成毛眞 発音や文法じゃない グローバルで勝つ人の特徴

成毛眞 発音や文法じゃない グローバルで勝つ人の特徴

2019/07/31

英語が話せるかどうかより、「その人自身が、仕事ができるか?」「ビジネスパートナーとして信頼できる人物か?」が重視される

英語が話せない日本人、と劣等感を抱く必要はなし

 1991年から9年間、マイクロソフト日本法人の代表取締役社長を務めた成毛眞さん。「Windows 95」の爆発的なヒットを仕掛けた立役者であり、ビル・ゲイツなどの世界の名だたる成功者とも渡り合ってきた経験を持つ。

 外資系企業のトップとして、グローバルな活躍をしてきた成毛さんだが、意外にもマイクロソフトに入った当時は英語がほとんど話せず、シアトル本社への出張をするようになってから現場で覚えたという。

外資系企業のトップとして、グローバルな活躍をしてきた成毛さん

 そうした実体験をもとに書かれた著書『日本人の9割に英語はいらない』では

「英語は単なるビジネスツールのひとつに過ぎない。形ではなく、中身が肝心」
「英語が話せないからと日本人は劣等感を抱く必要はないし、むしろ英語圏の人が習得しづらいほど唯一の言語を使っているのだと、誇りを持ってもいい」

 などの言葉がつづられており、英語へのコンプレックスを抱きがちな日本のビジネスパーソンに勇気を与えている。

 英語ができなくても実際に海外で活躍できるのか? 外国人とビジネスの場で対話をする際に心掛けたほうがいいこととは? 成毛さんに話を聞いた。


孫正義とこんまりに見るグローバル勝者の共通点は

―― 英語に自信がないために海外に関わる仕事をするのをためらうビジネスパーソンは多いです。やはり「英語が話せない」と、海外で成果を上げるのは難しいでしょうか?

成毛眞さん(以下、敬称略) そんなことはないよ。相手にとっては、英語が話せるかどうかより、「その人自身が、仕事ができるか?」「商談相手として信頼できる人物か?」を重視しているのです。

 身内の例になりますが、娘は総合商社で穀物のトレーダーをしていて、アメリカやオーストラリアとの取引が主体にもかかわらず、入社して4年ぐらいまでは英語が話せませんでした。ただ、専門分野の知識と経験は積み重ねてきました。海外赴任になった時もまともに話せなかったので、その分野への経験は浅いが英語ができるバイリンガルの同僚に同席してもらっていたそうですが、商談相手の外国人はその同僚には一切目もくれず、英語ができない娘にばかり話しかけていたそうです。残念ながら、そのバイリンガルの同僚は、「英語はペラペラでもビジネスをする相手ではない」と判断されてしまったのでしょう。英語ができても仕事ができなければ相手にされませんし、逆に言うと仕事ができると認められれば英語ができなくても評価されるということです。

―― 成毛さんがこれまで見てきたビジネスパーソンの中で、英語は上手ではないけれど、海外で突出した成果を上げていた人はいますか?

成毛 起業して間もない頃の孫正義さんです。彼はアメリカの大学を出ていますが、英語はそんなに得意じゃなかった。それでもズバ抜けた成果を上げていたので、語学うんぬんではなくビジネスの才覚なのでしょう。

―― 『人生がときめく片づけの魔法』の著者である近藤麻理恵さん(こんまり)も海外で大成功していますが、アメリカ人に向けて英語ではなく日本語でサービスを提供していますね。

成毛 こんまりは、通訳者の力も大きいですし、何よりキャラの作り方がうまい。アメリカ人の自宅に行って、床に正座してお祈りから始まる。それだけでグッと来るじゃないですか。スーツを着たマサイ族の人より、伝統の衣装を着て槍を持っているマサイ族の人のほうがグッとくるのと似ている。“らしい”んですよ。「spark joy(ときめき)」というキーワードも秀逸です。この言葉は英語にはないですから。キャラの作り方をはじめ、マーケティングが優れているからこそ、英語が話せないというハンディをはるかに超えています。

―― 日本人が海外で成功するためのスタイルとして、参考にすべきですか?

成毛 こんまりみたいな、たった一握りの成功者がやることを誰もがまねできるわけがないでしょう(笑)。ともあれ、英語が話せなくてもビジネスにたけていたり、相手にとって有益な情報を持っていたりすれば、相手は聞く耳は持ってくれるよ。

外国人に一方的に話された時の驚くべき対処法とは

成毛 例えば外国人と商談する時、ふとした会話で「この方はものすごく歌舞伎に詳しいんですよ」とか、「着物の着付けもできるし、着物のことなら何でも知っているんですよ」と紹介されたら、きっと相手も「話を聞いてみたい」と興味をそそられるでしょう。

 自国の文化や歴史に詳しいということは、それだけで武器になります。言葉が聞き取りにくくても、熱心に耳を傾けてくれるものです。

 極端に言えば、「自分のキャラを立たせる」だけでも興味は持ってもらえます。例えばアメリカ人が最初の挨拶で「うちの実家は牧場を持っていて、3代続けてカウボーイをやっているんです」などと自己紹介したら、もうそれだけで「この人、面白そう!」と思うじゃないですか。もちろん仕事の実力があることが大前提ですが、多少話を盛っても、一瞬で相手の心をつかむようなキャラ作りをするのも手です。

―― なるほど、流暢な英語よりキャラ作り、ですね。ただ、実際にビジネスの話をする場面で相手の外国人から英語で一方的にまくしたてられたら、ひるんでしまいそうです……。

成毛 そうなったら無視すればいいんだよ。冗談じゃなくて“本気で”聞く必要ないです。そもそも言葉が理解できていない日本人を相手にどんどん話を進めてしまうこと自体が、その相手は頭がいいとは言えません。そんな相手とまともなビジネスができるでしょうか? 通常、ビジネスの場では双方が内容を理解して、合意に達するので、もし相手が話を理解していないと気づいたら、そのままにされることはないのです。だから、一方的にまくしたてるような相手は話の途中であっても、「あなたの言ってることは分からない」と一言告げて、帰ってしまえばいいんです。

―― それは勇気がいりますね。成毛さんは実際にそういったご経験はあるのですか?

成毛 ありますよ。マイクロソフト時代のことですが、本社の事業部から日本の市場に製品を売りたいと来た人物がいたんです。こちらの反応は顧みず、一方的に話しまくるのでこれでは全くらちが明かないなと。対話を中断し、担当者を変えてもらうよう本社に告げました。

「一方的にまくしたてるような相手は話の途中であっても、『あなたの言ってることは分からない』と一言告げて、帰ってしまえばいいんです」

―― 相手がお願いに来る(売り込みに来る)場合は、こちらも強気な態度でいられそうですが、逆にこちらが相手側にお願いに行く(売り込みに行く)場合は、やはり英語が分からないと厳しいですよね?

ビジネスの場でも堂々とニホンゴ英語で話せばいい

成毛 セールスで行く場合は英語ができたほうが有利なのは事実です。通訳と一緒にセールスに来る担当者と、通訳なしでセールスに来る担当者とでは、後者のほうが圧倒的にやり取りがスムーズだと感じるのは当然のことでしょう。通訳を介したとしてもそれを上回る魅力やメリットがあれば、聞いてくれるでしょうが。

 ただ、今は東南アジアの国々へのビジネスが増えてきているので、英語ができないことに対して過剰に身構える必要はありません。発音や文法は気にせず、堂々とカタコトやニホンゴ英語で臨めばいいのです。ただし、海外とビジネスをするなら、話せなくても読み書きはできないと困ります。海外とのやり取りはほとんどメールですし、契約書や約款などの重要書類も英文なので、読み書きできないと不便なのは確かです。

―― 今は英語を使わない環境にいたとしても、突然会社が外資系企業に買収されてしまったり、会社の方針として英語が社内公用語になったりしたらどうしましょう? やはり勉強しないといけませんよね。

成毛 英語を学ぶのが嫌だったら、転職すればいいんです。嫌なことや苦手なことをイヤイヤ勉強する時間がもったいないですから。さっさと見切りをつけて、自分のやりたい仕事ができる環境に移り、今持っているスキルを発揮したほうが有意義です。

―― 苦手なことを避けるのは「逃げ」のように感じられますが、決してそうではないんですね。

成毛 得意なことで力を発揮するほうが、無駄がないでしょう。それから英語を社内公用語にするのも、僕は昔から疑問に思っていますけどね。海外に関係ない部署の社員も英語を勉強させられて、「面倒くさいな」と思ってるはずですよ。日本人同士で話す時も英語を使うなんて無意味です。言わなくてもお互い言いたいことが分かる、忖度できるのが日本語のいいところ。「あれ、やっといてくれる?」だけで通じるのは日本語ぐらいですから。それに本当にグローバル化が進んでいる会社は、わざわざ英語を公用語にしなくてもすでに社内で飛び交っています。

―― 成毛さんのお話を聞いていると、英語を無理に勉強しなくてもいいような気持ちになってきますね。とはいえ、「今後、仕事で英語を使うので学びたい」という人もいると思うので、おすすめの勉強法があったら教えてください。

人生の3000時間を費やすものを見極めろ

成毛 まずは「リスニング」から始めるのが上達のコツです。「Podcast」などを使って聞くのもいいでしょう。イヤホンで聞き流すだけなら、通勤や休憩時間、家事をしている時も聞けますし、忙しいビジネスパーソンには合っていると思います。映画を見て英語を学びたいという人もいますが、映画で出てくるようなセリフ、仕事で使いますか? 実際に使う英語を学ばないと意味はないです。

 これはあらゆることに通じることなのですが、語学も3000時間学ぶと話せるようになりますよ。毎日3、4時間英語を聞き流したら2年ほどかかる計算になりますが、英会話スキルは相当上達するはずです。

―― 2年なら現実的ですね。あらゆることというと、語学以外のことも3000時間で習得できるということですか?

成毛 音楽、絵画、スポーツなどの習い事や趣味、どんな学びも3000時間取り組めば、セミプロレベルになれます。歌舞伎の全ての演目を3000時間かけて見たら、評論1本書けるようになりますよ。

―― それは希望が湧いてくるお話ですね。

成毛 英語を本当に学びたいなら、そこに時間を費やしてもいいですが、歌舞伎や能、茶の湯、着物などの日本の伝統芸能を学んだほうがよほど外国人と実のある会話ができるはずです。人生で最も大切なものは「時間」なのですから、これから先の3000時間を何に費やすのか。無駄なことに時間を使うほど若くはないのだとしたら、何を学ぶべきかをよく見極めるべきではないでしょうか。もしかしたら、あなたが学ぶべきものは、英語じゃないのかもしれませんよ。

「人生で最も大切なものは『時間』なので、これから先の3000時間を何に費やすのか。無駄なことに時間を使うほど若くはないのだとしたら、何を学ぶべきかをよく見極めるべきではないでしょうか」


 成毛眞(なるけまこと)
実業家
1955年生まれ。中央大学商学部卒業後、自動車メーカーやアスキーなどを経て、86年マイクロソフトに入社。91年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社であるインスパイアを設立、代表取締役社長に就任。08年取締役ファウンダーに。10年に書評サイト「HONZ」を開設し、代表を務める。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。『面白い本』『もっと面白い本』(岩波新書)、『定年まで待つな!』(PHPビジネス新書)、『決断』(中公新書ラクレ)など著書多数。

取材・文/伯耆原良子 写真/鈴木愛子

Provider

日経ARIA

2019/07/16掲載記事を転載
成毛眞 発音や文法じゃない グローバルで勝つ人の特徴