セーラームーン世代の特徴―女を誇るが武器にはしない

セーラームーン世代の特徴―女を誇るが武器にはしない

2016/07/19

女性が働くのは当たり前の世代 男に対する気負いもなし

『美少女戦士セーラームーン』を観て育った子どもたちも、もうアラサー世代。『セーラームーン』は社会現象になっただけでなく、現在のアラサー女子の仕事観や恋愛観に大きな影響を与えています。そんなセーラームーン世代について、『セーラームーン世代の社会論』の著者である稲田豊史さんが、作品を紐解きながら鋭く分析していきます。

女性が働くのは当たり前のこと

『セーラームーン』は社会現象になっただけでなく、現在のアラサー女子の仕事観や恋愛観に大きな影響を与えています (c) Naoko Takeuchi

 職場でのセーラームーン世代は、そろそろ年齢的に「若手」ではなくなります。後輩や部下が増え、責任あるポジションに就き、プロジェクトのリーダーを任されるようなことも多くなってくるでしょう。

 今回は、そんなセーラームーン世代の仕事観について分析してみます。

 まず大前提として、セーラームーン世代にとって「女性が最前線で働くこと」はデフォルト、自明の理。特に議論することもない、当たり前の常識です。これは、それまでの世代とは大きく違う意識と言えるでしょう。

 彼女たちが幼い頃に自分を投影したセーラーチームは、女子だけで構成された精鋭部隊でした。メンバー全員が敵と直接格闘します。“アシスタント”はいません。

 かつてのスーパー戦隊シリーズにおける「ピンク」担当のような、男性中心部署のマスコット的女子でもなければ、ロボットアニメの司令室でパネルをいじる後方支援要員でもないのです。

 セーラー戦士たち全員が敵を直接攻撃する必殺技を持っているのは、その証。彼女たちは、いわば会社の売上に直接寄与する最前線の営業部員であり、斬新なアイデアを次々提案する企画部門のエース社員。セーラームーン世代は、社会人になる前からそういう意識が刷り込まれているのです。

 ちなみに『美少女戦士セーラームーン』では、戦闘時にタキシード仮面(地場衛)という男性が助けてくれますが、敵の注意をそらすために毎回バラを投げ、偉そうに「今だ、セーラームーン!」と言うだけ。たいした攻撃力はありません。とりあえず書類にハンコだけ押してくれる、冴えない部長みたいなものでしょうか。

 敵のHPを実際に削るのはセーラー戦士たち、フィニッシュを決めるのは必ずセーラームーン。名実ともに、女子だけの現場チームなのです。

男には負けない!という意識が薄い

 こういった意識がいかにセーラームーン世代に特有かは、もうひと回り上の世代、一例として団塊ジュニア(1971~75年生まれ)の女性が若い頃に置かれていた状況と比較すると、よく分かります。

 団塊ジュニアの女性たちは、「女性の社会的地位は、基本的に男性より低い」と刷り込まれて育ちました。よって、キャリア志向の強い女性、最前線でバリバリ働きたいと願う女性は、「女“だけど”男には負けない!」「男と肩を並べなければならない!」という気負いなしには、職場で相応のポジションを得ることができなかったのです。前のめりで、ギラギラした野心を帯びた、肩に力が入りまくった気負いです。

 しかし、セーラームーン世代に、そこまでの気負いはありません。男性主体の職場にも自然体で溶け込もうとしますし、ごく当たり前のように前線に出ようとします。肩に力が入っていないのです。

 もちろん、男女の機会均等に関して理解ある企業・職場が増えてきた社会背景は、セーラームーン世代がそのようにふるまえることと、無縁ではないでしょう。

 もうひとつ、セーラームーン世代の特徴として挙げられるのは、職場においてもある種の女性性、いわゆる「女子っぽさ」を捨てないということです。

 これも比較になりますが、かつて団塊ジュニアの女性の多くは「女性性を捨てなければ、男と張り合えない」と考えていました。

 職場で「女性」を出せば、男性社員にナメられる。男に対する“媚び”だと囁かれる。可愛げや遊び心は「仕事の邪魔」と決めつけられ、優しさや思いやりは「女の弱さ」に変換されてしまう。旧時代的な上司に目をつけられれば、昇進にも影響するかもしれない……。

 彼女たちの多くはそんな恐怖感から、男性社員の付け入る隙を与えるまいと、鋼鉄の鎧を着込み、職場での女性性を封印したのです。

女らしさは武器ではなく誇るべき属性

 しかし、セーラームーン世代は職場でも「女子っぽさ」を大切にします。

 それは、セーラー戦士たちが、世界の存亡を賭けた戦いの渦中にあっても、恋バナや、お菓子や、オシャレや、女子トークといった「女子っぽさ」を決しておざなりにしなかったのと同じ。そもそも、変身後のバトルスーツは、「女子っぽさ」の象徴・セーラー服風のセクシー仕立てです。

 彼女たちは、茶目っ気たっぷりの振る舞いで現場を明るくし、細やかな気配りで男性社員や取引先の警戒心を解きます。服装やメイク、髪やネイルによって女子である自分を謳歌し、デスク周りや文房具も遊び心で埋め尽くします。

 なぜなら、彼女たちは「女子っぽさ」を出すか・出さないかと、仕事のできる・できないはまったく無関係だと信じているから。仕事で結果を出すことで、それを周囲にも理解してもらいたいと願っているからです。

 セーラームーン世代にとって、「女子っぽさ」は“媚びるための武器”ではありません。“誇るべき属性”なのです。

 ただ、「気負いなく自己主張する」「女子っぽさを捨てない」が一部年長者たちの癇に障り、「これだからゆとり世代は……」と揶揄されることも少なくありません。実際、セーラームーン世代の下半分(1987~93年生まれ)は、ゆとり世代とかぶっています。

 しかし、それは彼女たちを煙たく思う年長世代の価値観が、彼女たちと大きく乖離しているからにすぎません。年長世代の価値観とは、「若い女性が男の職場で軽々しく自己主張すべきでない」「職場に女性性を持ち込むべきではない」という考え方です。

 しかし逆に言えば、セーラームーン世代がもう少し年次を経て会社の中枢を担うようになれば、彼女たちの価値観こそが職場の常識となり、バカにしていた彼らこそ“老害”化することを、忘れてはなりません。どちらが正しいということではなく、必然的な時代の潮流というやつです。

オープンマインドなセーラームーン世代

 アラサー女性の特徴を『美少女戦士セーラームーン』から読み解いた拙著『セーラームーン世代の社会論』は、彼女たちを応援する目的で書いた本ではありませんでした。純粋に、周囲の友人や仕事先のセーラームーン世代たちが、実にオープンマインドで付き合いやすく、仕事がしやすかったので、分析してみたかっただけなのです。

 なので、刊行後にセーラームーン世代の読者からいただいた喜びの声は、少々意外でした。「自分たち世代のくくられ方のなかで、いちばんうれしかった」「ゆとり世代とバカにされてきたけど、読んで自信がついた」「セーラームーンが私の人格を作ったんだと、改めて確認できた」などなど。

 そんなセーラームーン世代が会社を牽引するポジションに就くまで、それほど時間はかからないでしょう。実に楽しみです。

 次回の記事は8月2日に公開予定。チームを大切にするセーラームーン世代の働き方について分析します。

文/稲田豊史 画像/(c) Naoko Takeuchi

『セーラームーン世代の社会論』
 著者:稲田豊史
 出版:すばる舎リンゲージ
 価格:1400円(+税)
 ■ Amazonで購入する
この連載は、隔週で火曜日に公開。下記の記事一覧ページに新しい記事がアップされますので、ぜひ、ブックマークして、お楽しみください!
記事一覧ページはこちら ⇒アラサー世代とセーラームーン―影響力のひみつ
Profile
稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。キネマ旬報社を経て2013年にフリーランス。単著に『セーラームーン世代の社会論』、企画・編集に『ヤンキーマンガガイドブック』、構成担当として『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(ともに原田曜平・著)などがある。雑誌「サイゾー」誌上で「オトメゴコロ乱読修行」、ブロマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」で「ドラがたり――10年代ドラえもん論」を連載中。
ホームページ:http://inadatoyoshi.com

Provider

日経ウーマンオンライン

2016/07/19掲載記事を転載
セーラームーン世代の特徴―女を誇るが武器にはしない