退屈は人生の毒だ 幸せな「オタク中年女子」のすすめ

退屈は人生の毒だ 幸せな「オタク中年女子」のすすめ

2018/03/02

あなたはどんな中年になりたい? 成熟困難時代の生き方 

人生100年時代、私たちどういう「オバサン」になればいいの?

 誰もが100年生きうる時代、いわゆる「人生100年時代」がやってきたと言われ、静かな衝撃が広がり始めたのはこの2、3年のこと。理屈では100歳まで生きることがありうるとはわかっていても、あらためて自分の人生が本当に100年になることを想像すると、そこには期待よりも不安の方を感じる……というのが、私たちの素直な感想ではないでしょうか。

 近代までは寿命なんて数十年、有名な政治家や芸術家だって60代まで生きれば長生きだったものが、今や日本の60代は「ちょいワルオヤジ」や「アデージョ」のほんのちょっと先としてまだまだ元気いっぱい。医療技術の発達によって、出産可能年齢も理論上は上がり、女性の生き方の選択肢も大いに増えました。

 男性も女性も、どのようにでも生きられるぶん、どう生きようか迷うこともできるようになった。孔子は「齢、四十にして惑わず」と言ったものですが、いまや惑っている40代なんてたくさんいます。人生100年時代とは、成熟「からの」人生も長くなったけれど、成熟「までの」間も長くなったように思うのは、私の気のせいでしょうか。

 昔は40代と聞けば即オバサンだと思ったものですが(失礼!)、いま40代をオバサンと呼んだら、正直、40代はいい気持ちはしません(笑)。30代の皆さんが「私、いつになったら落ち着くのかな……」と漠然とした不安を抱くのと同じように、年齢的には落ち着いているはずの「オバサン」当事者たちだって、「えっ、私たち『オバサン』なの? まだ……違うよね?」と顔を見合わせつつ、では自分たちがどういう姿であればいいのか、迷っているんですよ。

 そこで出てきたのが「40代女子」という斬新な組み合わせの言葉です。さらに時が進み(つまり彼女たちが年を重ね)、「50代女子」「60代女子」まであわや出現というところで、おそらく自主規制で大きく広まることはなく落ち着いたのが現状です。

今の「40代女子」、めちゃめちゃ元気ですよね (C)PIXTA

 私は、自分自身が40代に突入して「年齢的オバサン」となり、精神的にも「もはや自分はオバサンカテゴリである」ことを受け入れた頃から、なるほど、オバサンになることはそんなに怖くないとようやく理解しました。むしろ、オバサンとしていかによく生きるかのほうが大事だと。そして、かつて目の上のたんこぶと思っていたような先輩オバサンたちを思い返し、同世代や上の世代のオバサンたちを見回し、垂直方向にも水平方向にもオバサンリサーチをしてみて思いました。

 「ああ、成熟とはとてもカッコいいものだ。年齢を重ねて『自分が何者か』を分かっている女たちは、他人が何を言おうと揺るがない。私が昔、目の上のたんこぶと思って怒っていた先輩オバサンたちは、今の私と同じように、カッコよく生きることに憧れながらも自分に正直にまだ揺らいでいた。その渦中の姿に私は自分の揺らぎや不安を投影してイライラしていたんだなぁ」

オタクになりたい! のになれない…

 そんな彼女たちは、やがてそれぞれに趣味の世界にハマって、豊かに安らいでいきました。「自分が何者か」を知り、受け入れていったのだと思います。女の成熟に、趣味は不可分なのではないか。それがお花であれ、韓流ドラマであれアイドルであれ、(たまたま幸福にも? 趣味と一致するのなら)仕事であれ。私は、たとえ「中年のくせにモラトリアム」とそしられても、そうやって趣味を暮らしの中に据えて生きる、「オタク女子」を心の隅に飼ったオバサンに憧れているのです……が。

 一つ、大きな問題があります。私の目下(もっか)の悩みは、これから猛然と毅然とオバサン道をまい進しようと鼻息荒い今、何か強烈に自分を満たしてくれるサブカル的趣味を探しているのに、どれにも没頭できず浅い興味で終わってしまうことなのです。

 お笑いも落語も好きだけど通い詰めるほどではなく、美術・歌舞伎・ミュージカル・演劇も同様、バンドも洋邦まあまあ、ジャニーズ……もそんなに興味ないけど目の保養にはいいよね、ヅカ(宝塚)……も積極的じゃないけど誰かが連れて行ってくれるなら見に行ってもいいかな。野球?うーん、サッカー? TVで十分、フィギュア……はソチ五輪まで。ゲームはしない人生、漫画・小説も今は話題作をさらっとだけ。映画は好きだけど、ミニシアターを巡ったりはしないし、無名イケメン俳優を次々青田買いする目も情熱もない。お酒もグルメも旅も好きだけどほどほど、車も家電もデジタルガジェットもまあまあ便利でデザインがよければ満足しちゃって——。

これといった趣味が…ない (C)PIXTA

 ああ、「一芸」とか「自己発信」が何より大事だと言われているこのSNS時代に、私はなんて集中力がなくてつまらない人間なんだ……。大人になってどうせちまちま浪費してばかりなのだから、何かにハマって貢いで「充実感を買う」心の準備ならバッチリ。なのに「コアなところまで深掘りしない/できない」。オタクになりたいのになれない、これは深刻。

退屈は人生の毒だ

 だからもう一度言いますが、そんな私自身は、たとえモラトリアムだのオタクだのと呼ばれてもそうやって趣味を暮らしのど真ん中に据えて生きる大人女子に憧れ、羨ましくて仕方がないのです。

 好きな事に一生懸命になって、そのことさえ考えていれば幸せで、それを燃料に浮世の小事など乗り越えていける。どんなに仕事が渋滞を起こし、人間関係が発酵していても、例えば残業の合間にアイドルなどの動画をこっそり見て、趣味用に複数持っている匿名の裏アカでファン同士やり取りする最新の情報を追っていると、ああ今日も一日充実していた、「生きている」と、ひしひし実感できる。

 他人から見たらどう映るにせよ、そういう充実した趣味生活を楽しんでいる人に、私は憧れます。だって、そういう人たちはきっと退屈しないから。退屈は毒です。大人になってもまだ他人と比べ合ったり、他人に干渉したりあれこれクドクドと愚痴って腐るのは、内面にぽっかりと空洞があって人生に退屈している人の症状です。退屈せず、加齢が成熟と同義となり、趣味の虎の穴により奥深く入って自己の内面を充実させていくオタク中年女子に、私はもはや尊敬の念を感じています。

 そんな矢先、精神科医の熊代亨さんによる『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)という本を読んで、私は小さく悲鳴を上げました。

「『若者』をやめて『大人』を始める」に小さく悲鳴を上げる(帯文引用)
選択肢が多様に広がったからこそ、生き方が定まらない。
気が付いたらもう”いい歳”。立派な「大人」になれた実感、ありますか?
「成熟のロールモデル」が見えなくなった現代において、「若者」を卒業し「大人」を実践するとはどういうことか?

 熊代さんは書きます。

 「『何者にもなっていない』まま歳を取ると、『何者にもなれなかった中年』というかたちでアイデンティティが固まってしまいます」

 そして耳が痛いのは、

 「高学歴、かつ大都市圏で勤める人は『大人』を始める時期がどうしても遅れます。就職する時期が遅く、就職したとしても、キャリアアップを意識すると仕事もなかなか落ち着かず、人生の選択肢が果てしないように見えては、その方向性は簡単には決まりません。結婚も遅れやすく、したとしても、離婚率は地方より高めなので、アイデンティティの構成要素としてはちょっと弱めです」

 現代では、就職も、結婚さえも「アイデンティティのゴール」にはなり得ないということ。現代の都会人のライフスタイルは、「いつまでも若く」を目指し成熟を拒否・否定してしまっていたのではないか、とも熊代さんは指摘します。でもその結果が「何者にもなれなかった中年」の大量生産です。

 「『自分探し』の季節も、『若者』の季節も、終わりがあればこそ愛おしいのであって、いつまでも続く『自分探し』というのも、エンドレスな夏休み同様、呪わしいもののように思われます」

 ただ、救いがあります。「趣味や課外活動もアイデンティティの構成要素になる」「揺るがない自分が生まれると、足下が固まるがオジサンオバサンにもなる」

 何者にもなれないままオジサンオバサンに「なる」のは、「醜悪な加齢」かもしれませんが、趣味や課外活動を通じて自己の内面を知り、自分が何者であるかを確立した上でオジサンオバサンを「引き受ける」のは理想的な「成熟」なのだと感じました。そして、「自分が何者であるか」を模索する過程で平凡と折り合いをつけるのも、一般人である私たちの成熟には必要な作業なのかもしれません。

私たちが避けたいのは「オバサン」ではなく、「何者にもなれなかった中年」です! (C)PIXTA

 退屈したつまらない人間にならないために、人は何かにハマっていていいのですよね。一見平凡そうに見えて、内面は超絶充実して日々エキサイティングな成熟した「オタク中年女子」、ご一緒にいかがでしょう?

文/河崎 環 写真/PIXTA

Profile
河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川県育ち。家族の転勤により桜蔭学園中高から大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での生活を経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆を続けている。子どもは20歳の長女、11歳の長男の2人。著書に「女子の生き様は顔に出る」(プレジデント社)

Provider

日経ウーマンオンライン

2018/03/02掲載記事を転載
退屈は人生の毒だ 幸せな「オタク中年女子」のすすめ