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「厄払い」からもビジネスのヒントが得られる?

「厄払い」からもビジネスのヒントが得られる?

落語をヒントにコミュニケーションのコツをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。落語ブームにあやかって、ビジネスでも「つかみはOK」となるようなコミュニケーション術を、本コラムではお話ししていきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、自分という唯一無二の価値ある商品を売り込む有効な術として、ぜひ参考にしてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

「厄払い」からもビジネスのヒントが得られる?

 今年は台風の多い年でした。大阪では関西国際空港が高潮で水没してしまったり、看板や屋根はおろか走っている車まで風で飛ばされたりして、大きな被害を受けました。私の住む地域も何度か台風に見舞われて、その都度、停電。日ごろ当たり前にある電気のありがたさを、再認識した年でもありました。

 これほどに災難続きですと、やはり厄払いをしたくなるものです。そんなときにうってつけの噺「厄払い」からもビジネスのヒントが得られます。上方落語の再興者、三代目桂米朝さんの落語から拾ってみましょう。

アイデアと顧客は昔も今も変わらない企業秘密

 「厄払い」は、金に困った主人公がプロの厄払いのまねをして、大晦日に一儲けを企むお話ですが、やはり一朝一夕にはうまくいきません。

 まずは厄払いが来たことを知らせる立前(たてまえ)に悩みます。「厄払いがお宅のご門前を通ってまっせ」という立前では長すぎる。そこで「厄(やっく)払いまひょ、めでたいのんで払いまひょ」と、リズムよく立前を述べるプロの厄払いに教えてもらおうとするのですが、そこは企業秘密。簡単には教えてくれません。

 さらに、お得意さんを取られてなるものかと、ついてくるなと叱られます。ビジネスでアイデアと顧客は企業秘密ともなる重要事項。それは昔も今も変わりませんね。

 そこで、ない知恵をひねって、近くにいたうどん屋の「なあ〜べや〜きうど〜ん」という立前をまねてみたりもするのですが、結局うまくいきません。ついには、やけになって「本日開店の厄払いやぞ。もうじっき店じまいの厄払いや。もうなんぼでもまけるで。投げ売りの厄払いや。呼べ呼べ」とまくしたてる。すると、どこの世界も風変わりを尊ぶ客がいるもので、とある商家に招き入れられる。オリジナリティーは重要です。

ビジネスも笑門来福の心を大切にしたい

 さて商家に入っても、そこは素人厄払いのこと、口上を知りません。物知りの甚兵衛はんに書いてもらった、いわばカンペを見て述べ上げようとするのですが、字がよく読めません。「鶴は千年、亀は万年」を「鶴は十年、亀は一カ年」と誤読して、「そんな短い寿命ではあかん、めでたいのんでやってもらわなあかん」と怒られてしまいます。

 結局、素人よりもよく知る番頭さんに厄払いをさせて、金だけもらって逃げていくことになるのですが、商家の人も怒ってはめでたくはないと心得ているのが、落語のいいところ。先の素人口上からヒントを得て、年越しの晩の雨も「降るは千年、雨は万年」とパロディーにしてみたり、最後には「厄払いまひょ」を「夜具払いましょ」と小僧までが言ってみたりで、笑いの中に大歳(おおとし)の夜が更けていくという結末になります。

 災い転じて福となすのたとえか、怪我の功名か、いずれにしても終わり良ければすべて良し、笑う門には福来たるです。

 ビジネスでも笑門来福の心は大切ですが、ここではもうひとつ、この厄払いが商売になっていたことも見逃せません。本来、自分で行うべき厄払いを、プロに任せようという発想は、都市化した町、大阪ならではのアイデアです。まだまだ、このようなニッチ産業はありそうです。新たなビジネスのヒントを、落語から探してみたらいかがでしょうか。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。