Vol.4 帰郷して保育の担い手となり新たなやりがいを見つけました

広島県の東南部に位置し、三方を山々に囲まれた府中市。
古くから機械・家具・金属などの製造業を中心に「ものづくり」のまちとして発展し、全国規模の企業が数多く立地している。
また、府中市では子育てを全面的にサポートし、「保育園の待機児童はゼロ」。
女性が就業しやすく、多様な働き方ができる地域でもある。
そんな府中市で、今まさに活躍している女性をクローズアップ。
今回は、米国での就職を望むも、ある事情から地元の府中市に戻り、実家の保育所を継いだ吉原純さんに、保育への取り組みや府中市の子育て環境などについて聞いた。

学生時代を過ごした米国で就職するはずが……

社会福祉法人 英明会
たんぽぽ園保育所
吉原 純さん(45歳)
Jun Yoshihara

 外遊びの子どもたちは、みんな裸足。砂場で砂まみれになって遊んだり、運動会のダンスの練習にはしゃいだり。そんな子どもたちの歓声が、足裏に心地いい芝生の園庭に響く。 「子どもたちが仲間と一緒に笑っている姿を見ると、この仕事に就いてよかったなと心から思います」
 楽しそうな園児を目にして微笑む吉原純さんは、府中市にあるこの認可保育所「たんぽぽ園」の所長だ。しかし、今でこそ保育所の運営に打ち込んでいるが、実は想定外のことだったという。 「高校1年のとき“才能も特技もないおまえは米国に行きなさい”と、父の一存でテキサスのハイスクールに1年間留学しました。父は独創的な人で、びっくりさせられることが多いです(笑)。英語は全然できなかったけど、“もう決めたから”という父の言葉に押され、渡米しました」
 学校では誰にも頼れず、つらいことが多かったという留学期間を過ごし、打たれ強さと英語を身につけて帰国。高校卒業後は「もっと語学を学びたい」とテキサスの短大に進学した。就職も米国でと考え、就職活動を行っている最中に、実家から手紙が届いた。

「母が歩けなくなったと書いてあって驚きました。携帯電話もない時代で確認もできず、卒業後就職活動をしていましたが、中断して帰国したら、なんとピンピンしてるじゃないですか。安心した半面、“どういうことじゃ?”と(笑)。確かに足は痛かったようだけど、大したことはなかったようで。ただ、私はワーキングビザがないので、米国には戻れなくなりました」
 以降、塾の英語講師や市役所の臨時職員、府中市の輸入会社に勤務。その後「人手が足りなくなった」との理由から、母親が運営する無認可保育所を手伝い始め、程なくして保育士の資格も取得した。そして、2005年、保育体制の充実を目指した府中市の保育体制再編整備計画により、大きな決断を迫られることになる。
「数年後に無認可への補助金が廃止されるので保育所を閉所するか、法人化して認可を取るかの2択となったのです。存続のためには私が所長を継いで法人化するしかなかったのですが、責任ある立場ですから自分の自由になる人生ではなくなるし、これまでの経験はなんだったのかという思いもあって、本当に悩みました」

理想は子どもの力を最大限に引き出す保育

たんぽぽ園 生後8週から5歳児までの子どもたちが元気いっぱいに過ごしている「たんぽぽ園」。子どもの健やかな成長には「食」が重要と考え、給食はなるべく国産の食材を使い、冷凍食品は使わず、地産地消を心がけている

 最終的に、母親が頑張って支えてきた保育所を存続させたいとの思いと、社会的に大切なものであるなら守らなければという思いから、引き継ぐことを決めた。 「決断したらもう迷わず、前向きに取り組む。それが、私のモットーです。ただ、社会福祉法人を立ち上げるのはとても大変でした。ちょうど妊娠期間と法人化の準備が重なったのです」
 なにより書類作業が煩雑で、日中は保育の仕事、夜は書類作りやパソコン作業と身重の体で奔走。「当時の記憶があまりない」ほどの怒涛(どとう)の日々を乗り越え、2008年に出産、翌年4月に認可保育所のオープンにこぎ着けた。
 現在では、所長と法人の業務、事務全般を担い、保育所の運営にあたる。方針としているのは「教え込むのではなく、子どもの力を最大限に引き出す保育」。規則正しい生活の中、親との愛情関係を結んだ上で心と体を育て、3歳になったらチャレンジや失敗を繰り返しながら自立心を養っていく。そんな育て方を理想としている。

「それは母が大事にしてきた保育でもあるし、私も米国での生活や様々な仕事の経験を通して、人が幸せになるためには“自分で考える力”や“自分を肯定できる自信”を育むことが重要だと痛感しました。いつでも巻き返しができる知識の習得より、子どもたちそれぞれの独創性を伸ばすことを優先したいと思っています」
 子どもの保育はもちろん、保護者や保育士とのコミュニケーションを密にすることも大事にしている。
「子どもが言うことを聞かず、怒ってばかりの自分を責めて泣かれるお母さんなど、頑張りすぎていっぱいいっぱいになっている親御さんは多いですね。ですから、なるべくお話を聞くようにしています。園で働く保育士も同じ。一人ひとりの困りごとや要望を聞き、みんなで話し合って理解し合い、働きやすい環境づくりを心がけています。周囲の大人たちが元気でいることも大切ですから」

仕事と子育てを両立する秘訣は「人生設計」

「たんぽぽ園」では保育に英語を使った遊びを取り入れている。「園児ぐらいの年齢では英語を暗記させてもすぐに忘れてしまうもの。まず、英語は楽しいものと知ってもらうために、絵本を読んだり、歌をうたったりと遊びの中で英語とふれあうことを大切にしています」(吉原さん)

  保育の担い手であり、母親でもある吉原さん。保育所を継ぐと決めたときに「人生設計」をして、仕事と子育てを両立してきた。
「結婚後は保育所のある府中に住む必要があるので、結婚前にそれでいいかどうか主人に確認したり、府中で出産した場合、私の実家なら徒歩で通える小学校があるので、子どもが小学生になったら母にフルタイム勤務からパートへと変わってもらって、子どもの帰宅時に家にいてもらおうとか、大体の計画を立てました」
 保育所も一般の人と同じように申請し、望んだとおり「たんぽぽ園」に通えることに。計画性はもちろんのこと、府中市の恵まれた子育て環境も味方となった。

「希望する保育所に行けないどころか、下手をすると保育所に通えないという切実な問題を抱える地域がある中で、通える範囲にいくつもの保育所があるのは府中市のいいところ。どの保育所も入園前の子どもを対象にした園庭開放の日があるので、見学したり遊んだりしながら、どの保育所がいいか見て回ることもできます。また、ありがたいなと思うのは、乳幼児等医療の助成ですね」
 これは、0歳から中学卒業までの医療費負担が医療機関ごとに1日500円ですむという市の制度。4回通院すると、それ以降は無料になる。「子どものケガや病気は長引くこともあるのでとても助かる」と吉原さん。保育所や子育て支援施設がそろい、手厚い制度が整っている府中市は、働きながら子育てしやすい場所ともいう。
「小さな市なので、行政の方と市のあり方について話ができたりと市民の声が届きやすいので、地域の活性化などに興味がある方には面白い市だと思います。ぜひここに住んで、まちづくりに参加してほしいですね。私も今後は、保育所を建て替えて、学年ごとに活動する場所を設けながらも、異年齢の子どもたちが一緒に生活するスペースを設けたり、学童や老人集会所などの機能も併せ持った保育所をつくりたい。地域の人々が集うことによって、子どもたちが様々な刺激を受けられるような施設にしていきたいと考えています」

社会福祉法人英明会 たんぽぽ園保育所 募集職種