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一歩先をゆく魅せる「英語」

第5回 個別センテンスでの明瞭さを確保する

第5回 個別センテンスでの明瞭さを確保する
 大手を先陣として、企業のグローバル化は急ピッチで進んでいます。急激に変化するビジネス環境においてキャリアを構築していくうえで、ビジネスパーソンには様々なビジネスシーンで、英語によるビジネスドキュメントを作成するスキルの向上が求められるようになっています。中途採用でも社会人経験が豊富な方を中心に、求めるレベルの差はあるものの語学力(特に英語)を必須項目に挙げる企業が増えています。
 このコラムでは、グローバル化が押し寄せているなかで一歩先をゆくビジネスパーソンとして、英語を駆使して世界標準のビジネスドキュメントを作成するための重要なポイントを解説していきます。
第5回

個別センテンスでの明瞭さを確保する

 日英の世界観の相違から来る言語とドキュメント作成アプローチを踏まえ、まず今回は個別センテンスレベルでの明瞭表現法を取り上げます。このシリーズでは、〈メッセージ〉という表現を頻繁に用います。ここでの〈メッセージ〉とは、一般的な〈センテンス〉とはほぼ同じ意味です。〈センテンス〉は文の構造を、他方〈メッセージ〉は文の内容を意識した表現です。

メッセージを3つの種類として捉える

 意図的にぼかす場合を除けば、明瞭な表現を目指すのはドキュメント作成の基本姿勢です。そこで重要とのなるのが、まず、〈記述〉、〈評価〉、〈規範〉という3つのメッセージの種類を理解することです。これらがなぜ重要かと言えば、ほぼ全てのビジネスドキュメントは、これら3種類の組合せによって構成されるからです。その意味では、メッセージはドキュメントを構成する上での部品と言えます。例えば、

ABC Inc. reported a net profit of ¥5billion for FY 2015.

 これは、純粋な描写である〈記述〉メッセージです。つまり、良くもなければ悪くもない、シンプルなデータとしてのメッセージです。変わって、

ABC Inc. is a very good company.

 〈記述〉メッセージも〈評価〉メッセージも、広いカテゴリーでは両方とも〈描写〉メッセージです。ある特定の状態を表しています。違いは、〈記述〉メッセージは、純粋な描写である一方、〈評価〉メッセージは、受信者の解釈に委ねられることなく、それ自体として「善し悪しの判断」を色濃く表現している点です。
 それでは、次のメッセージはどうでしょうか。

ABC Inc. should have reported a higher profit.

 こちらは、あるべき姿(should, ought to, have to, etc.)を表している〈規範〉メッセージです。「こうすべき、こうあるべき」という〈規範〉は、〈記述〉や〈評価〉の、「こうなっている」という〈描写〉表現とは質的に異なります。〈規範〉は、自ずと〈処方的〉なメッセージです。

メッセージの種類にはグレーゾーンがある

 これら3つの種類は、完全な排他的カテゴリーではありません。グレーゾーンがあります。メッセージを完璧に書き手や読み手の〈特定の解釈〉から100%分離することは不可能です。コンピューター言語でない限り曖昧さは残ります。  
 例えば、次のメッセージはどうでしょうか。

ABC Inc. is a profitable company.

「”Profitable”であるのは、当然良いことなのだから、〈評価〉だ。」と解釈する方もいるでしょう。他方、「否、単に”profitable”な会社という純粋な描写なので〈記述〉。」と判断する方もいるかもしれません。”Profitable”の語感は必ずしも万人に統一的ではないですね。ここが悩ましいポイントです。
 このように、現実的にはメッセージの種類には曖昧な場合があると考えておくとよいでしょう。確かにグレーゾーンはあるとしても、そのグレーさを解析する上でも、これら3種の分類は有効です。

ドキュメントの種類も意識する

 個別メッセージの種類に加え、ドキュメント全体の持つメッセージの種類を意識するのもとても大切です。メッセージ同様、ドキュメント自体にも〈記述〉、〈評価〉、〈規範〉、の3種類があります。
 例えば、状況分析や報告のような記述ドキュメントであれば、記述メッセージのみ。評価や規範は基本含まれません。ミーティングなどの議事録が代表的な例といえます。評価ドキュメントであれば、記述も含まれます。記述と評価は対である場合がほとんどです。例えば、市場の魅力度を評価するようなドキュメントであれば、まず、市場に関する記述メッセージの後に、善しあしの評価メッセージが続きます。
 規範ドキュメントであれば通常、記述と評価を含みます。提案書が代表的な規範的なドキュメントです。記述メッセージや評価メッセージを含まない、〜すべきとの規範メッセージのみの提案書はまずありません。提案書はビジネスドキュメントの中でもとても包括的であるといえます。

読み手の求めるドキュメントの種類を早い段階で確認するとよい

 ドキュメントを作成する場合、読み手の求めるドキュメントの種類を早い段階で確認することが大切です。取り急ぎ状況のみを知りたがっている読み手には、記述ドキュメント。解決策を欲しがっている読み手には、規範ドキュメントを用意。ここに齟齬(そご)があると、内容の善しあし以前に、大きく的を外したドキュメントになってしまいます。


 次回は、メッセージの入る器である〈テーマ〉について解説します。明瞭かつ、伝わりやすいドキュメントは、テーマとメッセージの釣り合いのとれたデザインになっています。

高杉尚孝(たかすぎ・ひさたか)

筑波大学大学院客員教授・高杉尚孝事務所代表

慶応大学経済学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン経営大学院卒 (MBA)。アルバート・エリス研究所認定スーパーバイザー心理セラピスト。ニューヨーク証券取引所認定スーパーバイザー財務アナリ スト。マッキンゼー、JPモルガンのニューヨーク事務所、そして東京事務所に勤務。米系情報コンサルティング会社マネジング・ディレクターを経て、高杉尚孝事務所設立。精神タフネス、論理思考、ライティング、ファイナンス、シナリオ分析などの企業研修に従事。日経ビジネススクール講師、NHK教育テレビ「英語ビジネスワールド」元講師。著書に「英語ビジネスドキュメント・ライティングの技術」「問題解決のセオリー」「論理表現力』(日本経済新聞社)、「実践・交渉のセオリー」「実践・プレッシャー管理のセオリー」(NHK出版)など。最新刊に「英語ビジネスドキュメント・ライティングの技術」(日本経済新聞社)がある。


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