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いざというときに頼れる存在を大切にしたい

いざというときに頼れる存在を大切にしたい

落語をヒントにコミュニケーションのコツをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。落語ブームにあやかって、ビジネスでも「つかみはOK」となるようなコミュニケーション術を、本コラムではお話ししていきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、自分という唯一無二の価値ある商品を売り込む有効な術として、ぜひ参考にしてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

いざというときに頼れる存在を大切にしたい

 英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)も、のっぴきならないところまで来てしまいました。このまま、しこりを残して大陸と縁を切れば、英国にとっても大損害となるところです。今回は、上手に縁を切るための方策を、落語から学んでみましょう。

喧嘩のもとは勘違いもよくある話

 「締め込み」と言えば、家人の留守に忍び込んだ泥棒が残した風呂敷包みを、女房が間男と逃げようとしたと夫八五郎が勘違いしたところから夫婦喧嘩(げんか)が始まる噺です。滑稽なのは、その喧嘩を空き巣が仲裁して元のさやに戻すところです。

 名人古今亭志ん朝さんの語りは、すっとぼけながらも軽妙な語り口で演じて会場を沸かせます。八五郎との掛け合いで、この間抜けな泥棒の言い訳を語るくだりなどは、「そんなこと、あるわけがない」と思いながらも笑えてきます。また八五郎夫婦もとぼけたもので、仲直りできたのはこの泥棒のおかげと、妙な感謝をします。とんちんかんな噺ながらも、愛情あふれる傑作です。

 さて、ビジネス上のこじれた話も、勘違いからということもよくある話です。小さなことでも金銭が絡むとこじれるもの。きちんと確認をすることが大切です。「締め込み」の八五郎も、最初からかみさんの話を聞いていればこじれずにすんだ……。おっと、それでは落語にはなりませんか。

立つ鳥跡を濁さず できるだけ穏便に

 ビジネスでの別れと言えば、なんといっても転職です。転職をするときにいちばん気を付けたいのは、喧嘩別れにならないこと。現状に見切りを付けて地元に帰ってがんばろうという場合でも、どこでどうつながってくるかわからないのがビジネスの世界。立つ鳥跡を濁さず。できるだけ穏便に巣立ちたいものです。

 喧嘩別れを避けるには、粘り強く交渉することが大切ですが、自分の力でどうにもならないときには、他人の力を借りるのも有効な手立てです。「締め込み」の泥棒のように都合良く、縁の下に潜んでいて喧嘩になったら出てきてくれるという人がいなければ(ふつうはいませんが)、幇間(ほうかん)に頼んでみるのもよいでしょう。幇間は、芸や言葉によって客のご機嫌を取り宴席をにぎやかす男性を指し、別名「たいこもち」。このような人に頼ってみるのも一案です。

 そんな頼りがいのある人間は、身近にいないって? もちろん幇間そのものはいませんが、言葉巧みに人間関係を調整してくれる人はどこかにいるもの。日ごろの人間関係をご縁と感謝し、いざというときに味方になってくれる人をもっておきましょう。落語という共通の趣味をもっている人であれば、人情味にあふれていていいかもしれませんね。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。