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ここらで3分、会話がコワイ

壁に耳あり障子に目あり。悪口はほどほどに

壁に耳あり障子に目あり。悪口はほどほどに

落語をヒントにコミュニケーションのコツをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。落語ブームにあやかって、ビジネスでも「つかみはOK」となるようなコミュニケーション術を、本コラムではお話ししていきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、自分という唯一無二の価値ある商品を売り込む有効な術として、ぜひ参考にしてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

壁に耳あり障子に目あり。悪口はほどほどに

ものごとを俯瞰して自らを顧みる

 上方落語に「野崎詣り(のざきまいり)」という演目があります。野崎詣りは、大阪府大東市にある慈眼寺(じげんじ)、通称野崎観音に参ることで、江戸時代より信仰を集めていたようですが、生駒山の登山道にあるため、途中の深野池(ふこうのいけ・ふこのいけ:現在よりも江戸時代は大きな池であった)まで舟で行く人も多かったようです。

 喜六と清八という2人の参詣人が野崎詣りに行く道すがら、繰り広げる話が「野崎詣り」なのですが、この喜六がこれまたたいそう口が悪い。舟から土手を歩く人に、そこからでは手も出せまいとばかり、悪口を言いまくります。土手を歩く人も応酬して、乗船客をからかいます。今では考えられない悪口・雑言も、昔はへっちゃら。今、それをこのコラムに書けばコンプライアンスに引っかかりますので、詳しくは古典落語の本などをご参照ください。

 さて、ビジネスパーソンは、どんな悪口を言っているのでしょうか。契約が取れなかったときの帰り際などは、気を付けなければなりません。伺った会社の敷地内はもとより、最寄りの駅などでも悪口は御法度。関係者に聞かれてしまえば、一回の契約不成立だけでなく、これっきり縁もなくなります。むしろ、そのように気が回らない人は「今、ここ」だけのビジネスを前提にしているといえます。

 卓越したビジネス感覚を持つ人は、「今、ここ」だけでなく俯瞰して契約不成立の原因を探ります。自らを顧みることを身に付ければ、他人の悪口など口から出てきません。

現在は「居酒屋」に舞台を移す?

 さて、JR東海のウェブサイト「そうだ京都、行こう。」を見ていたら、面白い記事がありました。八坂神社の宮司さんのお話で、八坂神社には昔、「をけら参り」という行事があったそうです。「をけら」とは薬草の一種。燃やすと強烈なにおいを発し、邪気を払うことから、新年に「をけら」の火を火縄に移して持ち帰ったとのことです。

 面白いのは、その前日。「悪たれ祭」と呼ばれる悪口言い放題の年越し行事がありました。暗闇の中、誰が言っている悪口かもわからないため、皆がすっきり気兼ねなく吐き出してしまいます。落語の「堪忍袋」と同じ効能で、すっきりして新年を迎えます。

 残念ながら、現在では「をけら参り」のみが残り、この「悪たれ祭」はなくなってしまったようですが、ビジネスパーソンの「悪たれ祭」は、どうやら居酒屋などに場所を移して健在のようです。たまには大声で上司や取引先の悪口など言って発散したい気持ちはわかりますが、壁に耳あり障子に目あり。くれぐれもご用心を。老婆心ながら、SNS(交流サイト)での悪口は千里どころか地球を一瞬で駆け巡り、証拠を残しますので、気を付けてください。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。