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所有するよりも必要なときに使うスタイルへ

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落語をヒントにコミュニケーションのコツをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。落語ブームにあやかって、ビジネスでも「つかみはOK」となるようなコミュニケーション術を、本コラムではお話ししていきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、自分という唯一無二の価値ある商品を売り込む有効な術として、ぜひ参考にしてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

所有するよりも必要なときに使うスタイルへ

 昨夏の日経クロストレンド(日経BP)に、「トレンドマップ2019夏」という記事がありました。消費における将来性スコアで、「シェアリングサービス」というワードが上位に上がっていました。

 「シェアリング」とは、インターネットなどを介して、個人や企業が提供できるモノや時間を、必要としている人が利用するサービスです。働き方改革関連ではワークシェアリングなども注目されていますが、最近、増えてきたカーシェアリングや民泊など、その代表的な例と言えます。

 この考え方は、新しいかと思えば昔からあるもので、落語の世界でも、いろいろな貸し借りは多く行われていたようです。

調味料から大工道具まで貸し借りが日常茶飯事

 落語の噺には、金銭の貸し借りがよく出てきます。ほうぼうのつけが払えない甚兵衛が、大晦日(おおみそか)に口の達者な盲目の富の市に頼んで、返すのを春まで待ってもらおうと交渉して歩く「言い訳座頭」、大金を拾ってきたことを夢にしてしまうために、飲み代を借金して払ったと言う女房のけなげさに涙する「芝浜」などなど、とかく落語では借金が話の種になります。

 お金だけでなく、味噌や醤油(しょうゆ)のような調味料から大工道具まで、長屋での貸し借りは日常茶飯事でした。うたた寝から冷めた喜八が、いろいろな人から今見た夢を次々に問われ、最後は天狗(てんぐ)にまで問い詰められる「天狗裁き」の中で、三代目桂米朝さんは、長屋の人情を「味噌や醤油の貸し借りまで所帯の裏の裏までよーわかってる」間柄と述べています。

 一方で、釘を打つために金づちを借りに行ったが、打つのが金の釘(くぎ)なら金づちが減るから貸してやらんというのが、「始末の極意」という噺。上方で言う「始末」とは「節約」のことで、あまり非難もされませんが、同じ噺が江戸落語に入ると「しわい屋」という名になるように、「しわい」つまり「けち」であると、おちょくられてしまいます。昔の江戸では、貸し借りもできない人は、残念な人だったようです。

なにかといえば「お互い様」という人情ありき

 時代は変わり、どんな田舎でも味噌や醤油の貸し借りをすることは、あまりなくなりました。また現在では、借金が返せないというと、とても深刻なことになってしまいます。昔の日本人があれほど大事にした人情は、どこにいったのでしょう。

 落語の世界には人情があります。江戸の庶民には、長屋の井戸端で育まれ、返せないなら仕方がないから待ってやろう、なにかといえば「お互い様」というように「人情のシェアリング」がありました。今の都会が、互いを知らなくてもいい場所になったからこそ、シェアリングが商売になったのでしょうね。落語の世界と現代とのギャップは、意外と商売の種になるのかもしれません。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。