社会人1カ月で会社辞めていい? 小島慶子さんに相談

社会人1カ月で会社辞めていい? 小島慶子さんに相談

2018/05/18

入社した会社が合わない……でもまだ社会人1カ月目

 「そんなこと自分で考えろ!」と言われることは分かっている……。だけど、モヤモヤと考えてしまうささいなことを、小島慶子さんにぶつける本連載「小島慶子さんにこんなコト聞いちゃいました」。第4回となる今回は、「入社した会社が合わない」という新社会人ならではのお悩みについて聞きました。

Q.社会人1カ月目、入社した会社が早くも合わないです。辞めたらマズいでしょうか。

 辞める辞めないの前に、大前提として「『ぴったり合う仕事』は存在しない」と思っておいたほうがいいですよ。

 どんな職に就いたとしても、「向いてないな」とか「もう辞めたい」みたいな気持ちを一切感じない仕事なんてこの世にはありません。なので入社1カ月、特にゴールデンウイーク明けのこの時期に気持ちがふさぐのはごくごく自然なこと。働くことは大なり小なり憂鬱なものだと、ある種の諦めは持ったほうがいいでしょうね。

 かく言う私もTBSにアナウンサーとして入社した直後、もう学生時代のような長期休暇を取ることはできないという現実をどうしても受け入れることができず、研修期間中にもかかわらず有休を取って伊豆にダイビングのライセンスを取りに行きました(笑)。今思えばよく会社も許してくれたなと思いますが、それくらい心が乱れていたんですねえ。

会社員でいることの「損と得」を計算し続けよ

 新人研修も退屈で頭をグワングワン揺らしながら居眠りしてましたし、既に毎日同じ場所へ同じ時間に通うことが苦痛で苦痛で、自分が会社員に向いていないことに5月には気が付いていました。

 それでも15年間会社に居続けたのは、高い給料に手厚い福利厚生、安心の終身雇用制度、有名になれる――などなど、これ以上条件のいい環境が他になかったから。だからもしあなたが割と恵まれた会社に入ることができたと少しでも感じているなら、やっぱりそれは大事にしたほうがいいと思いますよ。

 もちろん、どんな一流企業であっても、ハラスメントやいじめが横行しているような会社なら、今すぐに逃げてください! 心や体を壊す前に自分を守って。とにかく命を最優先してくださいね。たとえ1カ月で辞めても、就活を勝ち抜いて内定を得たという事実は、それなりに経歴として使えますから。

 で、そういったいわゆるブラック企業ではない場合どうか。取りあえずは会社にいることのメリットとデメリットを冷静に比較して、0.1でもプラスかプラマイゼロだったら、会社に残ってみてはどうでしょう。私もかなり鬱屈したサラリーマンでしたが、育児支援制度を子ども二人分きっちりと使い切り、挑戦したい仕事はすべて経験し、会社という仕組みを使って得られる利益を最大限活用してから辞めました。

 転職の際に、最初に入った会社を入社1カ月で辞めてしまった理由を相手に理解してもらえるように説明するのは、なかなか大変なこと。採用してもまたすぐ辞めそうだなあと、及び腰になる企業もあるでしょう。

 自分が入った会社の人事政策や財務状況、福利厚生やハラスメント対策、職場の人間関係といった多種多様な情報を、入社1カ月ではとても集め切れません。にもかかわらず早々に見切りをつけてしまったとなると、物をよく考えない人、もしくはこらえ性のないタイプと思われてしまうかも。

 もちろん、たった1カ月でそのすべてを調べて語れるだけの調査分析力、取材力があるのならむしろ逸材です。今すぐリサーチ会社でも作ってください。でもまあ、たいていの人はそんな超人ではないので、今言ったような情報を集めて、他の会社とも比べた上でじっくり検討してみてはいかがでしょうか。

報酬をもらいながら自分の適性を探れるのは、会社員の特権だよ

 そして会社に残る最大のメリットは、既にいろんな方がお話ししていることではありますが、そこで得られる経験と人脈は、後からお金を出しても買えない財産であるということです。

 会社って大喜利みたいなもので、仕事やポジションというお題に対してどう応えていくか、チャレンジをしながらお金をもらえる貴重な場所なんですね。

 会社員として働いていると「そんなの当たり前じゃん」と思うかもしれませんが、例えば同じことをフリーランスでしようと思ったら、経験のない仕事をあえて選ぶのはリスクが高いですから、「自分の意外な適性を発見する」ことが難しくなります。

 かたや会社員は、自分の向き不向きや経験の有無は関係なく仕事が降ってきて、それに成功したり失敗したりすることで自分の適性を発見し学習するという一連のプロセスを、お金をもらいながら経験できるわけです。

 さらにそこで培った人脈が20年後の仕事につながるかもしれないし、その時築いた信頼関係のおかげで話がファストパスで済むこともあるかもしれない。人脈や経験は今すぐお金にはならないかもしれないけど、将来の自分の資産になることは確かです。ただ、内輪のルールに適応しすぎると他では使えない人材になってしまうので、常にアウトロー精神を保つことがポイントです!

 はたまた、「あの人が苦手だから辞めたい」という方も安心してください。会社には人事異動という仕組みがあり、苦手なあの人が自分の前から自然にいなくなる(笑)、もしくはあなた自身が数年後に別部署に異動する、という可能性は少なくありません。なので、もしも特定の個人との相性の悪さが原因で転職を考えているようだったら、人事異動をじっと待つのも手ですよ。

 その一方で、社風というものはなかなか変わりません。もしも「あー辞めたいな」という今の気持ちを周囲に相談しても、「そんなのは甘えだ」という頭ごなしの回答しか返ってこないような会社だったら、転職を考えたほうがいいです。なぜなら、この先あなたが失敗したり体調を崩したりしても、誰もあなたを守ってくれないばかりか、たぶん責めるだけでしょうから。

 きちんと社員の悩みに耳を傾ける空気があるかどうかを確かめるためにも、今の気持ちを周囲に打ち明けてみてはいかがでしょうか。

会社が(無言のうちに)女子社員に求める「かわいい女」という役割

 さて。入社早々、サラリーマンとして不適合者であると自覚した私のその後についてお話ししましょう。

 会社、ひいては会社員というものに違和感を覚えたのが、新人女性アナに押し付けられる「女子ロール」ってやつに気付いた時でした。これはなにもアナウンサーに限った話ではなく、日本全国の多くの新人女性社員が味わっていることでしょう。

 「女子ロール」とはすなわち、女性社員は若ければ若いほど、かわいければかわいいほど、物知らずであれば物知らずであるほどいいが、底抜けの馬鹿ではなく、先輩のいじりには気の利いた返しで愛想よく付き合い、上司や先輩の意をくむ才能には長けているべし――というむちゃ振りのことです。「女子アナ」の場合、そんな都合のいい「かわいい女」でいることが事実上業務の一部になっていたことは否めません。

 当然そんなことは明文化されておらず、新人研修でも教えてくれません。しかし結局、会社が要求するかわいい女子であれという本音と、日本語のプロであれという建前を巧みに読み分け、両立させることが求められているのであって、そうしたロールに適応すればするほど自ら女性の地位をおとしめることに寄与してしまうという自己矛盾に苦しむことになります。

 そればかりか、「あるべき女子アナ」像をテレビというマス向けの媒体で体現することは、ゆがんだロールモデルの提示でもあり、他の女性たちを「かわいくて都合のいい女」というロールに追い込むことの片棒を担いでいることになると気付いたんです。そんなこと、たとえ年間1000万円もらったって全然誇れないですよ。

「掃きだめ」の仕事がミステリーハンター抜てきにつながる

 私が入社した90年代は女子アナブームの最盛期で、とにかくタレント・アイドル路線で売れることが女性アナウンサーの王道でした。

 しかし私は周囲から求められるかわいい女子的役割をどうしても受け入れることができず、女子アナとしてはかなり日陰の道を歩むことになります。

 その頃、アイドル女子アナたちがもてはやされる現実を前に、「今は白亜紀だ」とよく自分に言い聞かせていました。

 「自分は下草の陰でこそこそと暮らしているねずみのような哺乳類だから、種の違う恐竜のそばに行ったとしても、踏まれてぺちゃんこにされるのがオチ。でも歴史を振り返れば、いつか必ず新たな時代が始まる。だから恐竜が栄えている白亜紀の終わりをひっそりと待とう」と、哺乳類は心に誓ったのです。

 そうして新時代に適応できるよう、中継の技術を磨いたり、誰も聞いていないような時間のラジオ番組をやったり、見向きもされない番宣の仕事を一生懸命やりました。

 よくありますよね、5分とか10分の、番組宣伝のためのミニ番組。当時はそういう仕事は、暇なアナウンサーと崖っぷちディレクターがやる「掃きだめ」みたいな扱いをされていまして(笑)。でもディレクターが頼りなかったおかげで、一緒にアイデアを出しながらVTRを作る作業ができたんです。

 これがゴールデンを担当しているような売れっ子ディレクターだったらそうはいきません。かつて私も気鋭のディレクターに「ここはこんなふうにしたらどうでしょう」と提案したら、「お前の頭の中なんか誰も興味ねーんだよ!」と言われたことがあります。彼らにとっての女子アナとは、「現場ではニコニコして俺の言うことを聞き、その後一緒に飲みに行ってくれればいい」存在だったんでしょうねえ。けっ。

 で、その親愛なる崖っぷちディレクターと一緒にアイデアを出し合って作った「世界ふしぎ発見!」の番宣が好評で、ミステリーハンターをやることに。顔を汚して探検隊の格好をし、ほふく前進でメーク室にいる野々村真さんに接近して足元からインタビューするという番宣だったんですが、その過剰な演出の何かが、番組スタッフの心をつかんだようです。

 さらには、月曜の明け方4時の放送でほぼ誰も聴いていないと思われるラジオ番組で、どうせ誰も聴いていないなら好き勝手やろうとベラベラしゃべっていたら、プロデューサーが評価してくれて、後に私が大きな賞を頂くことになる生放送の帯番組のMCに起用してくれました。

 こうして話すと「行き倒れの旅人に親切にしたら、実はその人は立派な偉い人でした」的な民話のようによくできたストーリーですが、まあ実際、こんなこともあるんです。仕事に適性がないとか、居心地が悪いと思ったときには、自分が白亜紀における哺乳類だと思って取りあえず目の前の仕事を一生懸命やってみてください。その努力はフェーズが変わった時、必ず役に立ちます。だからどんな状況でも、決して腐らずにいてくださいね。

妄想が夢への推進力になるよ

 そうそう、踏ん張るときには妄想力が役に立ちます。私は育休から復帰して仕事がなく、アナウンス部で毎日電話取りをしていた頃、デスクでずっと「いつかここを出ていく日」をイメトレしていました(笑)。

 机の引き出しを開けて中の荷物をまとめ、ダンボールに入れる。そしてロッカーを空にして、「長い間お世話になりました」と深々お辞儀する。そうして顔を上げた時に見える、周りの人たちの顔。裏切り者を見るようなまなざしや羨望の視線を一身に受けながら、フロアをさっそうと後にする――。

 こんなふうに退社の瞬間を思い浮かべるだけでもかなり興奮しますから、ぜひやってみてください(笑)。実現の可能性なんて考慮しなくていいんです。ただ、妄想力を鍛えると、不思議と人生がそちらの方向に導かれる気がします。ビジュアル化することって案外、パワーがあるんですよ。

聞き手・文/小泉なつみ 写真/稲垣純也

Profile
小島慶子(こじま・けいこ)
タレント、エッセイスト。東京大学大学院情報学環客員研究員。放送局アナウンサーとして15年間勤務の後、現在はタレント、エッセイストとして活動中。高1と中1の息子あり。現在は家族の拠点をオーストラリアに移し、自身は仕事で日豪往復の日々。著書に「るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記」(講談社)、「ホライズン」(文藝春秋)など。
ツイッター:@account_kkojima

Provider

日経ウーマンオンライン

2018/05/18掲載記事を転載
社会人1カ月で会社辞めていい? 小島慶子さんに相談