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視野を広げ、様々なことを学び続ける姿勢が不可欠

視野を広げ、様々なことを学び続ける姿勢が不可欠

落語をヒントにコミュニケーションのコツをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。落語ブームにあやかって、ビジネスでも「つかみはOK」となるようなコミュニケーション術を、本コラムではお話ししていきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、自分という唯一無二の価値ある商品を売り込む有効な術として、ぜひ参考にしてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

視野を広げ、様々なことを学び続ける姿勢が不可欠

 大相撲の横綱稀勢の里が、ついに引退しました。引退会見で時折見せた涙は、現役続行への執着を物語っているようでもありましたが、心機一転、親方としてのセカンドキャリアに精を出す姿は、変わらずすがすがしい印象を与えています。一方、人気グループ嵐の活動停止発表では、多忙な芸能生活を離れ、別の道を歩きたいというメンバーの思いが伝わってきました。

 スポーツ選手や芸能人と同じようにはいかないまでも、ビジネスパーソンにとって転職は、セカンドキャリア充実のチャンス。人生を違った観点で捉えてみるために、昔のご隠居さんの知恵から学んでみましょう。

謙虚な姿がよりよいビジネスディールを呼び込む

 今ほど長命でなかった昔は、40代で隠居というのも珍しくなかったようです。 隠居噺で絶品なのは「茶の湯」です。隠居と小僧の掛け合いが抱腹絶倒のこの噺を、立川志の輔さんのCD『両耳のやけど10』で聞いてみましょう。

 家督を息子に譲って根岸に住み始めたご隠居さん。することがなく退屈しのぎに茶の湯を始めますが、実は知ったかぶりだけのド素人。それでも、小僧の定吉に「あの茶碗の中に入れる青い粉な、なんだっけなあ」と忘れたふりしてつぶやくと、察しのよい定吉は「あ、あれだな」と早速、青ぎな粉を買ってきます。しかし、泡が立ちません。

 すると定吉、今度は石けんの代わりに昔使われた、ムクという植物の皮を買ってきます。ようやく泡は立ちましたが、味は最悪。おまけに下剤顔負けの腹の下りよう。しかし、それを近所の人に振る舞って大騒動……。志の輔さんは、この2人の掛け合いを軽妙な語り口で語って会場を爆笑の渦に包みます。

 この噺には、「素人の知ったかぶりは厄災である」との教訓があります。ビジネスで知ったかぶりは、とても危険です。40代の隠居は、今で言えば転職のようなもの。転職先で、昔取った杵柄で本業の力を発揮しつつ、知らないことは虚栄心を捨てて謙虚に「忘れてしまったのでもう一度お願いできますか」と頼んだほうが、よりよいビジネスディールにつながったりするものです。

よいビジネスの縁を運んできてくれる契機になる?

 「茶の湯」は、隠居の無知ぶりを笑いにしていますが、一方で、ご隠居さんは、ご近所の知恵袋としても活躍します。志の輔さんの独演会で前座の弟子たちがよくやる「つる」などでも、ご隠居さんの知恵が笑い話になります。「なぜ、鶴と呼ぶのか」と尋ねられたご隠居さん。「つー、と飛んできて、るっと木に止まったから」と言いますが、もちろんでたらめな語源です。そうは言いながらも、身近な人たちに頼られ、会話を楽しんでいる様子などは、セカンドキャリアの1つの理想の姿なのかもしれません。

 しかし、それは年寄りが、字の読めない庶民にとって、唯一の知恵袋だった時代の話。技術革新が日進月歩の現代においては、現役世代でも年長者が重宝がられないこともあります。「俺は、〇〇一筋40年、頑張ってきたんだぞ」と言っても、時代遅れと言われてしまうこともあります。

 では今、よりよい転職のために何が必要なのでしょうか。それは、視野を広げ様々なことを学び続けることです。落語で古典芸能を学ぶのもよし。これまでの仕事の環境からがらっと変えてみると、よいビジネスの縁(えにし)を運んできてくれるもの。大切なのは、隠居さんのような鷹揚(おうよう)さなのです。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。