡辺さんは不規則なお仕事だと思います。介護との両立で、工夫していることはありますか。急なお仕事などで、困ったことはありますか。
敬具
テトリスのように24時間に美しくはめこんでいく

拝啓 ARIA様

 仕事と介護の両立、難しいですよね。できているかと問われると、自信を持って「できています!」とまでは言い切れない日常かもしれません。端的に言うと、かなりバタバタな毎日です。

 ただ、これまでのお手紙でもお伝えした通り、療養している親と同居しているから仕事との両立が大変なのか? と自問すると、私の場合はそれが理由でもないだろうと思うのですよね。

 たとえ、独り身であっても、犬やネコたちと大所帯で暮らしていなくても、人生の晩秋を迎えた親と同居していなくても、勝手にバタバタと忙しく立ち回っている性分なのではないかと思います。だからピンポイントのお答えにはなっていないかもしれませんが、1サンプルとして自分の日常を表現してみると……。

 ゲームのテトリスのように日々、過ごしています。

 空いたスペースにピタッとはまるブロックを積んでいく、あれです。ちなみに全くゲームには疎く、テトリスも2、3回やったかな? くらいなのに比喩に使うのも申し訳ないのですが、要は、24時間の中に“これをここに入れたらはまる”、“あれは後回しにしても大丈夫”と、まさにテトリスのように、全てをできる限り美しくはめこんでいく。この感覚が近いのではないかと感じます。

母の好物。プリンやババロアはペロッと食べてくれる日も


一筆書きで最短距離・時間を考えて行動

 殿方より女性たちの方が、脳の構造からしても、マルチタスクが得意なんて聞きますけれど、時間軸で急がなければいけない順位と、物理的にしなければいけない順位、仕事を含めそれぞれの諸用が要する予想時間をいっぺんに頭の中の座標上に置いてみて、どうすれば一筆書きで最短距離、最短時間で収まるかな? とシミュレーションしつつ行動してみると、結構収まるようになる、そんな感覚です。

 主婦の友達と話していても、かなり皆さん、無意識のうちにこんな行動原理で動いていらっしゃるのじゃないかな、と感じています。

 具体的に言うと(ものすごく地味な事柄が並ぶので恥ずかしいのですが)、冷蔵庫の有りモノで今日はいけるけど、明日は無理かなとチェックした上で、母や家族の食材を買いに出て、ついでに母の処方薬やエンシュアリキッド(栄養剤)を薬局が開いている時間内にピックアップし、そのまたついでに郵便局と父ののこした会社に寄って用を済ませ、帰る途中で自宅近くに住む主人の母の様子を見にマンションに顔を出す……これだと一筆書きの動きになるわけです。

 日々ちょこまか立ち寄る場所も多いので、基本的に自分で車を運転して仕事にも向かうのですが、どうはめこんでも時間がダブついてしまう場合は、車の中に翌日の仕事の資料を置いておいて静かな木陰に停めて目を通すとか。

 パンが好きなので、車の中で移動中に好きなパンをかじって食事を済ませても全くストレスにならない得な性分でもあります。何より、全てをうまくはめこめた1日は、ささやかに自分を褒めたくなって発泡酒もおいしく感じるという特典も。

左:庭のすもも。小ぶりなのに意外と甘く、母の部屋に飾ると良い香りが/右:栄養剤エンシュアリキッドをアイスクリームにすると、よく摂取してくれます


仕事の依頼は熟慮して受けるように

 ただ、ご質問のように「急な仕事で困ったことは?」については、急に困らないように、それ以上に先方を困らせることにならないよう、仕事のご依頼をいただいた段階で熟慮してお受けするようにしています。気づけば仕事を始めて30年近くがたち、「一緒にやりましょう」と声をいただく機会がどれだけ稀有(けう)なことか、新人の頃の数倍、実感する50代です。

 せっかくのご依頼をお断りするのは勇気が要るものの、バタバタした日常を含めて自分の両腕にどれだけ抱えられるかという容量は把握していなくてはと、肝に銘じてもいます。母や家族と過ごす時間、そのためにかかる時間も選択のひとつ。今それを選ぶということは、振り返った時、取りも直さず選ばなかった選択肢が集積されていくことにもなります。

 でも、いつかきっと本当にご縁のある仕事や人ならば、無理なく実る時が来ると信じて、その時々にしかできないことを誠意を持って選択していく、これ以外にないのではと思っています。

 文字にすると、なんて当たり前のことを書いているのだろう……と恥ずかしくなりますが、正直につづるとこんな日常です。でも不思議ですよね、仕事と家と両方があることで精神的なバランスは取りやすいのも事実で……。

 頑張ってもうまくいかなかった仕事の憂さは家事にぶつけ、単調な家事に疲れたら手を休めて、仕事の資料を読み込んだり。ずっと同じ姿勢で椅子に座ってるとお尻が痛くなりますけれど、ちょっとずつズラすことで痛くもならず、視点も変わるような感じでしょうか。

 これ以上お答えしようとすると、もっと地味な日常に突入しそうなので、ここらへんで切り上げます。いよいよ、夏本番。思い出に残る夏となりますよう。

文、写真/渡辺真理

Profile
渡辺真理(わたなべまり)
フリーアナウンサー
1967年神奈川県横浜市生まれ。横浜雙葉学園小中高、国際基督教大学卒業後、TBSにアナウンサーとして入社。98年にフリーに。現在は、テレビ、雑誌、ラジオ、など幅広く活動している。ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」ではお菓子のコラム「マリーな部屋」を連載中。

Provider

日経ARIA

2019/07/19掲載記事を転載
渡辺真理 介護と仕事、両方あるからバランスが取れる