ビジネスパーソンのキャリアアップ・転職について考えるニュース・コラムサイト

一歩先をゆく魅せる「英語」

第7回 抽象化の技術

第7回 抽象化の技術
 大手を先陣として、企業のグローバル化は急ピッチで進んでいます。急激に変化するビジネス環境においてキャリアを構築していくうえで、ビジネスパーソンには様々なビジネスシーンで、英語によるビジネスドキュメントを作成するスキルの向上が求められるようになっています。中途採用でも社会人経験が豊富な方を中心に、求めるレベルの差はあるものの語学力(特に英語)を必須項目に挙げる企業が増えています。
 このコラムでは、グローバル化が押し寄せているなかで一歩先をゆくビジネスパーソンとして、英語を駆使して世界標準のビジネスドキュメントを作成するための重要なポイントを解説していきます。
第7回

抽象化の技術

 今回は、〈抽象化〉の技術について解説します。表現の抽象度を調整するこの〈抽象化〉のスキルは、前回で解説したテーマ設定のみならず、ドキュメント・ライティングに大きく貢献する大切な要素技術のひとつです。

抽象化はドキュメント作成に欠かせない技術

 日本語の背景にある東洋的世界観は、具体的な場における部分と全体の関係に注目する〈関係・文脈的〉アプローチです。ですから、日本語話者は、個々の対象物の中にある、普遍的な本質を引き出すという〈抽象化〉の作業にあまり慣れていません。そのため多くの方が抽象度の上げ下げを難しいと感じることが多いのです。とはいえ、練習によって向上できるスキルなので、粘り強く取り組んでください。

抽象化は隠れた本質を引き出す作業

 段階的な抽象化を考えていきましょう。例えばcedar tree(杉の木)を段階的に抽象化するとすれば、次のような流れが考えられます。

cedar tree ⇒evergreen tree ⇒tree ⇒plant ⇒organic matter ⇒matter

 ご覧の通り、テーマが段階的に広がっていっています。杉の木は常緑樹の一種。常緑樹は樹木の一種。樹木は植物の一種。植物は有機物の一種。有機物は物質の一種。全て段階において、「何々は何々の一種」と、下の概念が上の概念に含まれる包含関係が成り立っています。この様に、段階的な抽象化は、特定の場や文脈から本質を切り離して行く作業です。
 本質を引き出す作業である抽象化は、単なる連想ゲームではありません。関連があるとか、その場の切り出しではありません。ですから、例えば「樹木」の次に「森」を持ってくるのは抽象化ではありません。

抽象度はメッセージの明瞭さに直結する

 抽象化はビジネスパーソンに求められる重要な要素技術のひとつです。表現の抽象度は、個々のメッセージの明瞭さに直結します。例えば、個別具体的な表現ばかりですと、文章がだらだらと長くなります。抽象化することによって、短くかつ明瞭になります。

Keiko loves to take photos of Mt. Fuji, Mt. Aso, Sakura Jima, Mt. Ontake, etc., etc,…

ではとても冗長です。抽象化して、

Keiko loves to take photos of volcanoes

にしたほうが明瞭になります。

 しかし逆に抽象度の高い表現のみのメッセージですと、読み手に具体的なイメージを持ってもらったり、具体的な行動をとってもらったりすることが難しくなります。
 例えば、

XYZ Corp. should increase its financial flexibility as soon as possible.

 確かに、Financial flexibility (財務的な柔軟性)を向上すべき、と進むべき方向は伝わるでしょう。しかし、内容に対する具体的なイメージや、とるべきアクションが伝わるかというと怪しくなります。そもそもfinancial flexibilityとは何でしょうか。少なくとも、もう一段階抽象度を下げた説明を加えることで大きな改善につながります。
 例えば、

XYZ Corp. should increase its financial flexibility--its ability to access cash when required--as soon as possible.

 このように、追加情報を文中に織り込めば、少なくともfinancial flexibilityがthe ability to access cash when requiredであることが理解できます。

適度な抽象表現と具体的説明の組み合わせが重要

 ビジネスドキュメントでよく見かける抽象的な動詞や句動詞に、

Broaden, adjust, activate, strengthen, establish, restructure, promote, rationalize, review, build a foundation for, capitalize on…

などがあります。必要に応じて抽象度を下げた説明を加えるようにしましょう。さもないと、勝手な解釈をされてしまう恐れが多々あります。

 また、先のcapabilityのように、〜ability にも注意しましょう。他にも、sustainability, employability, scalability, affordability, marketability, operability, controllability, workabilityなど多くあります。
 念のため申し上げれば名詞であれ動詞であれ、品詞を問わず、これら高めの抽象表現にまつわる留意点の指摘は、抽象表現そのものの否定ではありません。明瞭表現の基本は、適度な抽象表現と具体的な説明の組み合わせにあるといえます。まさに、抽象化の度合いの問題です。

 次回は、メッセージをうまく接続する重要性について解説します。個々のメッセージが明瞭であってもそれらがうまくつながっていないと、読み手に大きな負担をかけることになります。

高杉尚孝(たかすぎ・ひさたか)

筑波大学大学院客員教授・高杉尚孝事務所代表

慶応大学経済学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン経営大学院卒 (MBA)。アルバート・エリス研究所認定スーパーバイザー心理セラピスト。ニューヨーク証券取引所認定スーパーバイザー財務アナリ スト。マッキンゼー、JPモルガンのニューヨーク事務所、そして東京事務所に勤務。米系情報コンサルティング会社マネジング・ディレクターを経て、高杉尚孝事務所設立。精神タフネス、論理思考、ライティング、ファイナンス、シナリオ分析などの企業研修に従事。日経ビジネススクール講師、NHK教育テレビ「英語ビジネスワールド」元講師。著書に「英語ビジネスドキュメント・ライティングの技術」「問題解決のセオリー」「論理表現力』(日本経済新聞社)、「実践・交渉のセオリー」「実践・プレッシャー管理のセオリー」(NHK出版)など。最新刊に「英語ビジネスドキュメント・ライティングの技術」(日本経済新聞社)がある。


■高杉総合研究所ウエブサイト
http://www.takasugisoken.com