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これぞ我が社の生きる道

第2回 株式会社御用聞き 代表取締役社長 古市 盛久氏

第2回 株式会社御用聞き 代表取締役社長 古市 盛久氏

経済構造が大きく変化し、しのぎを削るライバル企業であっても協業の道を探り、ともに生き残りの道を切り開いていくことが珍しくなくなってきています。

「フレネミー(友人と敵を組み合わせた造語)」という言葉も登場するなど、生き残りをかけた危機感は、大企業をはじめ企業の規模を問わず強まるばかり。そんななか、独自性をもって活路を見いだした企業も数多く存在します。

このコラムでは、人手不足や少子高齢化などという経営の逆風を吹き飛ばし、我が道を力強く突き進む企業の姿を追いかけていきます。

始まりは思いもしない気遣いの言葉から

 得意先を回り、会話をしながら注文を聞く御用聞き。都市部ではもう、あまり見かけなくなった存在だが、特注の前かけ姿で代表の古市盛久氏自ら奔走し、5分100円で家事代行サービスを提供するのが、その名のとおり「御用聞き」だ。

 同社の創業は2001年。代表を務める古市氏は大学卒業後、大手不動産管理会社に就職するも起業の機会を得て、わずか10カ月で退社。 その後、知人からのサポートなどを受け、不動産仲介会社を設立すると、大口案件の仲介に携わるなどして事業は順調に成長していった。
 はたから見れば順風満帆に見えた起業だったが、「お金は増えていくのに心は満たされない。虚しさだけがこみ上げるばかり」と顧みる。なぜなら幼いころからあこがれた起業の原点は、金儲けではなく「0から1」をつくるような、皆が当たり前に使って喜べる世界観を築き上げたかったからだ。

 原点に回帰し、自らが望んだ起業家としての姿で夢をかなえるため、不動産仲介業で得た資金を元手に、今度はITを生かして社会課題を解決する事業に着手した。
 ちょうどその頃、「買い物難民」が取り沙汰され始めたこともあり、地域の主婦たちを活用し、100円で買い物代行を支援するサービスを立ち上げた。ただ事業計画の甘さが起因したこともあり、利用者は伸び悩む。結果として1億数千万円の損失 を出し、わずか1年で撤退することになった。

 「0から1」を生み出そうと始めた事業は失敗。資金も底をついた状態だったが、利用者の元へ事業終了のお詫び行脚に訪れると、思いもしなかった意外な言葉に救われる。「お詫びはいいから。体が空いているなら、お金を払うからお風呂掃除を手伝ってくれない? 腰が痛いからできなくて……」
 「瓶の蓋開け」「電池交換」「宛て名書き」――。他人から見たら何でもないような「ちょっとした困りごと=御用」が、本人にとってはとても大きな生活の悩みになっている。これを解決するビジネスを始めれば需要があるかもしれない。同社の進むべき道が開けた瞬間だった。

水道のように生活の根幹に根差すサービスへ

 「会話で世の中を豊かにする」というビジョンを掲げ、東京都練馬区 の団地の空きスペースを借りて、新たな一歩を踏み出した。地域のちょっとした困りごとを解決する同社の顧客の大半は、60~70歳以上の高齢者。設立から8年間で、依頼総数はのべ6000件以上にのぼり、3カ月以内のリピート率は8割を超える。
 高い料金を払って、プロの高い技術力を求める人がいる一方で、セミプロの技術でも、手軽な料金で複数回利用したい人もいる。目指すのは「公的資金を使用しない福祉サービス(地域の御用聞き)」 と、古市氏は存在意義を語る。

 現場に駆けつけるのは「担い手」と呼ばれるスタッフ。現在の登録者数は120人で9割以上が学生だ。パソコンが得意、手先が器用など個人の得意分野を見極めたうえで、コミュニケーションを中心とした同社独自の研修プログラムを受け、ベテランスタッフに同行し、付き添ってもらいながらノウハウを身に付けていくという。

 同社が次に目指すのは福祉、商業、行政などさまざまな分野と生活者をつなぐハブ(拠点)としての役割だ。団塊の世代が後期高齢者となる2025年をめどに、国は地域包括ケアシステム(※)の構築を進めている。介護保険法の改正も定期的に行われ、軽度の支援サービスは自治体の予算に移行し始めている。
 予算の面からも、国と同じように自治体が運営していくことは難しく、影響を直に受ける介護事業所は閉鎖を余儀なくされる可能性もある。「その受け皿として私どものような存在が今後、絶対必要になる」と語気を強める古市氏。「0から1」に向かって、しっかりと地に足をつけ始めた感触に、もう迷いは見られない。

 同社は「ミッション2025」を掲げ、地域包括ケアシステムが構築される2025年までに、北海道から沖縄まで国内8割の地域でサービスを提供する目標を打ち出している。「電気・ガス・水道・通信に次ぐサービスのインフラを確立したい 。水道のように蛇口をひねれば全国どこでも安全で安価な水が出てくる、そんなイメージ」(古市氏)
 全国的に核家族化や高齢化が進み、都会に限らず地域社会が失われつつある。その中で、公的サービスではまかないきれない、孤立する高齢者への支援を行う同社の取り組みは、日本の未来の新たな兆しとなるかもしれない。

(※)用語解説
高齢者が住み慣れた地域で自分らしい人生を全うできる社会を目指して、地域で支え合うなどする支援・サービス提供体制

羨望のまなざし

古市氏が日々、その動向を観察しているのがコンビニエンスストア。「味の改良はもちろん、駐車場を広げ、イートインスペースを拡充して売上拡大を図り、公的機関の窓口業務も代行するなど、時代に合った役割をいち早く感じとり、スピード感を持って事業を展開している」。2025年まであと7年、同社のスピード感が人の営みを変えていく。

会社概要

社名:株式会社御用聞き

設立:2001年12月

所在地:東京都板橋区高島平2-33-1 2F 未来箱内

URL:http://www.goyo-kiki.com/