【最終回】セーラームーン世代が担う未来はどうなる?

【最終回】セーラームーン世代が担う未来はどうなる?

2016/09/06

先進的な思想を持った女性たち

『美少女戦士セーラームーン』を観て育った子どもたちも、もうアラサー世代。『セーラームーン』は社会現象になっただけでなく、現在のアラサー女子の仕事観や恋愛観に大きな影響を与えています。そんなセーラームーン世代について、『セーラームーン世代の社会論』の著者である稲田豊史さんが、作品を紐解きながら鋭く分析していきます。最終回である今回は、セーラームーン世代がいかに進歩的な思想の持ち主であるかについて、考えてみましょう。

セクシャル・マイノリティを丁寧に描いていた

 92年から97年までマンガ連載・TV放映された『美少女戦士セーラームーン』は、セクシャリティ(性的指向)の表現に関して、特筆すべき先進性を持っていました。LGBT(*)という言葉が日本ではほとんど知られていなかった90年代、当時としてはありえないくらいの公平さで、セクシャル・マイノリティ(性的少数派)のパーソナリティを丁寧に描いていたのです。

*LGBT…女性同性愛者(レズビアン/Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ/Gay)、両性愛者(バイセクシュアル/Bisexual)、性転換者・異性装同性愛者(トランスジェンダー/Transgender)といった人々の総称。一般的に、性的嗜好の面で少数派の人たちのことを指す。

 例えば、92〜93年放送の『美少女戦士セーラームーン』に登場した敵組織「ダーク・キングダム」四天王であるゾイサイトとクンツァイトは、相思相愛の恋仲にありました。しかしこの同性愛は、作中で一切茶化されたり、異端視されたりはしなかったのです。最終的にゾイサイトはボスのクイン・ベリルに処刑されてしまいますが、最愛のクンツァイトの腕の中で「私は綺麗に死にたい」と願い、クンツァイトは願いを叶えます。美しく悲しい、誠実な恋愛物語でした。

 また、95~96年放送の『セーラームーンSuperS』に登場した敵チーム「アマゾン・トリオ」のひとり、フィッシュ・アイも、女装癖のある男性の同性愛者でした。彼はうさぎの恋人・地場衛(=タキシード仮面)に恋心を抱き、うさぎと恋敵の関係になりますが、自分が人間ではないことを知って落ち込んでいるフィッシュ・アイを、うさぎは優しく慰めます。性別を越えて展開する「反目していた“女の子”同士が心を通わせ合う」ドラマは、非常に感動的でした。

 そして、敵チームだけではなく、セーラー戦士同士の関係も先進的だったのです。

憧れの二人組・ウラヌスとネプチューン

 『セーラームーンSuperS』から登場する男装の美しい女性・天王はるか(セーラーウラヌス)と、お嬢様ルックの海王みちる(セーラーネプチューン)の間に、百合(女性の同性愛)的な愛が育まれていたのは、よく知られていますよね。ファンから「はるみち」とも呼ばれていたふたりは、普段からまるでカップルのように並んで街を歩いていました。はるかがみちるをエスコートしたり、みちるがはるかを命がけで救おうとしたりしていたのも、印象的です。

 こういったセクシャリティの多様性が、大人向けの二次創作同人誌や、90年代後半以降の深夜帯アニメで描かれることはありました。しかし20年以上も前に、子供が見る土曜日夜7時放映のアニメ作品で真正面から描かれていたという点は、かなり斬新だったと言えるでしょう。そして、ここが大切なところですが、うさぎは敵の所業は蔑視しても、彼らの愛のかたちについて嫌悪感を示したりバカにしたりということは、一度もありません。

セーラームーン世代に与えた影響とは

 愛のかたちにひたすら寛容な姿勢を示す『セーラームーン』を少女時代に観て育ったセーラームーン世代が、セクシャリティ方面に進歩的な考え方を示すのは、当然でしょう。現在の彼女たちは、「多様な愛のかたち」に対してとても寛容な精神を持っています。

 今でこそましになりましたが、90年代当時のマスメディアは、セクシャル・マイノリティに対して血の気が引くほどノー・デリカシーでした。端的に言えば、「異常な人たち」「滑稽な人たち」扱いで、笑いものにしていたのです。

 そういう時代背景のなか、ゴールデンタイムに敵幹部同士の同性愛をまじめに描くということに、どれほど強い「意思」が必要だったかは、想像に難くありません。デリケートなセクシャリティの持ち主をキャラクターとして創造し、作品世界で極めて公平に扱った原作者の武内直子先生、およびアニメスタッフの面々には、本当に頭が下がります。

 そんな『セーラームーン』は、90年代に子供時代をすごしたフランスの女性にも、非常に人気があります。

フランスで人気がある本当の理由

 フランスでは90年代、日本のアニメを放映する子供向け番組枠があり、多くの少女たちが夢中になって観ていました。プロポーション抜群の少女たちが華麗に戦うカッコ良さや、耽美的な変身シーンが受けた、という分析もあります。

 しかし筆者としては、作中で描かれる「愛の多様性」も、支持される理由のひとつではないかと踏んでいます。

 フランスは世界でもトップクラスの、「多様な愛のかたち」が活発に議論される国で、セクシュアリティに関して制度的な不平等が少ないことでも知られています。なかでも99年に制定された民事連帯契約、通称「PACS法」は非常に先進的。法的に婚姻できない同性愛者カップルも、一定の権利を享受できる法律で、施行後またたく間にヨーロッパ各国へと広まっていきました。そんな国で『セーラームーン』が人気を博したのは、とても合点が行きます。

 また、フランス人女性は、自分の考えや権利をかなりはっきり主張します。女性性は大切にしますが、男性に媚を売るようなファッションや言動は軽蔑されます。知的で自立的であることを望み、同調圧力に屈しないことを善しとします。前回の記事「彼氏持ちの友人との接し方はセーラームーンに学べ」で言及した、セーラーチームの価値観にそっくりではないでしょうか。

 そんなフランスには、国民的英雄と崇められている女性がいます。

セーラームーン=ジャンヌダルク!?

 それは、15世紀、イングランドとの間で繰り広げられた百年戦争でフランスの劣勢を救った伝説の軍人、ジャンヌ・ダルクです。彼女が戦況をひっくり返したオルレアン包囲戦(1428~29年)時点では、なんとまだ16歳でした。セーラー戦士たちと同じティーン・エイジャーです。

 ジャンヌ・ダルクが優れていたのは、一説によれば、長らく男だけの軍隊で慣例的に行われていた戦法に素朴な疑問を呈し、型破りの戦法を提示したことだと言われています。

 たとえば、騎士道精神にこだわるフランス軍隊は、敵兵に対して遠くから大砲で攻撃するのは「卑怯」であるとして大砲を使わず、いちいち名乗りを上げてから突撃していました。対するイングランド軍は、長距離射程のロングボウ(長弓)でフランス兵をガンガン撃ち殺していたのです。

 無邪気な少女ジャンヌは、フランスの将軍たちが後生大事にしている騎士道精神などお構いなしに、遠慮なく大砲を撃ちまくってイングランド軍を蹴散らしました。既存の慣習や役職や序列にとらわれることなく、自由な発想で結果を出す。どこか、セーラームーン世代を彷彿とさせますね。

 歴史上、ジャンヌ・ダルクのように国政の表舞台で英雄的に社会を変革した女性は、男性に比べればずっと少なかったといわざるを得ません。しかし昨今では、政治的実権を持つ女性リーダーが、世界中で誕生しています。イギリスのテリーザ・メイ首相、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領、台湾の蔡英文(さい・えいぶん)総統、アメリカの民主党大統領候補ヒラリー・クリントン、そして東京都知事・小池百合子氏など。

 20年以上前に、セーラーチームの活躍を見て育ち、社会にさまざまな変化を起こしつつあるセーラームーン世代が存在感を増す現在、世界中に女性リーダーが次々と誕生しているのは、単なる偶然なのでしょうか? あるいは、来るべき同時多発的社会変革の予兆なのでしょうか?

今は風当たりが強いセーラームーン世代

 読者であるセーラームーン世代のなかには、「社会に変化なんて言われても、ピンと来ない」「自分が今の仕事で活躍しているとは、とても言えない」と、ため息をつかれる方もいるでしょう。

 しかし、あの英雄ジャンヌ・ダルクですら、生前の評価は賛否真っ二つだったようです。その後、国家的政治判断のもと19歳で火刑に処されてしまいますが、25年後にローマ教皇のお墨付きで名誉が回復されました。現在ではカトリック教会における聖人として、フランス国内の多くの政治家や文化人たちがジャンヌを崇拝しています。

 このように、先進的な存在を世の中が認めるのには、少々時間がかかるものです。

 少女時代から先進的な考え方に慣らされた結果、リベラルで奔放に育ったセーラームーン世代は、ジャンヌのように世間から強い風当たりを受けることも多いでしょう。でも、安心してください。ジャンヌと違って歴史に名を残すのに、25年もの歳月は必要ありません。

 さしあたっては4年後、世界が日本に注目する東京オリンピック開催の2020年です。30代半ばに達し、今よりずっと社会の中核で活躍しているであろうセーラームーン世代は、自分たちが生きる日本社会の素晴らしさを、あらゆる場所から世界中に知らしめてくれるでしょう。つくづく、リオ・オリンピックの閉会式にうさぎちゃんが登場しなかったのが、残念でなりませんね。

文/稲田豊史 画像/(c) Naoko Takeuchi

『セーラームーン世代の社会論』
 著者:稲田豊史
 出版:すばる舎リンケージ
 価格:1400円(+税)
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記事一覧ページはこちら ⇒アラサー世代とセーラームーン―影響力のひみつ
Profile
稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。キネマ旬報社を経て2013年にフリーランス。単著に『セーラームーン世代の社会論』、企画・編集に『ヤンキーマンガガイドブック』、構成担当として『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(ともに原田曜平・著)などがある。雑誌「サイゾー」誌上で「オトメゴコロ乱読修行」、ブロマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」で「ドラがたり――10年代ドラえもん論」を連載中。
ホームページ:http://inadatoyoshi.com

Provider

日経ウーマンオンライン

2016/09/06掲載記事を転載
【最終回】セーラームーン世代が担う未来はどうなる?