ビジネスパーソンのキャリアアップ・転職について考えるニュース・コラムサイト

一歩先をゆく魅せる「英語」

第16回 問題解決型ストーリーの薦め

第16回 問題解決型ストーリーの薦め
 大手を先陣として、企業のグローバル化は急ピッチで進んでいます。急激に変化するビジネス環境においてキャリアを構築していくうえで、ビジネスパーソンには様々なビジネスシーンで、英語によるビジネスドキュメントを作成するスキルの向上が求められるようになっています。中途採用でも社会人経験が豊富な方を中心に、求めるレベルの差はあるものの語学力(特に英語)を必須項目に挙げる企業が増えています。
 このコラムでは、グローバル化が押し寄せているなかで一歩先をゆくビジネスパーソンとして、英語を駆使して世界標準のビジネスドキュメントを作成するための重要なポイントを解説していきます。
第16回

問題解決型ストーリーの薦め

 これまで本企画では、センテンス、パラグラグ、ドキュメント全体の3段階で英語ビジネスドキュメント作成のテクニックを紹介してきました。最終回となる今回は引き続き、提案書を念頭にドキュメント全体の流れである〈ストーリー展開〉(story development)をTH法に基づいた3つの問題解決過程を通して紹介します。

ビジネスドキュメントの原形は問題解決過程にある

 ビジネスドキュメントの種類は多岐にわたります。ただし、その共通の目的は何かしらの問題を解決するための手段といえます。典型的な例として提案書をイメージすると理解しやすいでしょう。
 提案書は何かしらの問題を解決するためのソリューションを提示するドキュメントです。最終回の今回は提案書を念頭にストーリー展開法を解説します。
 また、仮に作成する文書が提案書でない場合も、ほとんどの場合、その文書を提案書のある部分として捉えることが可能です。

解決されるべき問題の基本形は3つ

 そもそも、解決されるべき問題は次の3種類に分類できます。

1)原状回復型(recovery type)
2)潜在予防型(prevention type)
3)理想追求型(goal-seeking type)

 これらは、問題発見と課題設定を効果的に行ううえで有効なフレームワークであるTH法に準拠した問題タイプの分類です。提案書にて扱う問題タイプを特定することにより、自ずとそれぞれにマッチしたストーリーにおいて取り扱われるべき課題(issue)とその基本順序が浮き上がってきます。

原状回復型の問題

 1)の原状回復型の問題は、何かしらの不具合、(trouble)が顕在化しているタイプです。平たく言えば、something has been brokenという場合です。例えば、a sudden drop in sales、an abrupt increase in cost、equipment malfunctionなどはすべてこのタイプの問題です。これらの解決は不具合の解消、つまり壊れた現状(status quo)を原状(original state)に回復(recover)ところにあります。
 この問題タイプの場合、次のテーマ(課題=issues)を順に追うストーリーとなります。

1.現状把握(situation analysis):発生した不具合を説明する
2.応急処置(first aid):さらなるダメージを防ぐ策を講じる
3.原因究明(cause analysis):不具合の根本原因を特定する
4.根本処置(solution):元の状態に戻すための策を講じる
5.再発防止(reoccurrence prevention):また壊れないような策を講じる

潜在問題予防型

 2)の潜在予防型は、具体的な障害はまだ起きていないものの、放置しておくと高い確率で起こるタイプの問題です。

If the global warming continues as is, our ecosystem will collapse.

If the number of employees keeps growing at the present rate, our current office will soon become too crowded.

のような問題です。
不具合の発生を予防する(prevent)ことによって、現状を維持することが解決となります。

 この問題タイプの場合、次のテーマ(課題)を順に追うストーリーとなります。

1.不具合想定(trouble supposition):発生しうる不具合を解説する
2.誘因究明(factor analysis):不具合をもたらす誘因を究明する
3.予防策(prevention development):想定される不具合を防ぐ策を講じる
4.発生時対応(damage control):不具合が発生した場合の策を考える

理想追求型の問題

 3)の理想追求型の問題は、現在壊れているのでもなければ、放置しておいても別段不具合の発生の心配のない状態ではあるものの、現状をより高い水準へとupgradeできるタイプです。つまり、大きな改善の余地(room for significant improvement)のあるタイプの問題です。理想追求型問題の解決は、現状をある理想的な状態まで改善するところにあります。とても前向きな雰囲気を出せるタイプです。

 この種の問題タイプの場合、次のテーマ(課題)を順に追うストーリーとなります。

1.資産棚卸(inventory taking):当事者と環境との状態を理解する
2.理想特定(goal setting):到達すべき理想(目標)を特定する
3.実施策(implementation planning):理想に到達するための策を講じる

読み手の認識に問題タイプを合わせる

 これらTH法に基づくストーリー展開を実践する上で、大切な確認事項が一点あります。それは取り扱う問題タイプを読み手の認識に合わせる点です。
 例えば、書き手の認識では、既に現状が「壊れている」のが明白である場合でも、もし読み手がそう理解していないのであれば、読み手の認識に従い〈潜在問題予防型〉、または〈理想追求型〉として捉えるほうが懸命です。
 そうでないとストーリーの入り口段階で、読み手の大きな反発を招くことになります。

 

3つのどれかに軸足を置く

 提案書を作成する際は、これら3種類のストーリーのどれか一つに軸足を置くと良いです。文書の主旨が読み手によく伝わります。その上で、他のストーリー要素を付随的に織り込むこともできます。
 例えば、原状回復型や潜在予防型の場合、原状の回復や現状の維持に止めず、より良い状態を目指す理想追求型へと発展させることも可能です。

   

 本企画で取り上げた内容をさらに学習されたい皆さんは、拙著「英語ビジネスドキュメント・ライティングの技術」(日本経済新聞出版)を、ぜひご参照ください。それでは皆さんのますますのご活躍をお祈りしております。

高杉尚孝(たかすぎ・ひさたか)

筑波大学大学院客員教授・高杉尚孝事務所代表

慶応大学経済学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン経営大学院卒 (MBA)。アルバート・エリス研究所認定スーパーバイザー心理セラピスト。ニューヨーク証券取引所認定スーパーバイザー財務アナリ スト。マッキンゼー、JPモルガンのニューヨーク事務所、そして東京事務所に勤務。米系情報コンサルティング会社マネジング・ディレクターを経て、高杉尚孝事務所設立。精神タフネス、論理思考、ライティング、ファイナンス、シナリオ分析などの企業研修に従事。日経ビジネススクール講師、NHK教育テレビ「英語ビジネスワールド」元講師。著書に「英語ビジネスドキュメント・ライティングの技術」「問題解決のセオリー」「論理表現力』(日本経済新聞社)、「実践・交渉のセオリー」「実践・プレッシャー管理のセオリー」(NHK出版)など。最新刊に「英語ビジネスドキュメント・ライティングの技術」(日本経済新聞社)がある。


■高杉総合研究所ウエブサイト
http://www.takasugisoken.com