着物をほどいて作る「着物服」 布が伝える手仕事の魅力

着物をほどいて作る「着物服」 布が伝える手仕事の魅力

2021/02/10

経年変化の美しさを捉え、今あるものを生かし切ることが面白い

手の技と身体感覚から生まれる唯一無二の仕事。「手しごと」に魅了されたARIA世代の日常、仕事との出合い、世界観を聞きます。カスタムメードの服や舞台衣装を手掛けるブランド「un:ten(アンテン)」のデザイナー、伊東純子さん。数年前、縁あって大量の着物地を受け継ぎ、膨大な手仕事の時間が凝縮された布のとりこになりました。生地の特性や魅力をデザインや縫製で生かし、洋服として送り出しています。

 鮮やかな染め柄、緻密な刺しゅう、手描きの絵柄、温かみのある織り地。見る人に何かを語りかけてくるような服が並ぶ伊東純子さんのアトリエ(横浜市)に伺った。

 伊東さんは「un:ten(アンテン)」と名付けた自身のブランドで、洋服のカスタムオーダーと、ミュージシャンやアーティストのステージ衣装の製作を手掛けている。服のデザインからパターン(型紙)製作、縫製まで自分で行う。

 そんな伊東さんが5年前から作り始めた「着物服」は、時を経た着物をほどいて洗い、現代の日常生活で着られるデザインに再生した服だ。いくつかの偶然が重なり、着物の生地の魅力に「すっかりはまった」伊東さん。大量生産の現代ではもう作ることができない一つひとつの生地と向き合い、その魅力を最大限に生かそうと工夫をこらす。

デザイナーの伊東純子さん。「ものごころついた頃から人形のお洋服を作っていました」。多摩美術大学、文化服装学院を卒業後、アパレルメーカーに勤務。退職後、独立


出合う生地の美しさに、作りながら感動することも。再び着られる服に作り上げることで生地は第2の人生を得る

 きっかけは5年前。当時、横浜美術館館長だった逢坂恵理子さん(国立新美術館館長)の紹介で、故人となったある女性の所有していた着物生地を大量に譲り受けた。

 「その前年には私の祖母が亡くなり、たんす2さお分の着物を受け継ぎました。その後も、関西出身の富裕な方のご遺族から、鎌倉の家をたたむのでと車1台分の着物を譲られるといったことが続き、これは何かをするしかないと思いました」

 着物地に魅了されたのは「今のアパレル業界の服があまり面白くなくなってきていると感じていたことも大きい」という。多くは海外生産で、生地自体も個性に乏しい。一方、手元にやってきた着物地はどれもが緻密な手仕事の積み重ねで、たくさんの時間がその中に凝縮されていることを感じた。

 素材の品質にも歴然とした違いがあるという。「例えば絹地は、時代が遡るものほど手ざわりが素晴らしくなるんです。薄い裏地1つでも最近のものとは全く感触が違います。当時のカイコの健康状態や、食べていた桑の質などが違うんでしょう。糸がとても有機的な感じで、きれいなんです」

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日経ARIA

2021/02/05掲載記事を転載