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これぞ我が社の生きる道

第11回 株式会社アストロスケール ゼネラルマネージャー 伊藤 美樹氏

第11回 株式会社アストロスケール ゼネラルマネージャー 伊藤 美樹氏

経済構造が大きく変化し、しのぎを削るライバル企業であっても協業の道を探り、ともに生き残りの道を切り開いていくことが珍しくなくなってきています。

「フレネミー(友人と敵を組み合わせた造語)」という言葉も登場するなど、生き残りをかけた危機感は、大企業をはじめ企業の規模を問わず強まるばかり。そんななか、独自性をもって活路を見いだした企業も数多く存在します。

このコラムでは、人手不足や少子高齢化などという経営の逆風を吹き飛ばし、我が道を力強く突き進む企業の姿を追いかけていきます。

宇宙における安全航行の確保 ニッチな領域に勝機あり

 東京都墨田区錦糸町、東京スカイツリーを間近に大通りから横道に入ると、町工場や倉庫が点在する地区にたどりつく。その一角に「SPACE SWEEPERS(宇宙の掃除屋たち)」の文字が描かれたシャッターが印象的なガレージハウスのようなビルがある。

 この建物こそ、世界に先駆けて人工衛星やロケットなど宇宙機の安全航行の確保を目指し、宇宙ごみ(スペースデブリ) 除去サービスの開発に取り組むベンチャー、アストロスケールの研究開発拠点だ。3階建ての社屋の限られたスペースで、人工衛星の設計から運用までをトータルで行っている。

 同社の創業は2013年。人工衛星やロケットに衝突すれば深刻なダメージを与えかねない、スペースデブリの存在に危機感を抱いた岡田光信氏が創業した。宇宙業界に詳しい知見者からは、スペースデブリ除去を事業として実現させるには、莫大な費用がかかると忠告されたという。

 岡田氏は誰も取り組んでいない分野にこそ勝機があると起業を決意。日本法人は同社の人工衛星の開発拠点として15年2月にスタートし、現在は50人ほどが勤務する。その日本法人の基幹を担い、自身もエンジニアとして第一線で活躍するのが、ゼネラルマネージャーの伊藤美樹氏だ。

あと数十年で宇宙はごみだらけ もう動かずにいられない

提供:アストロスケール

 宇宙の軌道上にある不要なスペースデブリの発生要因は、大きく分けて二つある。一つは人工衛星が壊れたり、運用を終了したりした場合の残骸や使用済みロケット上段などで、もう一つは人工衛星同士が衝突して生じるパターンだ。

 人類が宇宙開発を開始してから約60年が経過。その間に何千回もの打ち上げが行われ、数千トンもの衛星やロケットが宇宙空間に投入された。その結果、地球から観測できる10センチ以上のごみは約2万3千個、観測できない小さなごみも含めれば、その数は推計1億個以上とも言われている。

 自然消滅しないスペースデブリは、デブリ同士の衝突によって発生した破片が次の衝突を引き起こし、連鎖衝突を招くことで自己増殖する可能性がある。
 「誰かが除去しない限り、宇宙空間に永久的に浮遊し増え続ける。スペースデブリの空間密度が閾値(いきち)を超えたら、進行はもはや止められない」と、伊藤氏は危機感をあらわにする。研究者の中には、あと数十年で宇宙がごみだらけになると警鐘を鳴らす専門家もいるそうだ。

 数センチ以下の小さなスペースデブリでも、低軌道では秒速7~8キロ以上(東京~大阪間を1秒で移動する速さ)と非常に高速になり、人工衛星を爆発させるほどの破壊力を持つ。実際に09年2月には、人工衛星に衝突する事案が発生。スペースデブリからの衝突を避けるため、現在も世界全体で年間100件程度の軌道修正が行われているという。

人工衛星の安全を守る 目指すは宇宙版ロードサービス

提供:アストロスケール

 意外に知られていないが、通信、BS放送、測位分野、安全保障、災害対策など、現代社会はあらゆる場面で人工衛星からのデータに頼っている。
 「スペースデブリの衝突によって人工衛星が破壊されれば、世界中の経済や流通が滞り、人工衛星を活用していなかった数十年前に一気に逆戻りしてしまうかもしれない」。伊藤氏はスペースデブリ除去事業が果たす役割や重要性を説く。

 我々の日常生活にも支障をきたす可能性があるスペースデブリの問題は、世界中の人々にとっても喫緊の課題と言える。宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米航空宇宙局(NASA)など世界の宇宙機関は、スペースデブリの研究・調査に取り組んでいる。しかし、回収方法や技術までは世界でも確立した例はなく、除去にはもう一段越えなければならない壁があるのが現状だ。

 同社ではこの問題に早くから着眼し、スペースデブリの除去回収に向け、磁石を使った捕獲技術の研究を行っている。今後のデブリ回収事業化に向けた具体的な取り組みとしては、20年度中に技術的な実証機として、接近・捕獲・軌道離脱などの一連のシステムを軌道上で実施する人工衛星を打ち上げる予定だ。

 小型の人工衛星が地球を取り巻くように等間隔で配置する「衛星コンステレーション事業」に乗り出した民間企業も出始めている。今後、こうした企業から、軌道上の衛星を置き換えるというビジネス需要も見込めるため、前途は明るい。

 「事故に遭った車を速やかに移動させ、渋滞を回避させるロードサービスのように、我々もスペースデブリを除去しながら、宇宙の環境と人工衛星の安全を守っていきたい」。自社の未来をうれしそうに語る伊藤氏の瞳は、チリひとつない夜空の星のように輝いて見える。

羨望のまなざし

人工衛星の運用設計エンジニアとして、第一線で活躍する伊藤氏が羨望のまなざしを送るのは、2002年創業のアメリカの新興ロケット打ち上げ会社「Space Exploration Technologies Corp(通称SpaceX)」だ。
同社は「ロケットは使い捨てが当たり前」という考えを根本から覆し、ロケットの回収・再利用を実現させ、打ち上げコストを大幅に削減させることに成功。大手メーカーのロケットが市場の主力であった中で存在感を高め、ロケットの価格改革にとどまらず、有人宇宙船や火星への有人飛行など次々と開発を進めている。
発想の大胆さや革新的なアイデアを実現できる技術力はもちろんのこと、大胆なアイデアの実現には大きなリスクがともない、さまざまなハードルが立ちふさがる。そのような状況でも強い意志でモチベーションを維持し続け、着実に実現させていくタフな精神力に、伊藤氏は尊敬の念を覚えるそうだ。

会社概要

社名:株式会社アストロスケール(日本R&D拠点)

設立:2015年2月

所在地:東京都墨田区錦糸1-16-4

URL:https://astroscale.com/