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これぞ我が社の生きる道

第6回 高砂香料工業株式会社 取締役 常務執行役員 磯野裕一氏

第6回 高砂香料工業株式会社 取締役 常務執行役員 磯野裕一氏

経済構造が大きく変化し、しのぎを削るライバル企業であっても協業の道を探り、ともに生き残りの道を切り開いていくことが珍しくなくなってきています。

「フレネミー(友人と敵を組み合わせた造語)」という言葉も登場するなど、生き残りをかけた危機感は、大企業をはじめ企業の規模を問わず強まるばかり。そんななか、独自性をもって活路を見いだした企業も数多く存在します。

このコラムでは、人手不足や少子高齢化などという経営の逆風を吹き飛ばし、我が道を力強く突き進む企業の姿を追いかけていきます。

技術立脚の精神に独自性が宿り、功を奏す

 人々の暮らしに癒やしと潤いを与え、豊かな生活空間を創出する「香り」の歴史は非常に古く、古代まで遡る。古代エジプトでは神への捧げものとして、日常の身だしなみから死者の埋葬と、さまざまな場面で使用されてきた。
 インドで生まれた仏教が大陸から日本へ伝わった際には「香木」や「香薬」も一緒に伝えられ、室町時代には「香道」を中心とする日本独自の香り文化が発展した。

 今や香りは私たちの生活と切っても切り離せない存在。食品や化粧品などに香りをそえる香料は限りない種類に及び、調香師やフレーバリストなどの専門家が世に送り出している。その香料市場でトップを走り続け、世界で27の国と地域に拠点を持つグローバルな香料メーカーが「高砂香料工業株式会社」だ。
 同社は1920年に合成香料(アロマイングリディエンツ)を製造する会社としてスタートした。現在は「フレーバー」「フレグランス」「アロマイングリディエンツ」「ファインケミカル」の4つの事業を主軸に展開し、従業員数は世界で約3300人、年間約1400億円の売り上げを誇る。
 同社は国内の同業他社と成り立ちに決定的な違いがある。他社はできあがった香料を、主にヨーロッパから輸入することを生業としていたが、同社は香料の原料(合成香料)の国産化を目指し、自らの技術で作り出すことを目的に設立された。

 香料メーカーのリーディングカンパニーとして長年、君臨し続けてこられた理由を問うと、人事・総務部長で常務執行役員を務める磯野裕一氏は2つの理由を挙げる。
「企業理念でもある技術立脚の精神に基づき、1つの分野に固まらず、香りに関する幅広い分野に挑戦してきたこと。そして市場や消費者ニーズを探索するのに不可欠なマーケティングに力を入れ、グローバル化にいち早く取り組んだことが功を奏した」
 同社はグローバルな研究・生産・販売体制で顧客のニーズに応え、アロマイングリディエンツのパイオニアとして数々の合成法を開発。オゾン酸化法によるバニリンの合成や不斉合成技術によるl-メントールの工業化など、それぞれの時代において画期的な成果を挙げている。
 今や不斉合成技術は根幹技術に成長し、クリーンでナチュラルな香りを特徴とする光学活性なスペシャリティー素材の開発に、広く応用されている。

世界的な自然回帰の潮流は製造方法にも影響

 同社は現在、祖業であるアロマイングリディエンツを筆頭に、食品などに使われるフレーバー、化粧品やトイレタリー用品向けのフレグランスのほか、不斉合成技術を応用して参入したファインケミカルの分野でも、連続フロー製造法という最新技術を使い医薬品中間体やエレクトロ二クス産業を支える機能性材料の開発・製造などを手がけている。
 ファインケミカル分野は同社の売り上げの1割にも満たない新規分野だが、今後も世界中の製薬・化学会社からのニーズが確実に見込める。「少子高齢化の状況であっても売り上げを拡大でき、人々の健康にも貢献できる」(磯野氏)とのことで、技術そのものを商品としてビジネス展開し、新分野への挑戦をスタートさせている。
 さらに同社は顧客から注文を受けたフレーバーを作るだけでなく、営業、研究、製造など各分野が一体となって顧客にフレーバーの提案も行っている。少子高齢化などの理由から、売り上げの先細りが予想されるなか、受け身の体制のままでは限界がある。
 そのため、長年培ってきた固有の技術と、グローバル・マーケティングチームとの連携で生まれる知見などを生かし、顧客の商品ブランディングに貢献できるような提案を先回りしてするように心がけているという。

 近年、特に力を入れているのが、香りの元になる天然原料を自社で調達するという取り組みだ。オレンジなどのシトラス系は米フロリダ州、バニラ系はマダガスカルに拠点を置き、天然原料の安定調達に取り組んでいる。
 世界的にニーズが高まっている自然回帰の潮流は、製造方法にも影響を及ぼしているという。これまで化学合成で製造していたものを、酵素法や醗酵技術などのバイオテクノロジーに変えて行う取り組みも始まり、アメリカでその分野の有力会社を買収して傘下に収めた。
 国内の香料分野の需要が頭打ちとなるなか、次に狙うマーケットは東南アジア。味や香りに対する嗜好は文化や風土、習慣によって多岐にわたるが、業界に先駆けて世界市場の開拓を推進してきたことが生かせる絶好のチャンスになる。
「欧米の企業には真似できない、きめ細やかなサービスで差別化を図り、現地のニーズに合った製品の提案に力を注ぎたい」と磯野氏は意気込む。香料メーカーのリーディングカンパニーとしてさらなる進化を見据え、香りが生み出す無限の可能性を信じて歩み続ける。  

羨望のまなざし

磯野氏が定点観測するのはスリーエム(3M)やソニー、トヨタなど世界有数のグローバル企業の取り組み。ダイバーシティーを実現しつつ、自分たちの思い描くビジネスモデルを異国の地で成功させる手法は、ただただ驚きしかないという。グローバル化を推し進め、現地のニーズに合った製品の提案に力を注ぐことを目指す同社にとって、手本ともいえる存在でもある。2020年の創業100年を目前にして、伝統と改革の共存が業界の手本となる同社の存在を、より強固なものにするに違いない。

会社概要

社名:高砂香料工業株式会社

設立:1920年2月

所在地:東京都大田区蒲田5-37-1

URL:https://www.takasago.com/ja/