部下のモチベーション管理どうする? 高い社員2割のみ

部下のモチベーション管理どうする? 高い社員2割のみ

2019/08/09

見波利幸さんに聞く(上)10年後のことが見えていれば、つらくてもモチベーションは揺らがない

モチベーションって何? どうすれば上がるの?

 モチベーションが高いほうが、同じことをやるのでも楽しみながら良い結果が出せる……という経験は、誰でもしたことがあるでしょう。また、職場などでいろいろな人と関わっているなかで、「あの人はモチベーションが高くて、何でも主体的に楽しそうにやる人だな」「あの人は何をするのも後ろ向きだな」などと感じることがあるかもしれません。

 そもそもモチベーションとは何でしょうか。高い人と低い人は何が違うのでしょうか。どうすれば、自分やチームの人のモチベーションを上げることができるのでしょうか。

 特集の1本目では、モチベーションやメンタルヘルス、目標達成などに関する企業研修を手がける専門家で、『究極のモチベーション──心が折れない働き方』『心を折る上司』など多数の著書のある見波利幸さんに、「モチベ先生」になるために必ず知っておきたいモチベーションの仕組み、部下との対話方法、評価面談、仕事の振り方、チームビルディング術などを聞きました。

人生にとって大切なもの、何をしているときが幸せか?

―― モチベーションという言葉の意味は何となく分かるのですが、モチベーションが高い人はずばり、何が違うのでしょうか。

見波利幸さん(以下、敬称略) モチベーションを考えるとき、まず「仕事に対しての価値を創造できているか」という土台が必要です。その「価値」とは何かというと、その人の人生にとって大切なものや、何をしているときが幸せか、ということがちゃんと分かっているということです。

 例えば仲間と共に難しい仕事をやり遂げて喜びを分かち合うことに幸せを感じる、とか、仕事そのものでなくても、家族が大事で余暇を充実して過ごしているときに幸せを感じる、であってもいい。要は大切なものを得るため、あるいは守るために人は生活したり働いたりするわけで、おぼろげでもいいのですが、それが見えている人は土台ができています。

―― それはプライベートの幸せでもいいのですね。

見波 いいんです。なぜならばプライベートの幸せと仕事の幸せが連動していかないと本当のモチベーションにはなりませんから。よく仕事は仕事、幸せは自分のプライベートの中にあるというように、完全に分けて考える人がいますよね。仕事は幸せになるためのものじゃなくて、大変でつらいけれどお金を稼ぐためのものだって。でもそれは本当の意味で幸せとはいえません。なぜならば幸せは生きているすべてに関係しているからです。仕事とプライベート、複合的な相乗効果で大きくなりますから、分けて考えるのは非常にもったいないと思います。

―― 自分が何をしているときが幸せか、何に価値観を持っているかということが自分の中で揺らいでる……つまり土台がないと、なかなかモチベーションは上がらないということでしょうか。

見波 何が自分にとって大切なんだろう? ということを常に意識する姿勢はとても大事です。「幸せを感じること」は年齢やさまざまな経験とともにだんだん蓄積されて、少しずつ変化しながら明確になっていきますから。でも意識的に探す作業をしないと、10年たっても20年たっても人はそのまま過ごしてしまうんですよ。

 探す作業をしていると、表面ではなく深いところに幸せがあることにも気付くことができます。例えば単純にスキーをしていることが幸せだ、海に潜っているときが幸せだ、と感じていたとしましょう。幸せを掘り下げていくと、困難な練習をずっとやり続けて自分が成長していく、その喜びを感じることこそが幸せだったんだ、とか、一つのことをやり続けて、自分を信じられるようになることが幸せだったんだ、などと発見があるものです。

どんなときも揺るがないのがモチベーション

―― 困難なことをやり続けたことによる成功体験とか、自分を信じられるっていうところまでいくのは結構難しいですよね。楽しい仕事をしていれば誰でもモチベーションが上がるかもしれないですが、仕事をしているとつらいときもあると思うので……。

見波 楽しいときもつらいときも揺るがないのが本当のモチベーションなんです。環境が良ければモチベーションが上がるのは当たり前のこと。では、なぜつらいときでも揺るがないのかというと、10年後、20年後のことが見えているから。どういう自分になれば今よりも幸せになるか、ということが分かっているからなんです。

 例えば10年後にこんな仕事をしていたいなとか、こんな働き方をしていたいなとか、こんな役割を担っていきたいな、とか。仕事だけではなくてプライベートも同じです。家族とどんな風に過ごせば幸せなのか、好きな趣味など何がどの程度までできればもっと幸せなのか、ということなどです。

―― モチベーションは自分の意識改革のほかに、周りからの働き方かけ、例えば上司などによって影響を受けるものなのでしょうか。

見波 土台をつくるのは本人です。働く意義とか仕事の価値とか、会社にいる意味とかをどのように感じているかということが土台です。もう一つは10年後にどうなっていたいか、というビジョンも必要です。自分が確実に幸せになれるビジョンを描ければ、それを果たすために今の仕事をどんな形でやっていくのかが見えてきます。ただ歩んでいく途中にはさまざまな問題や壁などストレスの原因はあり、周りの環境や上司のサポートなどがモチベーションの上がり下がりに影響します。

―― ではARIA世代にも多い組織のリーダーは、部下のモチベーションを上げるためにはどうすればいいですか。


部下が欲求のどのステージにいるかを知る

見波 その人が今どの心理的なステージで働いているか、ということを理解できるといいでしょう。マズローの5段階欲求という説があります。欲求が5段階になっていて、低次の欲求がクリアされると次の欲求が起こりやすいという考え方ですね。

 私はこのマズローの5段階欲求を参考にしつつ、少し変えて解釈しています。部下のステージを上げるように育成したり、支援したりするように、マネジメントを実践することを推奨しています。一番下の状態がクリアされると、一つ上のステージに上がり、上にいくほどモチベーションが高くなっていくように、部下を育成・支援するというものです。

 まず欲求の一番下には生理的な欲求があります。睡眠をしっかり確保できていないと企業にとっては大きなリスク要因になります。過重労働であれば生理的な欲求は満たされないですから、モチベーションを上げるためにまずは過重労働を回避することが最優先になります。

 次の(下から2番目の)ステージは安全欲求です。例えばバブル崩壊やリーマン・ショックの直後は、組織が統廃合されるとか、人員整理される、減給する……など安全欲求が脅かされました。経営状態が原因でなくても、ハラスメントでも安全欲求は脅かされます。例えばセクハラやパワハラを受けているときは仕事へのモチベーションどころじゃないわけで、受け続けると行き着く先は離職か体調不良かです。ということはこのステージの人はハラスメントを回避しないかぎりはモチベーションが上がることは難しいでしょう。

 さらに一つ上、5段階の真ん中に「所属と愛の欲求」というステージがあるのですが、私の感覚では組織の中の6割くらいの人がこのステージにいます。まだモチベーションは高くありません。ここから上のステージにいきモチベを高めるためには、「所属と愛の欲求」が満たされることが必要です。例えば困ったことがあったり大変な思いをしているときに相談できる人が周囲にいて、親身に相談に乗ってもらえる。チームで助け合えるような働き方ができたり、お互いを認めて尊重する風土がある。そのような人間関係ができれば、上の2つ「自尊欲求」「自己実現欲求」のステージに近づくことができます。


モチベーションが本当に高い社員は2割のみ

見波 ですが6割の人がここにとどまっているということは、組織やチームにそれなりの不平不満があるということです。例えばみんな忙しそうにしていて相談しにくい。相談しても上司の立場でああしろ、こうしろと言われるだけ。部下だけではありません。管理職であれば何で部下は自分の思いをくんでもっと協力してくれないのだろう、自分だけ大変な思いをしている……。

 それを解決する手段がマネジメントなんです。マネジメントのなかにそういった人間関係とかコミュニケーションなども含まれますから。ちゃんと体を休められて、ハラスメントや経営不振でない企業の場合は、マネジメントをしっかりすれば、モチベーションの高い社員が増えるというわけです。

 上2つのステージ、「自尊欲求」と「自己実現欲求」にいる2割の人は、誰かに言われなくても仕事をどんどん進められるレベルです。主体的に仕事をやっていく。ここが本当にモチベーションが高いステージなんですよ。

―― そういう人が増えると強い組織になりますね。

見波 ものすごい力ですよね。しかし組織や職場によっては、従業員の割合がドーンと下のステージに集まっているようなところもあれば、かなり上に集まっているなと感じる場合もあります。それは職場風土、組織風土など、何を大切にしている会社なのか、というところに影響されます。

次回も引き続き見波さんに、部下との目標管理面談の誤解と正解、年上の男性部下や、さまざまな雇用形態の人がいる組織のモチベーションの上げ方、特に女性管理職がやってしまいがちなモチベーションダウンにつながる行動などを聞きます。

見波利幸(みなみ・としゆき)
1961年生まれ。外資系コンピュータメーカーなどを経て、1998年に野村総合研究所に入社。メンタルヘルスの黎明(れいめい)期よりいち早く1日研修を実施するなど日本のメンタルヘルス研修の草分け的な存在。研修のほか、カウンセリングや職場復帰支援、カウンセラー養成の実技指導、さらに海外でのメンタルヘルス活動など活動領域は多岐にわたる。また、オリンピック委員会より委嘱されるメンタルトレーニングチームより専門のトレーニングを受け、メンタルトレーニング、目標達成に関しての造詣が深く、その関連するモチベーション、目標達成力強化研修にも定評がある。2015年、一般社団法人 日本メンタルヘルス講師認定協会代表理事に就任

取材・文/砂山絵理子 写真/吉澤咲子

Provider

日経ARIA

2019/08/01掲載記事を転載
部下のモチベーション管理どうする? 高い社員2割のみ