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やるべき仕事はきっちり終わらせて休むべき?

やるべき仕事はきっちり終わらせて休むべき?

落語から働き方やビジネスのヒントをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。本コラムでは落語ブームにあやかって、演目から働き方やビジネスのヒントを探り出していきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、ヒントを参考に転職活動やビジネスに生かし、自分という唯一無二の存在価値をより高めてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

やるべき仕事はきっちり終わらせて休むべき?

 ちょっとした手術をすることになり、1週間のお休みをいただき入院しました。事前に分かっていたこととは言え、ぎりぎりまで調整が難しい案件などもあり、権利としての休暇も取りにくさを感じながらの行使となりました。

 入院中は、パソコンの持ち込みは厳禁とのこと。何も仕事が進みません。いらだつ気持ちをスマートフォンで聴く落語で静め、おとなしく休養に努めておりました。

 さて、落語の登場人物などは、休暇をどう思っていたのでしょうか。

奉公人に土日なく、休みは盆と暮れのみ

 古典落語の時代、盆と正月のいわゆる「藪(やぶ)入り」のほかに、奉公人には休みなどというものはありませんでした。そんな時代の休日観がわかる噺があります。それは、「花見小僧」です。

 一人娘が店の徳三郎とできていると疑う旦那は、丁稚(でっち)の定吉から花見のときの二人の様子を聞き出そうとするのですが、定吉は意外と強情で口を割りません。なんとか口を割らせようと、定吉が「忘れた」と言えば「若もうろく」だからお灸(きゅう)を据えなければならないと責め立て、一方で「話せば藪入りのほかにも休みをやる」とアメをちらつかせます。このやりとりがこっけいです。

 番頭からの「小僧は休みが大好きだから」という入れ知恵もあって、アメをちらつかせることで、なんとか話をさせることに成功するのですが、丁稚のひとりにだけ休みを増やすわけにもいかず、「あれは嘘だ」と反故(ほご)にしてしまいます。立川志の輔さんのCDなどで聴けますので、ぜひ落ちはご自分でお確かめください。

 昔は土日もなく働き、休みは盆暮れだけでした。休暇などというものは怠け者の取るものとの意識があったのでしょう。

前もってがんばるか、それともチームで分担できるか

 今回、私が苦労したように、仕事を休むならその分を前もってやっておかなければならないという考えも、落語の中に出てきます。

 怪談話の「お菊の皿」では、番町皿屋敷のお菊さんが皿を数え終わると呪い殺されるということで恐れられていたのですが、怖いもの見たさの見物客が九枚数えるまでに逃げ出せば助かるのだろと言いだし、スリルを楽しむイベントになるという噺です。

 お菊さんが六枚と言った瞬間に逃げ出すさまがこっけいですが、ある日、お菊さんが九枚まで数えるところで、逃げそびれた客がいました。もうだめだと思ったら、お菊さんはさらに「十枚、十一枚」と数え続け、とうとう「十八枚」まで数えてしまいました。「どうしてそんなに数えたんだ」と尋ねる客に、「だって明日はお休み。その分まで」と答えます。幽霊にも、やるべき仕事はきっちりやって休むべきという倫理観(?)があるという話です。

 ブラック企業と言われないよう、今や休暇の取り方が明示されている求人情報も増えました。ただ、休みの分だけ他の日にがんばってカバーしなければならない会社と、チームで分担してくれる会社との違いは、意外と見えてきません。しっかりゆっくり休暇を楽しめるよう、転職の際には、日経キャリアNETでよく情報を集めましょう。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。