自分を活かし社会に貢献する方法を、あの名作から学ぶ

自分を活かし社会に貢献する方法を、あの名作から学ぶ

2016/08/04

不朽の名作「ニュー・シネマ・パラダイス」を哲学します

「哲学」ってむずかしいことだと思っていませんか? 「哲学」とは、「ものごとの正体を知ること」。哲学者の小川仁志さんが、身近なことを題材に分かりやすく哲学の視点から読み解きます。今回は映画「ニュー・シネマ・パラダイス」を哲学。こんなにも好きになれることがあるって、羨ましい。

可愛い子には旅をさせよ

 映画好きな人が、よくベストムービーに挙げる「ニュー・シネマ・パラダイス」。この作品は、音楽も有名ですよね。

 第二次世界大戦前のイタリアで、映写室と映画に魅せられ、そのとりことなった少年トト。彼は、あの手この手で映写技師のアルフレードを説き伏せ、助手にしてもらいます。

 広場の映画館は、村の人たちにとって唯一の憩いの場であり、交流の場でした。ところが、火事によって映画館は消失し、アルフレードも失明してしまいます。幸い、映画館は「ニュー・シネマ・パラダイス」という名で再建され、なんとトトが映画技師として活躍することになったのです。

 やがて時が経ち、トトは青年になります。そして、美しいエレナと恋に落ちます。しかし、幸せな時間は長くは続きませんでした。すれ違いの中で、二人の運命は引き裂かれてしまいます。ずっとあとになって判るのですが、実は二人を引き離したのはほかでもないアルフレードでした。彼は、トトの将来を思って、二人が駆け落ちなどすることのないよう、苦渋の選択をしたのです。

 トトは失意の中、アルフレードのアドバイス通りローマに旅立ちます。映画を作るという夢を叶えるために。そして、見事大成功します。

 30年後、アルフレードが死んだという知らせを受けたトトは、久々に村に帰ります。映画館は閉鎖され、かつての面影は無くなっていました。そんなトトの前に、エレナの娘が現れたのをきっかけに、トトとエレナは再会を果たします。30年ぶりに誤解も解け、二人の愛は再燃。最後はアルフレードが遺してくれた、懐かしい映像を見ながらトトが涙するシーンで幕を閉じます。

 さて、こう書いてくると、どうしても映画論や恋愛論を展開したくなりますが、あえて私は今回『公共哲学』の視点に着目したいと思います。

いまの日本で求められる「活私開公」とは

 『公共哲学』とは、自分と社会をいかに繋ぐか、本質に遡って考える学問です。従来は「滅私奉公(めっしほうこう)」が声高に叫ばれましたが、現代社会では、自分を押し殺してまで社会のために尽くすという発想は、なかなか受け入れられません。

 そこで登場したのが、自分を活かしつつ社会に貢献するという、「活私開公(かっしかいこう)」の概念です。つまり、私を活かして公けを開くということです。

 問題は、忙しい日常の中で行動を起こせるかどうかです。この点、元祖公共哲学者ともいうべきハンナ・アーレント※は、『人間の条件』の中で、人間の営みを労働(レイバー)、仕事(ワーク)、活動(アクション)の三つに分けて解説しています。労働とは、家事など生活に不可欠な営み、仕事とは何かを製作する営み、そして活動とは、社会に関わることを指します。アーレントによると、この三つがそろってはじめてバランスの取れた日常を過ごせるわけです。このように活動を生活の一部にしてしまえば、無理なく行動を起こせるはずです。

※ ハンナ・アーレント(1906年-1975年)。ユダヤ系の女性現代思想家で、アメリカに亡命して活躍した。全体主義の分析で有名。公共哲学の草分け的存在とされる。著書に「全体主義の起源」「人間の条件」等。

 社会にかかわるためには、当然人々が交流し、共に活動する場が必要になってきます。「ニュー・シネマ・パラダイス」の中では、それが映画館であり、広場だったのです。

 ちょうど先月、劇作家の平田オリザさんを囲んで「哲学カフェ」を開いたときに、オリザさんが同じことを言われていました。いま人々が交流し、創造するための新しい広場が求められている、と。

 そういえば、映画の中で「ここは私の広場だ」と叫ぶ男が何度か出てきましたが、現代社会では「ここは私と社会を繋ぐ広場だ」と叫ぶ人がもっと出てくれば、活私開公によって社会は、パラダイスになるように思うのですが……。

ニュー・シネマ・パラダイス

<ストーリー>


戦後間もないシチリアの小さな村で、唯一の娯楽はパラダイス座という映画館。その映画館を舞台に、少年と映画技師の心の交流を描く。
販売元:角川映画
Amazonで購入する

文/小川仁志

Profile
小川 仁志(おがわ ひとし)
哲学者・山口大学国際総合科学部准教授
1970年、京都府生まれ。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。米プリンストン大学客員研究員(2011年度)。商店街で「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。専門は公共哲学。著書に『7日間で突然頭がよくなる本』、『世界のエリートが学んでいる教養としての日本哲学』(共にPHP研究所)等多数。

Provider

日経ウーマンオンライン

2016/08/04掲載記事を転載
自分を活かし社会に貢献する方法を、あの名作から学ぶ