日経キャリアNET

ビジネスパーソンのキャリアアップ・転職について考えるニュース・コラムサイト

一歩先をゆく魅せる「英語」

第4回 目指すは両アプローチの相乗効果

第4回 目指すは両アプローチの相乗効果
 大手を先陣として、企業のグローバル化は急ピッチで進んでいます。急激に変化するビジネス環境においてキャリアを構築していくうえで、ビジネスパーソンには様々なビジネスシーンで、英語によるビジネスドキュメントを作成するスキルの向上が求められるようになっています。中途採用でも社会人経験が豊富な方を中心に、求めるレベルの差はあるものの語学力(特に英語)を必須項目に挙げる企業が増えています。
 このコラムでは、グローバル化が押し寄せているなかで一歩先をゆくビジネスパーソンとして、英語を駆使して世界標準のビジネスドキュメントを作成するための重要なポイントを解説していきます。
第3回

目指すは両アプローチの相乗効果

 これまで、西洋的な世界観と東洋的な世界観との根本的な相違点、英語の特徴、両言語のドキュメントスタイルを解説しました。世界観の大きく異なる英語を用いて、多様なバックグラウンドを持つ読み手に対し、日本語話者が論理性と説得性のあるドキュメントを作成するのはけしてやさしい作業ではありません。今回は、日英の根本的な違いを意識しながら、グローバルビジネスに適したドキュメント作成へのアプローチを解説します。

日英の根本的なアプローチの違いを意識する

 「抽象化するという意味が分かりません。〈木〉を抽象化するとなぜ〈植物〉になるのでしょうか。〈森〉ではないでしょうか?」

 これは、世界をリードする日系精密機器メーカーのリーダー育成研修に参加した30代後半の日本人男性エンジニアのコメントです。西洋的な世界観と東洋的な世界観の違いを顕著に表しています。西洋的な世界観は、個別の対象物に脱文脈化された普遍的な抽象概念を見い出そうとします。これは〈個体-抽象的〉アプローチです。木を理解しようとする際、西洋的な世界観では〈一本の木〉に注目しながら誰が植えた木か、どこに生えているかなど特定の文脈を超えたあらゆる木に共通する〈植物〉というひとつの普遍的な本質に迫ろうとします。

 他方、東洋的な世界観は、具体的な〈場〉における、〈部分と全体の関係〉に注目します。こちらは〈関係-文脈的〉アプローチです。ですから、木を理解しようとする際、具体的に木が存在しうる〈森〉というひとつの文脈的な場を意識することにより、木と森との関係に注目します。〈植物〉と〈森〉。木を理解するという観点からはどちらが良いとか悪いとかいう話ではありません。これらは根本的に違ったアプローチなのです。



目指すは両アプローチによる相乗効果

 グローバルビジネスという観点から言えば〈個体-抽象的〉アプローチと〈関係-文脈的〉アプローチの両方が重要です。例えば、偏ってしまったよくない例として、ビジネスパーソンが国内という場における個別文脈的なビジネス経験をいくら積んでも、ひとたびその場を離れてしまうとまったく機能できなくしてしまう場合があります。またはその逆に、脱文脈的な一般的教科書的ビジネス理論を個別の社会経済事情を無視して運用してしまったため、大きな軋轢を生むケースもあります。

 グローバルビジネスリーダーに求められるのは、個別の現場での具体的な知識や経験から抽象化された一般法則を読み取るとともに、今度はその一般法則を環境の異なるローカルの現場に適応させながら運用していく能力です。これができることこそがグローバル企業の強みであるはずです。グローバルビジネスパーソンには、できるかぎり両方の接近法に通じることによる相乗効果を目指してもらいたく思います。

ドキュメント作成においても同様

 本書の課題である「グローバルビジネスにおける多様な読み手を前提とした英語でのドキュメントの構造的な設計」においてもこれら両アプローチの応用が重要となります。

 〈個体-関係〉、〈具象-抽象〉をうまく操る作業です。ドキュメントで言えば、これらは、個別対象物である〈名詞〉、関係性を表す〈動詞〉や〈接続語〉、そしてこれらの融合物であるセンテンスを表現の〈抽象度〉を変えながら操る作業が重要となります。

 そもそも、わかりづらい表現には共通点があります。例えば、具体的過ぎるケース。「モデル883」などと個別ブランド名を用いたものの、読み手がそれを知らない場合。反対に、「経営力の強化が急務」などと、抽象的過ぎて具体的なイメージの湧かないケース。また、各々の表現は理解できたものの、個別・断片的であるため全体像をつかめない場合など。これらは、〈個体性〉、〈関係性〉、〈具体性〉、〈抽象性〉などをうまく操れていないことからくるわかりづらさです。グローバルビジネスドキュメントの作成には〈個体-関係〉、〈具象-抽象〉両方の操作能力が求められるのです。

 次回は、ドキュメントの構造的な側面の学習に先立ち、まずは個別センテンスレベルにおける明瞭な表現方法を具体的に解説します。

高杉尚孝(たかすぎ・ひさたか)

筑波大学大学院客員教授・高杉尚孝事務所代表

慶応大学経済学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン経営大学院卒 (MBA)。アルバート・エリス研究所認定スーパーバイザー心理セラピスト。ニューヨーク証券取引所認定スーパーバイザー財務アナリ スト。マッキンゼー、JPモルガンのニューヨーク事務所、そして東京事務所に勤務。米系情報コンサルティング会社マネジング・ディレクターを経て、高杉尚孝事務所設立。精神タフネス、論理思考、ライティング、ファイナンス、シナリオ分析などの企業研修に従事。日経ビジネススクール講師、NHK教育テレビ「英語ビジネスワールド」元講師。著書に「英語ビジネスドキュメント・ライティングの技術」「問題解決のセオリー」「論理表現力』(日本経済新聞社)、「実践・交渉のセオリー」「実践・プレッシャー管理のセオリー」(NHK出版)など。最新刊に「英語ビジネスドキュメント・ライティングの技術」(日本経済新聞社)がある。


■高杉総合研究所ウエブサイト
http://www.takasugisoken.com