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人材の確保に大きく影響しかねない仕事へのやりがい

人材の確保に大きく影響しかねない仕事へのやりがい

落語をヒントにコミュニケーションのコツをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。落語ブームにあやかって、ビジネスでも「つかみはOK」となるようなコミュニケーション術を、本コラムではお話ししていきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、自分という唯一無二の価値ある商品を売り込む有効な術として、ぜひ参考にしてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

人材の確保に大きく影響しかねない仕事へのやりがい

 過去に「日経キャリアNET」で、評価制度への満足度に関するアンケート調査が発表されていました。

 それによると、「やや不満」は20代社員に多く、それが、40代で「不満」へと変わっていっているようです。長年積み重なってきた評価に対する不公平感が主たる理由で、次に、納得できない評価が原因と続きます。いかに企業が得心のいく評価を社員にくだせるかが、これからの人材確保に大きく関わってくるであろうことが読み取れます。

 落語でも、この不公平感を笑いにしている噺があるので紹介いたしましょう。

ビジネスとしては絶対にやってはいけない、その場しのぎ

 「花見小僧」は、大店の一人娘であるおせつが店の徳三郎と恋仲になっていると聞きつけた旦那が、花見のともをした小僧の定吉から、アメとムチを使い分けて、あれこれ聞き出そうとする噺です。

 その際、アメとして使った手段が、「藪(やぶ)入りのほかに休みをやろう」ということ。「藪入り」、つまり盆と正月の休み以外に休みなく働いていた江戸時代には、小僧さんにとって追加の休みがよほどうれしかったのでしょう。花見に出かけた際のできごとを、口止めされていたにもかかわらず、ペラペラと話してしまいます。

 しかし、そんな口の軽いことではいけないし、なにより定吉にだけ休みをやるなんてことはできないと、旦那は約束を反故(ほご)にしてしまいます。これは、まさにアンケート結果に出ていた評価への不満の種となります。

 定吉にとっては、いったん口にした約束を反故にするという上司に対する不信感を与えますし、また、もし定吉にだけ休みを与えたならば、店の他のものが不公平感を抱くでしょう。

 噺としては笑えますが、ビジネスとしては絶対にやってはいけない、その場しのぎの取り引きなのです。

身分や給金よりも仕事への誇りが勝る展開は現代人も共感

 評価に対する不満は、他者による外的要因によってたまっていくものではありますが、ここで考えたいのは、仕事をする人自身の中にある、仕事に対する評価、つまり「やりがい」です。

 落語の世界では、小僧さんはともかく、大人は、生き生きと自分の仕事をしている姿が描かれることが多いです。

 「妾馬(めかうま・別名 八五郎出世)」は、本来、妹が大名の子を産んで、兄である八五郎も士分に取り立てられる(出世する)という噺ですが、これを立川志の輔さんは、「大工をやりながら侍はできない」と(ほかにも理由はありますが)断らせてしまいます。

 身分や給金よりも仕事に対する誇りが勝るという志の輔さんのストーリーは、現代人にも共感を与えます。

 昔の職人が自分の仕事に誇りをもっている姿は、「大工調べ」をはじめ多くの噺で語られます。「やりがい」が、ある仕事に就いてもち始めるものではなく、誇りをもって仕事をしているうちにできていくもの。落語を聴いていると、そんな気にもなってきます。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。