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ここらで3分、会話がコワイ

聞かせるには、まず尋ねること ~「聞いていない」疑問文の効能~

聞かせるには、まず尋ねること ~「聞いていない」疑問文の効能~

落語をヒントにコミュニケーションのコツをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。落語ブームにあやかって、ビジネスでも「つかみはOK」となるようなコミュニケーション術を、本コラムではお話ししていきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、自分という唯一無二の価値ある商品を売り込む有効な術として、ぜひ参考にしてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

聞かせるには、まず尋ねること
~「聞いていない」疑問文の効能~

疑問文を差し挟むことで注意を向けさせる

 三代目桂米朝(1925-2015)と言えば、戦後絶滅の危機にあった上方落語を中興し人間国宝ともなった名落語家ですが、ビジネスパーソンがぜひまねをしたいコミュニケーション術を高座で用いていました。

 愛知県出身で将棋の最年少プロ棋士、藤井聡太四段の活躍で、世は将棋ブーム。落語にも将棋を題材とした話があります。その中のひとつが「二人癖(二人ぐせ)」という話。米朝さんの軽妙なかけ合い言葉が躍動する名演目です。

 何かと「(酒が)呑める」と言う人と「つまらん」と言う人が張り合って、その口癖を言ったら罰金千円を相手に払うと取り決めます。何とかして相手に口癖を言わせようと計略をめぐらす話ですが、その序盤でこんなことを言っています。

 「さあ、不景気やさかい、パァーッと景気直しに呑めるとこないかいなと、今晩あたりウワァーとこうなあ、一杯呑めるてな口……」

 「お前その、家へ入って来てな、まだ二言か三言しか言うてへんのに、呑めるという言葉を何べん言うたと思う?」

 疑問文というのは、相手の知識にある情報を得ようとして発する言葉ですが、この「何べん言うたと思う?」は、そうではありません。相手が自覚していない情報を認識させようとして発するだけで情報を得ようとしていない、言わば「尋ねない」疑問文です。尋ねていないのなら何のために発するのか。それは注意喚起のためです。人は向けられた疑問に答えようとする生き物ですから、あえて疑問文を差し挟むことで考えるようにと促し、注意を向けさせることができるのです。

聞き手に会話の当事者意識を持たせて引き込む

 「何べん言うたと思う?」のほかにも、まくら話であれば「そのとき私、何て言ったと思います?」と敬語で観客に問いかけたりもします。尋ねられても「そんなことはわかるか!」と答えるほかない問いかけであるにも関わらず、観客は自分が尋ねられていると感じ、話に引き込まれていきます。

 ビジネスでも、この「尋ねない」疑問文を、要点を話す前置きにすると、伝えたいことをよりよく相手に伝えることができます。値段を安く抑えたと強調したいときには、「いくらになったと思います?」と言うのも一策です。

 「聞かせるためには、まず尋ねること」。話は一方通行になると緊張感がなくなります。そんなときには、あえてこの「尋ねない」疑問文を挟みます。そうすると聞き手に会話の当事者意識を持たせ、より話に引き込んでいけるのです。

 さて、くだんの口癖合戦ですが、どうなったと思いますか。結末は米朝さんの「二人癖(二人ぐせ)」を、ぜひご一聴ください。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。