MBA留学 最も冷や汗をかき、ためになった授業とは?

MBA留学 最も冷や汗をかき、ためになった授業とは?

2019/05/15

留学期間の18カ月でどこまで「皮」をむけるか

元新聞記者で、現在スペイン・バルセロナでMBA留学中の竹本恵さん。第3回は、MBAで具体的にどのようなことを学んでいるのか、授業や授業以外の学びの場について教えてもらいました。竹本さんが最も冷や汗をかいた授業の中身は? 「世界一、予約が取れないレストラン」と言われた「El Bulli」(エル・ブジ)のオーナーシェフのフェラン・アドリア氏とESADEが共同で実施するコンペに参加し、最終選考まで進んだことや、アドリア氏から直接、経営について学んだという貴重な体験も紹介します。

入学の半年後に卒業時期を決める

 前回は主にMBA入学に関する内容をお伝えしました。今回は入学後の生活についてお話ししたいと思います。

 私が通っているESADE Business School(エサーデ)は履修期間を12、15、18カ月の中から選ぶことができます。個々の学生の希望に合わせて選べる柔軟性の高さが特徴です。ビジネススクールの中でも比較的、珍しい取り組みではないかと思います。しかも決める時期は入学後、半年以上たってからです。

 基本的には、最初の12カ月が必修で、15カ月の場合はインターンシップか留学、18カ月の場合はインターンと留学の両方ができる、ということになっています。必修期間が12カ月と言っても、9月に授業が始まり、おおむね3カ月からなる3つの学期をこなし、6月下旬には長い夏休みに入ります。12カ月卒業の人は2~3学期から選択科目を取り始め、夏休みに選択科目の集中講座を取るなどしてすべての単位を取り終えることになります。

 インターンや留学は必ずしなければいけないものではなく、例えば私は18カ月卒業ですがどちらも予定していません。必修が終わった後は、起業に向けた自分のビジネスに充てる時間にしたいと考えています。

 日々の生活で言うと、毎日の授業は朝10時から始まります。11時半から30分の休憩を挟んで午後1時半まで、午後も同様に2時半から6時までになります。3時間半は長いです。そして長く感じる授業もあればあっという間の授業も。1学期の間は、月曜から金曜まで午前、午後共に授業が入っていることが多かったですが、2学期以降は週に2回ほどが午前・午後、それ以外は午前か午後のどちらか、といったイメージでいます。また、火曜と木曜は午後6時すぎから8時半まで、スペイン語の授業があります。


 クリエイティビティの授業の一コマです。ビジネスの世界に限って言うと、クリエイティビティはセンスのある一部の人が持っている才能ではなく、身に付けることができるスキルです。この授業を通して、新しいアイデアを生み出すためのきっかけや考え方などのツールをたくさん学びました。使いこなすには時間がかかりますが、いろいろな場面で応用ができそうです
MBAの真骨頂、ケーススタディから何を学ぶか

 スペインは昼食の時間が午後1~2時からと遅く、同様に夕食も8~9時からが一般的です。しかもスペイン人は一日に7回食事をするのだそうです。同級生にスペイン人がほとんどいないので、あえて地元生活に合ったスケジュールにしているのかどうかは定かではありませんが、だいたい昼休み前はおなかが減って仕方なくなります。と言って昼食をのんびり学食で食べていると宿題などがたまる一方なので、私は学内のカフェテリアで調達したサンドイッチを片手に、宿題や予習などに充てていることが多いです。

 さて、必修の授業の中身はというと、経済学や会計から経営戦略、マーケティング、運営管理、クリエイティビティ、イノベーションまで、多岐にわたっています。ほぼ講義形式の授業もあれば、議論・討論が多いもの、チーム作業中心など、授業の形式もさまざまです。その中でも一般的に、ESADEに限らずMBAの授業の特徴の一つと言えるのが、ケーススタディだと思います。

 簡単に言うと、ある企業とその経営者を取り巻く環境や、直面する課題などを書いたおおむね10~20ページの文章(ケース)を事前に読んで分析し、与えられた問いについて授業で議論しながら、当該企業だけでなく一般的に当てはまるような戦略、考え方、知識などを学んでいく、というものです。

 例えば国際経営戦略の授業で、2008年当時の新日本製鉄のケースがありました。鉄鋼業界で世界的に買収が盛んになっていたこと、国内の需要拡大は見込みにくいこと、しかし自動車業界を中心とした顧客への安定供給が必須であること、さらには社会貢献の使命も自負していること、といった背景と併せ、宗岡正二社長(当時)が「同社の真の国際化が欠かせない」と考えていたことなどがケースで描かれていました。

 授業では例えば、なぜ宗岡氏は同社を国際化したいと思ったのか、そのためには、海外企業の買収や自社で進出するなど、どういった選択肢がいいのかについて議論しました。これをもとに、そもそも企業はなぜ国際化したいと考えるのか、国際化するにはどういった要素が必要か、などについて学びました。議論に正解はなく、実際にその後に当該企業が選択した戦略が正しい、というものでもありません。

 上記のケーススタディのように、ほとんどの授業は予習が必要で、さらにチームで課題を提出する、ということも頻繁にあります。と言ってもすべての授業に全力を注げるほど時間があるわけではないので、肩の力を抜きながら、優先順位を付けながら、それでも日々何かに追われながら生活しています。

 次に、私が最も冷や汗をかき、しかし最もためになったと思っている授業を紹介したいと思います。

スライド5枚分、1分40秒の英語を丸暗記

 その名も「コミュニケーション・スキル」。

 話し方や身ぶり・手ぶり、プレゼンテーションの仕方などを学ぶ授業です。そもそも私はコミュニケーション能力があまりないと自覚しており、さらにこれまで、人前でプレゼンする機会などほとんどありませんでした。ですので、英語でプレゼンは何度やってもかなり辛かったです。

 最終回の授業で、各チームが二つに分かれ、割り当てられたテーマについて討論する、という課題の発表がありました。「Pechakucha」形式という、スライドが20秒ごとに自動で切り替わる設定でプレゼンする、という難易度の高い条件付きです。Pechakuchaというのは20秒など決められた一定の時間で、自動的にスライドを切り替える形式のプレゼンです。各発表者が20枚のスライドについて20秒ずつ説明するという、2003年に日本で始まったトークイベントが起源になっているようです。

 私たちのチームに与えられたテーマは「闘牛」で、私は反対派。その中で闘牛がいかに残酷かというパートを担当しました。一人の担当はスライド5枚分、1分40秒です。考えながら話せるほど英語が得意ではないので、取れる対策はただ一つ、完全丸暗記。それでも一度つまずいたらアウトです。

 何十回と練習を繰り返し、私が話した内容はこちらです。

 「皆さん、毎年、何頭の牛が闘牛のために殺されているか、考えたことがありますか?ーー20万頭です。槍やナイフで繰り返し切り付けられた牛は、弱り切り、意識がもうろうとした中で、じわじわと苦しみながら死んでいくのです。これは残酷という以外のなにものでもありません!」。私は反対派の先鋒だったので、このような形でプレゼンを切り出しました。3カ月以上たった今でも1分40秒分の文章を丸々、暗誦することができることに今、気付きました。

 最後は何とかいい発表ができましたが、本当に何かと冷や汗をかいた授業でした。他の授業などでもプレゼンの機会はそれなりにあり、かつ、こういう類いのものは慣れ・経験がものをいうので、本当にためになった授業でした。


 3学期に入ってネゴシエーションやエシックスなどの授業が始まりました。チームメンバーも新しく変わり、インド、チリ、ブラジル、エジプト、ポルトガル、そして日本という編成です。夏休みに入る前に、このメンバーと一緒にマスタープロジェクトという課題に取り組むことになります。詳細はまだよく分かっていないのですが
ケースコンペティションは年中開催されている

 さて、MBAは授業以外にもさまざまな活動があります。その中でもMBAらしさを強く感じるのが「ケースコンペティション」です。日本語だとビジネスコンテストと言ったほうがイメージしやすいかもしれません。

 内容や形式は多岐にわたりますが、基本的には、まず自主的に3~5人程度のチームを組んで応募し、与えられたケースや課題、テーマに対して、事業プランを提案して競う、というものです。書類審査のみの一次選考があり、最終選考では選ばれたチームがプレゼンするという形が多いように思います。主催者は企業や団体などさまざまで、年中、どこかで催されています。

 ケースコンペは全く参加しない人もいれば、授業よりもやりがいを見いだしている人もいます。私はどちらかというと後者で、これまでに四つに参加しました。そのうち二つが最終選考に残り、一つは書類選考で落選、もう一つは応募したもののどうしても事業プランを提出できませんでした。締め切り直前に、自分たちのアイデアとほぼ同じ事業が、実際に現在進行中だと判明したためです。そこから代替案が出せずに悔しい思いをしました。

 私が最初に参加したのがESADE主催のC4Bi(Creativity for Business Innovation Challenge)というケースコンペでした。「世界一、予約が取れないレストラン」と言われた「El Bulli」(エル・ブジ)のオーナーシェフのフェラン・アドリアとESADEが共同でやっている、少し変わった部類のケースコンペです。

 アドリア氏は世界的な成功を収めながらも、2011年にお店を閉めてしまっており、一次選考では、El Bulliのケースを読み、彼がなぜ閉店を選択したのかなどについて分析するものでした。フィリピン人のミシェル、ブラジル人のカミラと3人で応募し、幸運にも最終選考に進むことができました。


 C4Biのケースコンペティションでの一枚です。El Bulliのフェラン・アドリア氏(写真中央)を囲んだチーム写真です。マサチューセッツ工科大学のビジネススクールから来た3人と、ESADEの3人。こうなったらいつか、アドリア氏のレストランに食べに行かないと、と思っています。レストランの再開が楽しみです

 このケースコンペの目的は、アドリア氏が考案した「クリエイティビティ・オーディット」というツールを使い、企業がクリエイティビティをどう管理し、生かしているかを分析するものだと理解しています。

 アドリア氏ほどの天才的なシェフですら、常に革新的な料理を生み出し続けるのは難しいといえます。一般の企業においては、例えば、革新的な製品を生み出すことを促すような文化や土壌、チーム、人材などが必要で、それらがどの程度、整備されているかを測る、といったようなことだと思います。

 最終選考ではFCバルセロナが2016年に立ち上げた「バルサ・イノベーション・ハブ(BLHub)」という組織を対象に、このツールを使って分析をし、それらを踏まえBLHubに今後の事業プランを提案するというものでした。

 最終選考はESADE4チームと海外から選考に通った4チームがペアを組むことになり、私たちはマサチューセッツ工科大学のビジネススクールから来た3人とペアになりました。日程は3日がかりです。初日はアドリア氏やBLHubに話を聞き、さらにFCバルセロナの本拠地「カンプ・ノウ」見学というおまけもついていました。2日目は丸一日、プレゼンの準備、そして最終日に発表という流れでした。結果的に優勝することはできなかったのですが、この短い説明だけではとても言い尽くせないほどいい経験になりました。


 C4BiはESADEが主催していること、また9月に入学してまだ間もない時期に告知されたといった理由もあり、ESADEからたくさんの学生が応募しました。まさか最終選考に残れるとは思っていなかったので正直、驚きました。
あとがき

 先日、インド人の同級生に招待してもらい自宅にお邪魔する機会がありました。彼がインド料理を作ってくれるというので、私は「じゃあ日本食で……」ということで、日本食と言っていいのかよく分かりませんが、生まれて初めてカリフォルニア・ロールを作りました。日本食の中でお寿司が有名なのは承知ですが、一般的には自宅で作るものではない、というのを知っている海外の人はあまり多くないような気がします。子どもがいるので、日本でも巻き寿司の類いはたまには作っていましたが。ついでと思い、握り寿司もエビだけで少し作り、唐揚げも付けました。
 スペイン料理は赤やオレンジの色をしたものを多く見かけますが、食べてみると見た目ほど辛くありません。というか、全く辛くありません。単純にパプリカの色です。私は辛い物がそれなりに好きなので、「辛そう!」と思って食べてがっかりする、ということが最初の頃はよくありました。たいていのスーパーでメキシコのサルサソースを売っているのですが、辛さはマイルドが主流です。子どもでも食べられる程度の辛さです。
 ということで、その友人が作ってくれたインド料理は久々にかなりスパイシーでおいしかったです。でも彼に言わせるとインド料理の水準からするとマイルドだそうです。スペイン料理はとてもおいしいですが、辛さだけはやはり物足りないと改めて感じました。さらにもう一つ付け加えるなら、パクチーがないこともですが。

文/竹本恵

Profile
竹本恵(たけもとめぐみ)
東京大学教育学部を卒業後、約3年かけて単身オートバイで世界を周る。帰国後は東大公共政策大学院を経て日本経済新聞社で企業、行政などを取材する。2018年3月に退社し同9月からスペイン・バルセロナのESADE Business SchoolでMBA留学中。

Provider

日経doors

2019/05/07掲載記事を転載
MBA留学 最も冷や汗をかき、ためになった授業とは?