ビジネスパーソンのキャリアアップ・転職について考えるニュース・コラムサイト

転職市場を独自にウオッチ

幹部級の転職活動、動き出す予備軍 求められる地頭力

幹部級の転職活動、動き出す予備軍 求められる地頭力

新型コロナウイルスによる企業活動の減速は、経営者や役員、管理職といったエグゼグティブ層の転職市場にも影響を与え始めている。ウィズ・コロナ時代の転職で、新たに意識するべきポイントは何か。エグゼグティブ層を対象にした人材紹介会社、AIMSインターナショナルジャパンの渡部昭彦・代表取締役最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。

――転職市場全体では新型コロナウイルスの影響で中途採用を凍結する企業が増えるなど、成長鈍化が懸念されていますが、エグゼグティブ層について、足元の状況をどうみていますか。

「エグゼグティブ層の定義ははっきり決まっているわけではありませんが、当社では、経営者、役員、部長以上の管理職、専門職などを指しています。40~50代が中心で、企業の要望に合致する人材に対し、当社のような人材紹介会社からアプローチし(スカウト)転職を働きかける『サーチ型』による転職が主流です。この層の転職市場における足元の成約数は、業界全体として、前年比1~3割程度少ない印象です。ただ、『採用凍結』ではなく『様子見』の企業が圧倒的に多く、この点が(「凍結」が増えている)一般層の転職市場と異なります。様子見の理由としては、(緊急事態宣言が出た)4月ごろから在宅勤務に切り替えた企業が多く、社内手続きや面談に時間がかかるケースが増えた、といった物理的な要因が目立ちます」

「エグゼグティブ層の中途採用は、基本的には経営の屋台骨に関わる人材の採用になるので、景気の影響は少なからずあるものの、長期的な視点で採用計画が立てられます。コロナで経済が減速したからといって、採用を即凍結するケースは少なく、潜在需要は依然として高いとみています」

年内に前年並みがベストシナリオ

――特に需要が堅調な分野はありますか。

「大手企業の場合、最高経営責任者(CEO)、最高執行責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)などの経営幹部ポストの人材です。社内のカルチャーを変えるために外部人材を登用したり、新規事業の立ち上げやM&A(企業の合併・買収)のために経験豊富な人材を採用したり、この10年近く安定的なニーズがあります」

「中堅・中小やベンチャー企業では、新規株式公開(IPO)前後にエグゼグティブへの需要が高まります。創業者らが事業を急速に拡大したものの、組織作りが追い付かず、IPO前後に外部の専門人材が必要となることが多いようです。業種別では、コロナ禍でも安定的な需要が見込める食品、医療系などの『ディフェンシブ銘柄』が挙げられます。オーナー系企業が大手企業の様子見姿勢を受け、『優秀な人材を採るチャンス』と積極的に動いているケースもあります」

――転職者側の動きに変化はありましたか。

「在宅勤務になり、キャリアについて改めて考える人が増えたことに伴い、潜在的な転職予備軍が広がっていると感じます。転職に積極的な『顕在層』の動きも活発化しています。40~50代を中心に、スカウトに応じてくれるケースが増えたほか、当社への転職相談件数も通常より2~3割多い印象です。会社や業界の将来性を案じて転職を意識し始めた人や、コロナ禍をきっかけに海外での勤務・生活に不安を感じるようになった駐在員、日本事業の縮小・撤退を決めた外資系企業のビジネスパーソンなど幅広い層からの相談が来ています」

――今後のエグゼグティブ転職市場の見通しは。

「短期間で『コロナ前』に戻る可能性は低いと言わざるを得ません。回復のペースについては、足元の景気減速が金融危機にまで発展するかどうかがポイントだと思います。現時点で、金融危機になる可能性は低いとみており、その場合、転職市場もそこまで落ち込まず、年内には前年並みに戻せるかと期待します。これがベストシナリオです」

「ベストシナリオの場合でも(転職市場は景気の影響を遅れて受けるため)7~9月期は一段と減速する可能性が高く、10~12月期でどこまで回復できるかが焦点です。最悪のシナリオはリーマン・ショックの再来。当時はエグゼグティブ層の転職市場もほぼ半減し、元の水準に回復するのに5~6年かかりました」

「過去の不況期と同様、今回の『コロナ不況』も産業構造の変革をもたらすでしょう。端的に言うと、オフィスで様々なことを決めたり実行したりする『ビジネスの大部屋主義』から個々の自宅へ、という流れが加速するはず。たとえば、デジタル、オンライン、非接触など、新しい時代に需要が伸びる分野の人材については、今後も十分な中途採用ニーズが見込めると思っています。エグゼグティブ層の転職市場は、市場全体のおよそ1割と規模が大きくないため、(全体の市場が減速しても)ニーズの高い分野をピンポイントで取り込んでいければ、堅調に成長することも可能だと考えています」

目の前の仕事が「地頭力」を磨く

――ウィズ・コロナ時代、アフター・コロナ時代の転職に向け、自身の人材価値を高めるには何が必要でしょうか。

「これまで長い間、転職を成功させるには『専門性が必要』と言われてきましたが、企業にどういった人材を求めているか、をたずねると、最近は『地頭の良い人』との答えが目立ちます。(コロナをはじめ)企業や業界を取り巻く環境が刻々と変わることが増え、新しい環境に直面しても自身のロジックで、落ち着いて物事を組み立てていける人が求められているようです」

「では、地頭をどう良くするか。『地頭を左右するのは7割がポテンシャル』ともいわれますが、打つ手がないわけではありません。声を大にして言いたいのは、日々の仕事を通じてしか、能力アップは実現できないということです。漫然と仕事をしない、仕事を流さない、など、地道な努力が地頭力アップにつながるはず。たとえつまらないと感じる仕事でも問題意識をもって取り組めば、地頭力を育てる経験になると思います」

「これが人材価値を高める基礎編のトレーニングとすると、管理職を目指す人には、応用編として、今の日本の管理職層で一番欠けていると思える、人工知能(AI)の知見を身につけることをおすすめします。自身がAIの専門家になる必要はありませんが、AIをどう活用するかはこれからの時代の管理職に不可欠なスキルといえるでしょう。最低限の知識として学んでおいてほしいと思います」

渡部昭彦
AIMSインターナショナルジャパン代表取締役CEO。1979年東京大学経済学部卒。日本長期信用銀行(現新生銀行)、セブン―イレブン・ジャパン、楽天グループで企画、財務、人事に従事。2007年から現職。日本人材紹介事業協会会長。