氷河期世代が直感で出合った故郷伝承の絹糸づくり

氷河期世代が直感で出合った故郷伝承の絹糸づくり

2019/12/19

作り手を映し出す糸に魅せられ「国産の絹を使ったものづくりを身近にしたい」

手の技と身体感覚から生まれる唯一無二の仕事。「手しごと」を生業に選んだARIA世代の日常、仕事との出合い、世界観を聞いていきます。第1回は、故郷に伝わる絹の製糸技術を生かした作品を生み出す染織家・中野紘子さん。偶然の出合いが始まりでした。

 1粒の繭の表面から引き出す1本の繊維。直径は髪の毛の約10分の1、目をこらさないとよく見えないほどの細さだ。その繊維をより合わせた生糸は、現在はほとんどが大型の自動繰糸機による大量生産だが、数十年前までは農家の女性が手作業で糸をつくり、その糸で布を織る暮らしがあった。

 中野紘子さん(42歳)は、地元の群馬に伝わる「上州座繰り」という手法で群馬産の繭を材料に生糸をつくるところから手掛ける染織家。数十粒の繭から同時に繊維を引き出し、「指先の感覚で、からまないように均等により合わせながら1本の糸にして巻き取っていきます」。集中力が必要な作業だ。

 使う道具は、江戸時代の末に現在の形になったという木製の座繰り器。右手で鍋の中の繭を均等に寄せながら、左手で座繰り器を回して巻き取っていく。手回しで低速で巻き取るので、糸は空気を含んでふわっと軽い。太さに微妙な変動ができるため織った布に表情が生まれる。

カイコがわずか2~3日間でつくる繭の繊維は1300メートル、細さは髪の毛の10分の1


中野さんの座繰り糸の原料は希少な群馬産の繭。1カセ、約120グラムの糸は「ほぼ2時間でつくらないと仕事としては成立しません」

 「手仕事の不思議さですよね。同じ道具を使っても別の人がつくると全く違った糸ができますし、そのときの体調やメンタルも糸に反映されてしまいます」

 余裕のない精神状態でつくった糸は、「何日かの分をまとめて並べて見たとき、あるまとまりだけが異質なんです。糸がまっすぐで余裕がない感じで、このときイライラしていたと思い当たる。怖いですね」

ここから先は日経WOMANキャリアへの
会員登録(無料)が必要です。

Provider

日経ARIA

2019/12/13掲載記事を転載