リアル過ぎ 大ヒット過労死マンガに響く私たちの叫び

リアル過ぎ 大ヒット過労死マンガに響く私たちの叫び

2017/04/27

「弱くない」「逃げていい」「休んでいい」――先輩女性たちの声

「昔、その気もないのにうっかり自殺しかけました。」

 昨年、大手広告代店の電通に勤務していた新卒の女性、高橋まつりさんが過労自殺したことを受けての報道が大きく取り上げられていた頃、ツイッターで30万リツイートされた過労死マンガがあります。

「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)

 それは、イラストレーターの汐街コナさんがデザイナーとして長時間労働に従事していた頃、「働き過ぎて、その気もないのにうっかり自殺しかけた」自身の体験をリアルに描いたもの。いつの間にかそんな状況に追い込まれてしまう理由を、軽妙に、しかしメッセージは重く深く伝え、「リアル過ぎて泣ける」「これ、私のことだ」と、働き盛り世代だけでなく、社会に出たばかりで感覚のギャップに戸惑い悩む若い世代からも、大反響を呼びました。

 様々なメディアで紹介されたこの漫画を糸口に、精神科医・ゆうきゆうさんの監修・執筆協力のもと、労務環境が原因となって起こるうつと、そのメカニズム、対処の仕方を紹介した「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(あさ出版)が、発売前に重版、4月初めの発売後たった10日ほどで6万2000部の売れ行きを見せるヒットを示しています。

 「もっと、自分勝手に生きていい」「世界は広いんです」と訴えるこの本を、いま新生活を始めるなどして「つらい」の真っただ中にいる人、あるいはそれさえも気付かずに何も感じずただ壊れたように働き続けている、多くの人たちに届けたい。

 気付いてほしい。立ち止まってほしい。せめてとにかく死なないでほしい。そんな思いで、この本を読んだ、働く女性たちの反響をご紹介したいと思います。まずは、大反響のあった漫画の一部を次ページでお見せします。

「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)


「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)


「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)


「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)


「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)


「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)


「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)


「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)


「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)


「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)


「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版)

 私にも、抗うつ剤を飲み続けて仕事と子育てをしていた時期がありました。

「死んだら楽になるかなぁ」のその先

 20代後半から30代初め、まさにアラサー。当時の私は、バカがつくほど生真面目で勝ち気でした。学生結婚・出産をして「まっとうな世間の道から外れてしまった」というコンプレックスから、顔の見えない「世間の評判」に勝とうとしていた。人間関係や子供の教育や自分のキャリア、すべてを「絶対に社会に負けたくない、私は若いけれど立派にやっていると認めてほしい」と、どこか憎悪に近い野心や、その裏返しの祈るような気持ちでゴリ押しする日々でした。

 そのために、本当は苦手で心の奥では逃げたくなるようなことでも「私はできる」「乗り越えなきゃいけない」「これは自分が望んでしていることだ」と自分に嘘をつき続け、愛想笑いを続けていました。

 すると、人前でパニック障害や過呼吸を起こすようになり、でもそれを必死で隠し、何事もないかのように振る舞い続けました。朝起きられず、起きてもすぐ昼間にこんこんと眠り続けてしまうことが続くようになりました。

 子どもの世話をしなければいけないのに、奇麗なお母さんの格好をして子どもの送り迎えのために学校に行かなければならないのに、仲良く如才なくお付き合いしなければいけないのに、夫の帰宅までにテーブルにきちんと食事を並べておかなければいけないのに、今日やらなきゃいけない(フルタイムではないチョコキャリの)仕事がたくさんあるのに、と、そんな自分を「こんな専業主婦に毛の生えた程度でつらくなってしまう私は無能だ」「妻も母も自分自身も全部頑張らねばならないのに、こんな程度でつまずく私なんて死んでしまえばいい」ととにかく責めながら、少しよくなってはまた、というのを3年ほど続けたでしょうか。今思うと若くて変に「体力」があったのが、逆に長引かせる原因だったようにも思います。

少しよくなってはまた落ち込む。繰り返しているうちに…(C)PIXTA

 いろいろなつらい出来事が一度落ち着いたかのように見えた頃、自分が透明でもったりとしたゼリー状の膜に包まれ、世の中のすべてが膜の外側で起こっているような感覚になりました。澱(おり)のように分厚くたまった疲れで、体も心も重く、何を見ても聞いても誰に何を言われても、心が動かなくなりました。眠れない。ようやく寝ても早朝に起きてしまう。ふと気付くと、自分でも全く理由の分からない涙が流れていました。

 「死んじゃったら楽になるかなぁ。だってこんなポンコツの私、社会の誰も本当には必要としていないもの。本当のところ、妻としても、母としてでさえ代わりはいる。私なんていなくたって、世の中平気で回るもの」。

もう歩けない、と心療内科に電話した

 ある日、私は家族と出掛けた真新しいショッピングモールの入り口で、楽しそうに笑いさざめく群衆の中へ入っていこうとした瞬間、足が止まりました。自分の意思で足を動かすことができなくなりました。「幸せそうな人々の喧騒」が、当時の私にはキャパシティーオーバーでした。

 ああもういよいよダメかもしれない。もう歩けない。
 これは人の助けがいるのかもしれない。

 家族を先に行かせて、私はすぐ近くのエレベーターホールに身を隠し、以前街で見かけた心療内科に電話をかけました。「あの……すみません、自分では分からないのですが……私、もしかすると先生に診ていただく必要があるのではないかと思うのです」

 妙な言い方です。でもそうとしか言えないのでした。おかしな患者に、受付の女性はこう聞きました。「もうダメ、という感覚がありますか?」

 「自分では分からないんです」私は繰り返しました。「……でも、たぶん、もう無理なんじゃないのかな、って……」口にした途端、電話口ではらはらと涙がこぼれました。

 重症ではなく、当時いわれていた「軽うつ」で済んだのは幸いでした。そこから1年半、通院も投薬も周囲には隠しながら、心のバランスを取り戻しました。

 あの頃、あんなに肩肘張らずに、周りの人に「助けてください」と言えたなら。あまりにも、あまりにも生真面目で勝ち気だった当時の私は、他人の優しい言葉を振り切って走っていくうちに、その場に座り込んでいたのですね。

 だから汐街コナさんの漫画がツイッターで30万リツイートされ、大評判となって私の目にも届いたとき、

 「これ、私のことだ。」

 と、私も思ったのです。

「まだ大丈夫」は見えない刃物で自分を刺し続けるくらい危険

 この本を読んだ就職活動中の女子学生は、インスタグラムにこう投稿しています。

 私はまだ学生で、仕事もしていなければ社会人の世界がどのような感じなのかも知らない。実際、この本を手に取り、読むのにすごく勇気が必要だったし、読み始めたら涙が止まらなかった。
 この本をどうしても読まなければならないと感じた理由。それは私の兄が実際にそうだったから。もっと早く、この問題が世間で大きく取り上げられていたら。この本を兄に読ませることができていたら。救うことができたら。
 死ぬまで頑張り過ぎないでって。命より大切なものはないんだよって。「まだ大丈夫」だと自分に言い聞かせ続けるのは、見えない刃物で自分を刺し続けるくらい危険なこと。
 ただいま、就活中。社会人生活、この本を読み直しながら頑張り過ぎない程度に、広い世界で自分勝手に生きていこうっ。うそ。頑張る、けど気楽にね。(22歳女性)

 また、出版社には社会人数年目の女性たちから、このような感想が寄せられています。

■26歳女性
 私も何度電車に飛び込もうか車道に飛び出そうか、って考えたか分からないので、その考えの異常さがすごく分かる本でした。あと、精神科医の監修つきで、病院の選び方とかも載っているのがいいですね。
 印象に残ったのは、「同じ働き方が余裕でできる人もいればできない人もいる」ことと、「頑張っていることは自分で決めたことなのか」っていう考え方。なるほどと思いました!
■27歳女性
 読み終えてなんだか優しい気持ちになれました。ちょうど大きな仕事が終わって少し落ち着いたところだったので、いっぱいいっぱいだった自分を客観的に振り返ることもできて。休むことの大切さはまさに、先日強制的に有休を取って仕事から離れたことで改めて実感したところでもありました。
 本の中に出てくる言葉「頑張る道は一つじゃない 方法も一つじゃない 人間も1種類じゃない」「自分に合った頑張り方を見つけるのは 逃げることじゃない」が好きです。漫画作者さんみたいに、紆余曲折の末に思ってもみない形で夢を叶えたっていうあとがきにもつながっていて、よいメッセージだと思いました。
賽の河原で石を積む、独り相撲、逃げてもいい……先輩女性たちの言葉

 30代以上となった働く女性たちにも、それぞれの歴史と、後悔があります。

■30代前半女性
 私も、裁量を与えられていないのに中心になって引っ張っていく立場だった頃、なぜか涙が出るという症状に悩まされました。やり直しやひっくり返し等々が多く、さいの河原で石を積んでいる気分でした。
 それと、「好きなことを仕事にしているはずなのに」という本の中の言葉が印象的でした。うつで自殺してしまった友人がいるのですが、彼女が「やりたいことを仕事にすべき」という、真面目な人でした。だからやりたいことを仕事にする必要もないですよ、と多様な価値観を認めるようになりたいと思います。ワークライフバランスの人も、ワークライフインテグレーションの人も、それぞれ押し付け合わず尊重し合うことが、仕事のプレッシャーから解放される一助になるのではないかと思いました。
■30代前半女性
 この漫画がリアルだなと思ったのは、超絶忙しいときはなんともなくても、突然時間ができると時間差で精神が病んでくる、というところ。
 実は先日、キャパオーバーの仕事や先輩同僚たちの重なる退職が影響したのか、体調を崩してしまいました。でも私は、休職ではなく長期休暇を取得するかたちにして3週間ほど休むことにしました。
 うちの会社は、無理な仕事のアサインの連続が原因で体調不良に陥ったとき、管理者が注意を受け、場合によっては上司の評価が下がります。医師の診断書を持って休職したら、自分ももちろん、上司の評価も下がる。脅しのようなものも少々感じますが、「会社を辞めると自分にとっては損だ」と客観視できているので、今の上司との関係は悪化させたくないんです……。
■30代前半女性
 「他者は自分の仲間である」ということを知らなかった、若手時代。仲間だと思えていたら助けを求められるし、相談もできるんですよね。若い頃や新しい案件の担当になったばかりの頃は、仕事の成果や貢献の仕方をきちんと把握できていないがために、「とにかく頑張る」というとても非効率で苦しいだけの戦い方を選んでしまいました。
 見えっ張りだったり他人を本当には信用できていないから傷付くのを避けて、一人で頑張って一人で転んで、独り相撲してたなぁ、と思います。ただ、仕事が好きで自分の調子がいいと、人にも同じように求めてしまいがちですよね。昔、鬱になってしまった後輩に対して「私の仕事量の半分くらいしか担当していないのに潰れるなんて、こんな量でダメならこの仕事には向いていないんじゃないか?(私は向いているけど!)」なんてひどいことを思ったり、「この程度の仕事で後輩がつまずくなんて、私は先輩として無能なのではないか」と、自分のことばっかり気にしていました。お前はそれでも人間か!1と、今なら引っぱたきたいです……。
■30代後半女性
 周りがうつになってしまったとき、どうしたら良いのかが今でも分からずにいます。7〜8年前に、友人が本に書かれていたような症状に近かったのですがその友人は休職中でした。今思えば、おそらく前の会社を辞めて次へ進むのが怖かったんだろうと思います。
 ただ、私はその頃とても忙しく、そんな中で彼女と3日に1回は会い、励まし、「仕事が見つからない、そもそも働く自信がない……」の無限ループを聞くのがつらかった。ついに、「私なんか死んじゃえばいいんだ」と言い出す彼女に、「働いていないのに、うつになんてなるの? 働きたくないなんて、甘えじゃないの?」と突き放し、それから疎遠になってしまいました。
 今思うとあればうつだったのかな。今でもあのときのことを時々思い出しては、後悔の気持ちでいっぱいですし、今ごろ元気でいてほしいな……と思うんです。
■30代後半女性
 社会人になってから、大きな理由があるわけではないのに、会社に行きたくなくなって、好きな仕事だったのにやりがいがなくなり、メンタルクリニックに通って1カ月休職したことがあります。それでも「死にたい」ほどのうつにはなりませんでした。
 思い返すと、中学生時代にいじめなどに遭ったのがきっかけで、「逃げてもいい」ということを親から教えてもらいました。世の中にはいろんな人がいていろんな世界があるのだと学生時代に学んだおかげで、前述の社会人でのプチうつ経験時も、「信頼できる人にとにかく話して助けを求める」「嫌なことから距離を置く」という選択ができたから、重度のうつにならなかったのかもしれません。ただ、これまで「私は逃げてばかりの弱い人間だ」という自責の念もありました。この漫画を読んで、「ああ、私は弱かったわけではないのかもな」と安心しました。

誰もが、心の奥につき刺さった経験を持っている(C)PIXTA


「作者のお母さんみたいになりたい」

 「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」は、ツイッターやインスタグラムで「#死ぬ辞め」などのハッシュタグで、感想がたくさん投稿・拡散されています。

 その中に、「私は作者のお母さんみたいな人になりたい」との印象的な声がありました。

 この本の中で、以前ハローワークで働いていたこともある作者のお母さんは、長時間労働と深夜帰宅の続く娘にこう声を掛けるのです。

 「先輩や同僚のほうがもっと残業しているから帰れない、なんて言うんなら、その人たちに任せて帰ればええやないの。その人たちは平気でできるんやろ? アンタはできへんのやから、できる人がやった方が効率的やないの」

 「今日ハローワークに来た人、会社の指示通りに仕事をした結果身体が不自由になって、会社は責任もとらんとクビにして。でも身体不自由やし、次の仕事も決まらなくて。自分の体がおかしくなってるかもって思ったら我慢したらあかん。会社はいちいちあんたが本当に大丈夫かなんて考えてくれへんよ。全部我慢して体壊して仕事しても、誰も感謝してくれへんし責任もとってくれないんよ」

 逃げてもいい、逃げなさい、と他者に声を掛けてあげられる人は、自分こそが昔、逃げられずに自分を追い詰めてしまった経験をした人なのだと思います。

そう、逃げてもいいんです(C)PIXTA

 「つらい」と思っている人に、理由なんかありません。理由があったとしても、それが客観的に見て合理的かなんて、関係ありません。その人にとっては、「いま」「とにかく」「つらい」のです。心と体が悲鳴を上げているのです。

 うつ状態にあった頃の私は、完全に追い詰められた精神状態の反映なのでしょう。当時日本を代表する優秀な女性が「適応障害」と診断されて公務から離れるとの報道に、「鳴り物入りで自分で決めて入ったのに、そんなふうにして逃げるなんて弱い」と怒りさえ感じていました。人を追い詰める人間は、実は自分も追い詰められているのだと、今振り返ると思います。

 自分をむしばみ、やがて死に至らせるほどのつらい状況から一旦離れるために、「逃げていい」「休んでいい」。

 そしてそれを身に染みて知っている人は、ぜひ他者にもそう声を掛けてあげてほしいのです。お互いに追い詰め合う社会には、汐街さんが漫画に描いた、あの暗闇にそびえ立つ険しい道しか残されないのですから。

文/河崎 環 写真/PIXTA

【参考】
「『死ぬくらいなら会社辞めれば』ができない理由(ワケ)」(汐街コナ著/あさ出版) Profile
河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川県育ち。家族の転勤により桜蔭学園中高から大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での生活を経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆を続けている。子どもは20歳の長女、11歳の長男の2人。著書に「女子の生き様は顔に出る」(プレジデント社)

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日経ウーマンオンライン

2017/04/27掲載記事を転載
リアル過ぎ 大ヒット過労死マンガに響く私たちの叫び