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これぞ我が社の生きる道

第10回 AuB株式会社 代表取締役 鈴木 啓太氏

第10回 AuB株式会社 代表取締役 鈴木 啓太氏

経済構造が大きく変化し、しのぎを削るライバル企業であっても協業の道を探り、ともに生き残りの道を切り開いていくことが珍しくなくなってきています。

「フレネミー(友人と敵を組み合わせた造語)」という言葉も登場するなど、生き残りをかけた危機感は、大企業をはじめ企業の規模を問わず強まるばかり。そんななか、独自性をもって活路を見いだした企業も数多く存在します。

このコラムでは、人手不足や少子高齢化などという経営の逆風を吹き飛ばし、我が道を力強く突き進む企業の姿を追いかけていきます。

サッカーボールを追いかける代わりに、アスリートの採便に奔走

 2020年東京オリンピック開催まで約1年となった。テレビや雑誌などではオリンピック関連のコーナーが設けられ、トップアスリート達に熱い視線が注がれている。そんななか、「スポーツ選手のセカンドキャリア」がにわかに注目を浴びている。
 プロサッカーやプロ野球では、入団5年以内という早い時期に引退か否かの選択を迫られることも少なくないという。特にサッカーの場合は、他のスポーツと比べ、選手生命が短く、高校卒業後2~3年の20歳前後で、次のキャリアを探さなければならないことも珍しくない。40歳を超えても第一線で活躍し続ける選手は、ほんの一握りだ。

 そんなプロサッカー選手のセカンドキャリアにあって、ひときわ異彩を放つのが、元サッカー日本代表で2015年12月まで浦和レッドダイヤモンズのMFとして活躍した鈴木啓太氏の取り組み。鈴木氏は引退する数カ月前に、以前から興味を抱いていた腸内細菌解析事業を手がけるAuBを設立。引退後は同社の事業に集中し、これまで解明できなかった一流アスリートの便の傾向を解析すると同時に、コンディショニングコントロール法の確立を目標に掲げ、スポーツ界の発展につなげようと奔走している。

 一見すると、サッカーとは畑違いのように見える腸内細菌解析事業だが、鈴木氏の幼少期からのコンディション調整の経験やサッカー人生が、しっかりと生かされた事業なのだ。

 腸内細菌解析事業はサッカーやラグビー、水泳など27競技500人以上のアスリートから1000を超える便サンプルを提供してもらい、アスリートと一般の人の腸内フローラ(※1)では、どのような違いがあるかを大学や専門機関などと一緒に研究するというもの。その結果を基に、食生活改善などのコンサルティング業務や腸内環境を整えるための食品・飲料などの開発も進めている。

 鈴木氏は幼い頃より、調理師免許を持つ母親から「健康でいるためにはお腹の調子を整えることが大事。排便したら必ずチェックして」と刷り込まれて育ったそう。高校生になる頃には無意識のうちに腸から整える健康管理を実践するようになり、お腹の冷えを防ぐため、食後は必ず温かい緑茶を飲み、腸内環境を整えるサプリメントを摂取するのが日課になっていた。

 習慣のように行ってきた腸内環境を整えるという行為が、いかに大事か身を持って知ることになったのが、2004年に中東・ドバイで行われたアテネ五輪のサッカーアジア予選。

 チームメイトのほとんどが下痢で脱水症状に苦しむなか、U-23代表のキャプテンを務めた鈴木氏は日頃から常備している梅干しを食し、幼少期から続けてきた腸内環境を整える地道な心がけによって、コンディションを崩すことなく試合に臨めたという。

 「アスリートにとって1番悔しいのは十分なパフォーマンスができないことよりも、コンディションが整わないこと。コンディションが整った状態で練習を積み重ねていくことができれば、自ずと最高の能力が発揮できるようになる」(鈴木氏)。

 自身の経験を踏まえ、腸内環境を整える重要性を説く。1000を超える便を集め分析した結果、一般の人よりもアスリートの腸内細菌は種類が豊富で、腸内細菌の構成によっては、どの競技に属しているアスリートなのかわかるようにもなってきたそうだ。

腸内細菌解析事業にスポーツ界全体を盛り上げる無限の可能性

 今年4月には、同社がアスリートの便を解析して得た知見を結集し開発した腸内フローラ検査と食生活の分析をもとにパーソナライズしたコンディショニングサポートサービス「BENTRE」の販売を一般消費者向けにもスタートさせた。

 自社サイトの専用申し込みフォーム(https://aub.bentre.jp/aub/login)に必要な情報を入力すると1週間ほどで検査キットが届き、3日分の食事をオンライン上で記録し、採便を行ってから検査キットをポストに投函すれば、約1カ月後には自分だけのオリジナルのレポートができ上がるといった具合だ。

 レポートには太りやすさや免疫力など9項目の状態がわかる「腸内フローラの状態」と、どのスポーツが自分に合っているのか適正度が示された「腸内フローラスポーツ診断」が約45ページにわたって記載される。レポートの内容は後日、栄養士など専門のアドバイザーが電話などで詳しく報告してくれるそうで、こちらも同社オリジナルのサービスだ。  

 同社ではマスターズ陸上に出場している高齢者のアスリートを対象にした研究も重ね、腸内フローラと長寿との関係などについても研究を進めている。現役時代、サポーターの不祥事によって無観客試合の屈辱を味わった鈴木氏は、アスリートにとって最高の報酬は観客の反応だと言い切る。

 「観客がアスリートのパフォーマンスに感動するだけでなく、応援しているアスリートの生活習慣を取り入れて腸内環境を整え、いつまでも元気に応援できるような体制が作れれば、スポーツ界全体が盛り上がる」と腸内細菌解析事業の無限の可能性に思いを馳せる。

 かつて元サッカー日本代表監督のイビチャ・オシム氏が、労を惜しまず走り回る鈴木氏のプレースタイルを「水を運ぶ人」として褒め称えたというが、実業家に転身してもなおその姿は変わらない。フィールドからオフィスへと場所は変わったが、アスリートと観客をつなぐ橋渡し役として、今日もひたむきに走り続ける。

※1:人や動物の腸の内部に生息している細菌で、人では約3万種類、100兆~1000兆個が生息し、1.5kg~2kgの重量になる。腸内細菌が集まり生態系となっている様子が花畑のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれる。

羨望のまなざし

鈴木氏が羨望のまなざしを向けるのは、米アマゾンの取り組み。本屋からスタートした事業が、今や世界最大級のインターネット通販サイトへと成長し、人工知能を搭載したスピーカーやレジ無し決済のコンビニを生み出すなど、人々の暮らしに欠かせない発明を次々と生み出すことに尊敬の念を抱いている。人々の暮らしの中に腸内環境を整える意識を根付かせたいと願う同社の次の一手に注目したい。

会社概要

社名:AuB株式会社

設立:2015年10月

所在地:東京都中央区銀座7丁目13番6号 サガミビル2階

URL:https://aub.co.jp/