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落語家も副業? 「人」として生きるために働く精神が大事

落語家も副業? 「人」として生きるために働く精神が大事

落語から働き方やビジネスのヒントをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。本コラムでは落語ブームにあやかって、演目から働き方やビジネスのヒントを探り出していきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、ヒントを参考に転職活動やビジネスに生かし、自分という唯一無二の存在価値をより高めてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

落語家も副業?
「人」として生きるために働く精神が大事

 政府の音頭取りもあってか、さまざまな企業が副業を容認する時代になりました。日経キャリアNET「転職ニュース&コラム」のアンケートでも、副業をやってみたいという人が、登録会員の半数程度いるとの結果が出ています。人口減少に対応する手段として、今後、ますます副業は推奨されていくでしょう。

 増えすぎの感もある落語家さんも、皆が芸だけで生活していけるわけではないようです。 金原亭世之介さんのように、丼のフランチャイズの社長として稼いでいる人はまれかもしれませんが、副業をしている落語家さんは少なくないと聞きます。そちらも興味ありますが、きょうは落語の噺から、副業のありかたを考えてみましょう。

使い道は似たり寄ったりの「皮算用」

 副業の噺で有名なのは「宿屋の富」です。上方では大阪市中央区の高津神社を舞台にしたことから「高津の富」と呼ばれますが、おおぼら吹きの田舎者に富くじ(昔の宝くじ)を売りつける宿屋のおやじが出てくるところは同じです。

 この噺の聴き所は、当たり番号が読み上げられている場面で、朗々と読み上げられる番号に一喜一憂する聴衆でしょうか。はたまた、よもや当たらないだろうと信じている田舎者と宿屋のおやじが、張り出された当たり番号を見て、大当たりしているにもかかわらず、「おしいなあ」という場面でしょうか。いずれも、ありそうな場面だけに親近感をもって笑えます。

 さて、本当は一文無しの田舎者も、そして当たったら半分もらうと約束した宿屋のおやじも、当たったとわかったら大慌て。履き物を履いたまま、二階の部屋に上がり込むところで噺は終わります。

 でも、一文無しの方はともかく、副業で大もうけしたのは宿屋の主人。三代目桂米朝さんは、宿屋の主人に「大阪いっぱいの宿屋を建てて」と本業につぎ込もうと息巻いて語らせ、立川談志さんは、「(暮らしがなりたっていた)もとのようになります」と慎ましやかに頼ませます。

 金の使い道はそれぞれですが、一獲千金の「取らぬタヌキの皮算用」は、似たり寄ったりです。

金を儲けようとするから「欲」が出る

 さて、もう一席。

 三代目桂米朝さんの師匠である四代目桂米團治さんは、その昔、代書屋の副業をやっていたそうです。その経験を落語に生かして、昭和10年代に「代書」という落語を作ります。

 落語のことですから誇張もあるでしょうが、代書屋は言われたとおり書くだけでは務まりません。生年がわからないと言われて、天皇の即位の年に何をしていたかから逆算したり、お金がないからと言われて「負けたるさかい持っていきなはれ」と書いた書類をあげてしまったり、とかく人情深く客に接します。金を儲けるために働くのではなく、人として生きるために働くという精神が貫かれています。

 副業でも本業でも、金を儲けようとすれば欲が出ます。むしろ副業は好きなことをやっているくらいの、気楽な気持ちで始めたらいいのかもしれませんね。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。