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いつの時代も、爽やかでありたい上下関係

いつの時代も、爽やかでありたい上下関係

落語をヒントにコミュニケーションのコツをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。落語ブームにあやかって、ビジネスでも「つかみはOK」となるようなコミュニケーション術を、本コラムではお話ししていきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、自分という唯一無二の価値ある商品を売り込む有効な術として、ぜひ参考にしてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

いつの時代も、爽やかでありたい上下関係

時代が異なる背景があるから面白い

 最近、パワハラの話題が引きも切らずマスコミを賑わせます。昔なら許されたと、暴力や横暴を安易に考えている人の多さにも驚きます。時間は常識をも変えるもの。江戸時代の話の多い落語も、同様に時代を考えて聴かなければいけません。

 故立川談志さんが得意とした演目に、「大工調べ(だいくしらべ)」という噺(はなし)があります。この噺には、店賃(たなちん)が払えない与太郎に対し、商売に欠かせない大工道具を取り上げてしまう大家が出てきます。言わばパワハラ上司です。

 仕事を持ってきた大工の棟梁(とうりょう)が金を貸してくれて、与太郎は大家のところにいき、大工道具を返してもらおうと交渉するのですが、ためた家賃に少し足らず大家は道具を返してくれない。そこで棟梁も参戦して大家の過去を暴き、悪口雑言の応酬となる噺です。

 長い噺で、私も最初、談志さんの序だけを聴いたのですが、今だったらパワハラと言われそうな話と感じました。もちろん、時代が異なることを頭に入れて聴いているからこそ、どんなに虐げられてもやわらかくやり返す、与太郎の暢気(のんき)さが笑いを誘います。

 「大工調べ」には続きがあります。訴え出た奉行所では、質株もないのに大工道具を持って行ったと、奉行が大家をとがめます。一同、溜飲(りゅういん)の下がる思いをするという結末です。因業(いんごう)さは、昔も今も蛇蝎(だかつ)のごとき嫌なものなのです。

お互いの切磋琢磨があって並び立つ

 さて、NHKの「バラエティー生活笑百科」でもおなじみの桂南光さん。「つぼ算」という落語に関し、その師匠である故桂枝雀さんとの間に、こんなエピソードが残っています。

 「つぼ算(つぼざん)」は買い物上手と噂の男が、つぼを買う際に瀬戸物屋をうまく言いくるめて半値でつぼを買う噺ですが、聞き所は後半の瀬戸物屋の混乱ぶり。平たく言えば、詐欺師にひっかかる瀬戸物屋の慌てる様が滑稽です。

 ここで、枝雀さんは瀬戸物屋に「わたい、三日前から、お通じがおまへんねん」と語らせますが、これは弟子の南光さんのアイデアらしいのです(『桂枝雀爆笑コレクション4』より)。部下のアイデアを拝借して手柄にするなんて、ビジネスパーソンだったらパワハラもの。落語界では許されるのでしょうか。

 弟子のアイデアであっても、面白いものは取り入れる。そして、それを師匠も公言する。落語家が皆、そんな関係ではないでしょうが、枝雀さんと南光さんは、爽やかな師弟関係だったことがうかがえるエピソードでもあります。

 ビジネスに置き換えても、このような関係が大切です。プライドや地位が邪魔をして、上司や先輩が部下や後輩のアイデアを取り入れられないとしたら、会社として長い目で見れば大損です。よいアイデアであれば、事業をけん引するかもしれません。アイデアを盗んだりしたら最悪です。こういうパワハラが有能な若い人材の流出につながります。

 切磋琢磨(せっさたくま)の関係は、落語の世界もビジネスの世界でも同じですが、ちょっとだけ爽やかな関係でいたいものです。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。