越前市で発見! キラリ輝く、モノづくり女子たち

家業の手漉き和紙づくりに携わる長田泉さん

vol.10長田泉さん(27歳)
株式会社長田製紙所

越前市を離れ、大学進学・就職するもUターンを決意。1500年の歴史を誇る越前市の伝統工芸「越前和紙」の伝承者として、国内のみならず世界への発信を目指す。

共働き率全国ナンバーワン(※1)で、かつ出生率も全国上位を維持するなど、女性が産みやすく働きやすい環境が整っていることで有名な福井県。その中央部に位置する越前市は、女性の就労や子育てについて、とりわけ手厚い支援体制があることで知られている。

今回は、家業の手漉き和紙づくりに携わる長田泉さん(27歳)に、越前市へのUターンを決めた理由や仕事などについて聞いた。

※1 福井県の共働き率58.6%、全国平均48.8%(総務省「平成27年度国勢調査」より)

いにしえより伝説とともに伝承されてきた越前和紙

長田泉さん(27歳) 株式会社長田製紙所
長田泉さん(27歳) 株式会社長田製紙所

 さかのぼること奈良時代に国府が置かれ、北陸の政治・経済・文化の中心地として繁栄した越前市。古くからモノづくりの町としても知られ、国の伝統工芸品に指定されている「越前和紙」「越前打刃物」「越前箪笥」といった伝統産業が受け継がれてきた。

 なかでも、1500年前に美しい姫によって紙漉きの技術が伝えられたという伝説を持つ越前和紙は、手漉き和紙において日本一のシェアを誇る。清らかな水を使って一枚一枚漉かれる越前和紙は、日本で最初の紙幣に採用されたり、横山大観やピカソといった有名画家に愛用されたりと品質の高さでも名高い。その産地である越前市に流れる岡本川に沿った五箇地区には和紙業者が軒を並べ、「紙漉きのまち」とも呼ばれている。

 この地で、およそ140年前に越前初の手漉き襖紙を手がけてから、四代にわたって越前和紙づくりに勤しんできたのが長田製紙所だ。現在では、手漉き和紙の伝統技法を守りつつ、襖紙デザイン・製造のほか、美術工芸紙、照明器具など様々な和紙製品を世に送り出している。

 四代目の長女として生まれた長田泉さんは、「大学に進学するまで、家業にはまったく興味がなかった」と話す。越前に生まれ育ち、一度も行ったことがなかった「海外」に憧れ、外国語学部のある大阪の大学に進学。2年生のときにイギリスに留学し、そこを拠点に巡ったヨーロッパの国々をはじめ、卒業までに26カ国を旅した。

 さらに、海外熱は高まり、卒業後は東京にある秘境専門の旅行会社に就職。「その会社に入れば、1カ月に1回は添乗員として様々な国に行けるということが志望動機でした。ただ、入社したときはすでに、3年ぐらい勤めたら辞めて、実家に戻ろうと考えていました」

 

手漉き和紙の制作工程も伝えていきたい

襖紙を得意とする長田製紙所で、現在長田さんは紙漉きの見習い中。熟練の職人から指導を受ける。できあがった紙にハケでにかわを塗り、手で揉んでシワ加工を施す「揉み紙」づくりの手伝いも。手作業で「揉み紙」をつくるのは珍しく、長田製紙所では表情のあるこの紙を使用して名刺入れやアクセサリーなどの小物も製造・販売している
襖紙を得意とする長田製紙所で、現在長田さんは紙漉きの見習い中。熟練の職人から指導を受ける。できあがった紙にハケでにかわを塗り、手で揉んでシワ加工を施す「揉み紙」づくりの手伝いも。手作業で「揉み紙」をつくるのは珍しく、長田製紙所では表情のあるこの紙を使用して名刺入れやアクセサリーなどの小物も製造・販売している

 長田さんの気持ちを変化させたもの、それは大学の授業だった。「3年生のときにマーケティングや経営を学んで、こういうことを実家の製紙所に活かしたら面白いのではないか」と思い、帰郷を意識し始めたという。その前に好きなことをしようという気持ちで、旅行会社で3年半を過ごした。

 「自分ではなかなか行けない国に行くことができましたし、仕事的には充実していました。ただ、旅行会社のツアーは時間の関係上、表面的なところしか回れません。それはそれでいいのですが、学生時代に一人で3週間ぐらいタイ北部の奥地をのんびり旅したときの方が、その土地に溶け込むことができたなと。地元の人と仲よくなって、すごくきれいな棚田を見に連れて行ってもらったりとか、ガイドブックには載っていないものに出会えました」

 こうした経験から抱くようになった「地元の越前も深掘りしたら新しい発見があるかもしれない」との期待も、Uターンの後押しとなった。

 2018年に越前に戻り、長田製紙所で働き始めた長田さん。現在は、紙漉きを学びながら営業や事務作業、ホームページの作成などを行っている。

 「目指すところは紙漉きのプロですが、同時に伝えることもしていきたい。最近、クラフトマーケットのような展示販売会に商品を出品することが多いのですが、商品を見ただけではそれがどうつくられたのかという背景まではわかりません。商品へのこだわりを知ってもらうためにも、制作工程を見てもらった上で購入していただくのが理想ですが、それがなかなか難しい。今のところ、動画や写真を撮ってホームページにアップしたり、一部、工場見学を兼ねて商品を販売したりもしていますが、ものづくりの現場をいかに伝えていくかは、これからの大きな課題です」

ものづくりの若者が集うコミュニティも

 Uターンして約1年。期待していた「地元の深掘り」はできたのだろうか。

 「近所に岡太神社・大瀧神社がありますが、子どもの頃によく遊んだ場所としか認識していませんでした。でも、越前に紙漉きを伝えたといわれる女神“川上御前を日本で唯一の紙の神としてお祀りしていたり、日本一複雑な屋根の構造を持っていたりと、”知れば知るほど奥深さが感じられることがいくつも発見できました。岡太神社・大瀧神社に関しては、元添乗員の経験を活かして観光客向けのガイドもしています」

 家業の紙漉きも、地元についても、近すぎてよく見えなかったことが、一度離れたことで客観視でき、その魅力が見えるようになったという長田さん。地元では、新たな人間関係も育んでいる。

 「このあたりには越前和紙をはじめ、伝統工芸品づくりに携わっている20〜30代の若者が集うコミュニティがあります。制度化されたものでも堅苦しいものでもなく、活動内容は情報交換を目的とした“飲み会”(笑)。越前和紙の若い職人だけで集まることもありますが、先日は越前焼や越前打刃物の職人も加わった総勢30人ぐらいの飲み会に参加しました。その4割近くは県外から移住してきた人たちです」

 地方で働き、暮らすことを考えたとき、地元の人と打ち解けられるかどうかは気になるところだが、越前の若者たちは自分たちのやり方で、ものづくりを志す移住者を受け入れる環境づくりをしている。長田さんも「この地域に見かけない人が歩いていたら、ガンガン話しかけに行く(笑)」と“よそ者”を受け入れることに積極的だ。

 「すでに移住している若者がたくさんいるので、地域に溶け込みやすい場所だと思います。しかも、紙漉きを学ぶなら越前和紙がおすすめです。というのも、名刺サイズから室内装飾の類まで種類が豊富なことが越前和紙の魅力ですが、越前ではそういった多種多様な紙を漉くための様々な技法を学ぶことができます。また、製紙会社間で交流も盛んで、他の工場の職人さんに話を聞くことができるのもいいですね」

 これからも伝統産業を広く伝えていきたいという長田さん。「今後は世界に発信していくことが目標」と、その目は未来を見据えている。

近年では、先々代より伝わる「飛龍」(絵柄を漉き込む技法)を用い、お客様のニーズに合わせてアート作品を制作している長田製紙所。国内外のホテル、レストラン、百貨店、成田空港などにも壁紙・オブジェ・巨大タペストリーなどを納めている
近年では、先々代より伝わる「飛龍」(絵柄を漉き込む技法)を用い、お客様のニーズに合わせてアート作品を制作している長田製紙所。国内外のホテル、レストラン、百貨店、成田空港などにも壁紙・オブジェ・巨大タペストリーなどを納めている

福井県越前市で働く

越前和紙産地には越前和紙を学ぶ若者を受け入れるための施設がある。伝統技術を学ぶ人に安価な賃貸料で住居を提供する「越前長屋」と体験施設「越前てわざ工房」だ。越前和紙伝統工芸士が県内外の研修生に和紙の製造過程を教えるなど紙漉きの後継者育成に注力している。詳しくは福井県和紙工業協同組合まで。

■福井県和紙工業協同組合
https://www.washi.jp/index.html