vol5 のどかな山間にある木工工房で、家具づくりの面白さに目覚めました

広島県の東南部に位置し、三方を山々に囲まれた府中市。
古くから機械・家具・金属などの製造業を中心に「ものづくり」のまちとして発展し、全国規模の企業が数多く立地している。
また、府中市では子育てを全面的にサポートし、「保育園の待機児童はゼロ」。
女性が就業しやすく、多様な働き方ができる地域でもある。
そんな府中市で、今まさに活躍している女性をクローズアップ。
今回は、海外展開も視野に入れ、オリジナル製品づくりにも注力する家具メーカー
「伝統工芸」で働く岡田花恵さん、赤木由美さん、取締役の服巻智恵さんに、
仕事のやりがいや子育て環境について聞いた。

学生時代を過ごした米国で就職するはずが……

伝統工芸株式会社
取締役
服巻 智恵さん(48歳)
Chie Fukumaki

──「伝統工芸」は、どのような会社ですか。
服巻 1983年に私の父が創業した会社で、大手額縁メーカーの下請けとして額縁、茶道具、屏風などを製造してきましたが、業界の不振により2011年にインテリア家具へと転換しました。業務としてはOEM製品の製造ほか、2015年からオリジナル家具の企画・製造販売を行っています。
──服巻さんは、実家の会社に就職したのですね。
服巻 はい、父の強引な説得で(笑)。実は、高校卒業の時点で銀行への就職が決まっていましたが、父はそれを許さず、専門学校に行って、その後に会社を手伝えと。銀行には未練がありましたが、父の言うことは絶対だったので、専門学校で簿記やパソコンを学び、会社の経理や事務全般を担うことになりました。ただ、専門学校時代に飲食店のアルバイトで知り合った今の主人も一緒に弊社の製造部門に就職し、同時に結婚もするという展開になりましたが(笑)。2014年からは、主人が社長を務めています。

伝統工芸株式会社
岡田 花恵さん(38歳)
Hanae Okada

──岡田さんは2014年、赤木さんは2015年から同社で働き始めたとうかがいましたが、どのような理由からですか。
岡田 高校卒業後に勤務していた繊維会社を出産を機に辞め、専業主婦をしていました。2人目の子どもが保育所に通うようになり、また働きたいと思っていたところ、知人に紹介されたんです。木工の仕事にも興味がありましたが、いちばんの理由は勤務時間が午前9時から午後4時までだったりと時間の融通がきく点。子どものお迎えもでき、子育てしながら働けることが決め手でした。

伝統工芸株式会社
赤木 由美さん(32歳)
Yumi Akagi

赤木 私も9歳と4歳の子どもがいて、以前は調理の仕事をしていましたが、その職場は人手が足りなかったので、突然休んだりということが難しくて。ここはハローワークで見つけて、子どもの急な熱やケガのときにも早退できたり、休んだりできると聞き、それならばと決めました。ただ、どんな仕事をするのかわからなかったので不安でしたが、会社のFacebookでみんなが働いている姿などを見て、社内の雰囲気もよさそうだし、木工も面白そうだなと思ったことも大きかったですね。

ものをつくる仕事の魅力は自分の成長を実感できること

たんぽぽ園 無垢(むく)の素材を使用したオリジナル家具「LISCIO(リッショ)」。木材に曲面を取り入れ、木目の美しさや触り心地、掛け心地、そして使い勝手のいい軽快なスタイルを目指した。ノックダウン方式を採用し、すべてのアイテムは付属の六角レンチで組み立てられる。また、額縁のオリジナルブランド「FRAME(フレーム)」も販売

──現在、お2人はどのような仕事をしているのでしょうか。
岡田 製造されたもの、例えば椅子の座面や脚部分を研磨し、オイルやワックスを塗り、梱包する仕事をしています。
赤木 私も同じ仕事をしています。
服巻 基本的に製造については男性社員が担当し、女性社員は仕上げなどを行っています。研磨といった細かい作業は女性の方が向いていて、とても丁寧に行ってくれますので、昔から弊社では女性の担当分野でした。

──ものづくりの仕事をしてみていかがですか。
岡田 木工に携わるのは初めてでしたが、作業の順序やコツなどをその都度わかりやすく教えてもらえたので、これなら続けられるなと思いました。研磨にはサンドペーパーや布のやすりを使ったり、「エアサンダー」という機械を使用することもあります。この機械はずっしりと重くて慣れるのが大変でしたが、その分、つるっと仕上がったときはすごく達成感があります。オイルを塗ると表情がガラリと変わるのも面白いですね。ものづくりのいいところは完成したものを目の前にできること。カタログなどで製品を見ても、素直に「自分が手がけたものだ、すごいな」と感じます(笑)。


赤木 私も木工初心者ですが、いちばん大変なのは200〜300種類もある製品ごとに、角に施す丸み、つまり“R”のつけ方が異なり、それを一つひとつ覚えなければならないことです。メモを取りながら覚えるようにしていますが、樹種によっても力の入れ方を変えないといけないので、なかなか難しいですね。
服巻 弊社のオリジナル家具のブランド名「LISCIO(リッショ)」は、イタリア語で「なめらか」という意味で、曲面の美しさや手触りのよさを重視しています。ですから、2人が担っている研磨は、とても大切なパートなんですよ。
赤木 「Rの感じがなってない」とチェックされることもたびたびありますが、何度かやっているうちに「ここまでは赤木さんがやっていいよ」と任されるようになったときがいちばんうれしい。ものをつくる仕事の魅力は、徐々に1つのことが上達していったりと自分の成長を感じられるところです。

周囲の信頼を得られるように“一人前”を目指す

サンドペーパーなどを使い、手作業で家具のパーツを丁寧に研磨していく。伝統工芸ならではのなめらかで優美な曲面は、この細やかな作業から生まれる

──伝統工芸で働いていて、仕事と子育てを両立できていますか。
岡田 はい。学校から子どもがケガをしたので迎えに来てほしいという連絡が何回かきましたが、そのたびに周囲のみんなは快く送り出してくれますし、その後出社すると「大丈夫だった?」と気づかってくれる。とても働きやすい環境です。夏になると会社の敷地内で従業員やその家族でバーベキューをしますが、そのときに小学生の息子は廃材をもらって夏休みの工作をしています。息子は木工に興味を持ったようで、「社内でいちばんうまい人の弟子になる」と言っているぐらい。子どもにとって貴重な体験の場にもなっています。
赤木 以前の職場は何があっても休めない雰囲気でしたが、今は突発的なことで休んでも嫌な顔もされず、気兼ねなく働けます。
服巻 現在、岡田さんと赤木さんはパート勤務ですが、2人の希望もあり、いずれ正社員にと考えています。ただ、正社員になっても「子育て優先で」という方針は変えないつもりです。というのも、産後1週間で給与計算をしたりと、私自身、仕事と育児の両立に苦労したものですから。当時は0歳児を預かってくれる保育園などなく、事務所の机と机の間にカゴをくくりつけて、そこに子どもを寝かせて揺らしながら事務仕事をしたりと大変だったので、2人には働きながらも今の子育て期間を大切にしてほしいと思っているんです。

岡田 そんなふうに応援してもらえるのは、本当にありがたいことです。府中市の子育て環境も以前に比べてずっとよくなっていて、今は0歳児から預けられますし、保育所もきれいで待機児童もゼロ。しかも、保育料や小児医療費がここ数年で安くなり、助かっています。自然が豊かなことも、子育て環境として恵まれていますね。山でカブト虫を捕ったり、ザリガニ釣りをしたり、雪が降れば雪遊びをしたり、四季折々に楽しいことがいっぱいです。
赤木 私は府中市の隣の神石高原町在住ですが、就業後にこの周辺で買い物をして帰ったり、病院も数があるのでお世話になったり。府中市を便利に活用させてもらっています(笑)。

──最後に、今後の夢を聞かせてください。
岡田 次々と新しい製品が生まれてくるので、それにどんどん対応していきたい。今はまだ教えてもらいながらなので、1人ですべてできるようになって会社に貢献したいと思います。
赤木 最初は覚えることに必死でしたが、だんだん研磨の技術をレベルアップすることに加え、数も上げていきたいと思うようになり、近ごろは時計を見ながら何時までに何個やろうと目標を決めています。それをクリアしていくことが楽しいので、これからもそうやって仕事を面白くする工夫をしていきたいですね。そして、「赤木さんが来たから大丈夫」と思ってもらえるようになりたいです。
服巻 額縁から家具への移行時期は経営難に陥ったりと紆余(うよ)曲折ありましたが、現在は仕事も増え、経営は上り調子です。いずれはオリジナル家具をメーンに据え、国内での認知度を高めるのはもちろん、世界進出も目指していきたいと考えています。