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江戸版「リモートワーク」に学ぶ、情報漏えい対策の基本

江戸版「リモートワーク」に学ぶ、情報漏えい対策の基本

落語から働き方やビジネスのヒントをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。本コラムでは落語ブームにあやかって、演目から働き方やビジネスのヒントを探り出していきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、ヒントを参考に転職活動やビジネスに生かし、自分という唯一無二の存在価値をより高めてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

江戸版「リモートワーク」に学ぶ、
情報漏えい対策の基本

 先日の日本経済新聞に、会社から離れた場所で業務をこなす「リモートワーク」の記事が載っていました。在宅で勤務できるわけですから、社員にも出社の労力がかからず、また会社にとってもオフィスの効率化ができる点でメリットがあるようです。

 「リモートワーク」のように、働く場所に縛られないという働き方は、古典落語の世界にも通じるものがあります。例えば、分散している家内工業者に原料と工具などを問屋が貸して、製品を作らせる問屋制家内工業。いわゆる、請け負う側から見た「内職」ですが、考え方は江戸版「リモートワーク」と言っても良さそうです。

 今回は働く場所に縛られない働き方をきっかけに、符丁が話の妙となる演目「今戸の狐(いまどのきつね)」を取り上げてみたいと思います。

時代を超えて存在する、働く場所を選ばない働き方

 江戸の中橋と言えば、日本橋と京橋を結ぶ通りにかけられた橋で、現在の東京駅八重洲口を出てすぐのところにありました。その中橋に住んでいたのが、初代三笑亭可楽。その門下に前座(噺によっては二つ目)の良助という人があったのですが、寄席だけでは食べていけないうえに、師匠から内職を禁じられて、たいへん困っていたようです。

 しかたなく、師匠に内緒で、浅草の北にある今戸で盛んだった今戸焼の彩色をする内職を始めたのですが、その内職を教えたのが、千住にあった遊郭あがりのおサイさん。昔、千住のことを、仲間内だけで通じる言葉である符丁で「コツ」と言ったことから、皆に「コツのサイ」と呼ばれていました。

 実は、この「コツのサイ」には、もうひとつの意味があり、それは博打(ばくち)仲間の符丁で動物の骨で作ったサイコロのことでした。おサイさんの話をしているところに通りかかったヤクザものが、この場所で賭博が行われているとにらみ、それをネタに良助をゆすりにかかります。

 ここで、もうひとつの勘違いが生じます。良助の内職は、今戸焼の狐の置物の彩色だったのですが、この「キツネ」というのにも、もうひとつの意味がありました。「キツネ」は、ヤクザものの符丁で3つサイコロを使う賭博のことで、両者の勘違いから見事に話がこじれていきます。

 実際に聴いていただければ抱腹絶倒間違いなしの噺ですが、江戸時代にも働き場所に縛られない働き方があったのですね。

人の口以上に災いの元となりえるインターネット

 さて、この噺のおかしみは、符丁による勘違いです。

 昭和から平成にかけての大名人、古今亭志ん朝さんは、噺の中で落語家の符丁をいくつか紹介してくれてもいます。

 扇子のことを「カゼ」、手拭いのことを「マンダラ」、羽織のことを「ダルマ」などという言葉は、落語家さんしかわからないため、仲間内にだけ伝えたい場合には都合がよいのかもしれません。一方、ケチの意味の「セコい」や子供を指す「ジャリ」などは、現代では広く使われます。

 仲間内だけで使っているつもりでも、どこかから漏れてしまうのが世の常。もし漏れたら、人の口以上に影響が多大になりかねないのが、インターネットにおける情報漏えいです。

 前述した「リモートワーク」を行っている会社も、情報漏えい対策に万全を期していると思いますが、せっかくの仕事の成果も、通信の途中で他人に奪われたら台無しです。暗号化という現代の符丁を最大限に活用して、安全な「リモートワーク」が実行できるようになっていってほしいものです。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。