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臨機応変な対応は不断の鍛錬あればこそ ~いざというときに備える~

臨機応変な対応は不断の鍛錬あればこそ ~いざというときに備える~

落語をヒントにコミュニケーションのコツをつかむ

近年、落語の人気が急上昇。落語ブームにあやかって、ビジネスでも「つかみはOK」となるようなコミュニケーション術を、本コラムではお話ししていきます。

転職に初めて踏み切るという方も、転職のチャンスをうかがっている方も、自分という唯一無二の価値ある商品を売り込む有効な術として、ぜひ参考にしてください。

※文/山田敏弘(岐阜大学教育学部教授、専門:日本語学・方言学)

臨機応変な対応は不断の鍛錬あればこそ
~いざというときに備える~

TPOに合わせて

 夏になると、あちらこちらで「納涼」と銘打った落語会が開かれます。どんな話が聴けるのでしょうか。

 落語会では「本日はこの演目です」と、前もって上演内容を知らせることはあまりしません。歌手のコンサートならば、おおよそ新譜を織り交ぜてセットリストを構成しますし、役者の名前だけがわかって演目がわからないような舞台はないでしょう。帰り際に「本日の演目」が貼り出される落語は、一人で演じればこその特異な芸です。

 それもそのはず、落語ではまくらを話しながら落語家が舞台から客を観察し、どんな話がウケるかを探り、その場で演目を決めている(ことが多い)からです。前もって決まっていないからこそ、観客に最適な演目が聴けるというわけです。

 困ったこともあります。何人かの落語家が入れ替わって舞台に立つ落語会では、上演しようと思っていた演目を出番が先の人に演じられてしまったということもあるようで、急遽、演目を変更することもあります。こんなときに立ち往生では困ります。

 ビジネスパーソンも同じことです。会議では自分で言おうと思った意見が、先に他の人に言われてしまうこともあります。企画のコンペでは、類似したアイデアが先に出されても、それを上回るアイデアを出していかなければなりません。臨機応変に危機に対応する力も、重要なビジネススキルです。

引き出しを多く持て

 2代目桂枝雀と言えば、3代目桂米朝の弟子で、頭の切れる落語家でありながらユニークな風貌で愛され続けた名落語家ですが、よく落語の裏話を高座でしていました。そんな話の中に、落語家はたった20分か30分で一仕事が終わって楽な商売といった趣旨で語った話が残っています(枝雀落語大全第四集 「口入屋」)が、それは枝雀さんらしい謙遜。実際には、それまでに至るすさまじい修行があってこその芸当でしょう。

 ビジネスパーソンも日ごろ、どれだけ周囲に目を配って考えてあったかが、いざというときに問われます。考えを述べるには、付け焼き刃の浅薄な知識でなく、自ら調べ深めた具体的なデータの裏付けがあって、目の前の伝えるべき相手に合った形で流れを読んで対応することが大切です。

 臨機応変に対応できるのも、不断の鍛錬あればこそ。日本経済新聞を読んで経済動向を探るとともに、落語のようなまったくビジネスと縁遠いと思われる演芸からでもセンスを磨く姿勢が必要です。

 さて、夏になると怪談ばなしが多いようで、誰もが知る「牡丹灯籠」から枝雀さんの「幽霊が辻」など演目が豊富です。何が聴けるかというドキドキ感も、落語が人を引き付ける秘訣と言えるでしょう。夏本番を迎え、厳しい暑さが続くなか、寝苦しい夜に一席、いかがでしょうか。

山田敏弘(やまだ・としひろ)

岐阜大学教育学部教授(専門:日本語学・方言学)

1965年岐阜県生まれ。名古屋大学卒。名古屋大学大学院博士課程前期課程修了。大阪大学大学院博士課程前期課程を経て博士取得(文学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家としてローマ日本文化会館で勤務経験を持つ。著書は「国語を教える文法の底力」「国語教師が知っておきたい日本語文法」「日本語文法練習帳」(くろしお出版)、「日本語のしくみ」(白水社)、「日本語のベネファクティブ」(明治書院)、「その一言が余計です。」(ちくま新書)、「あの歌詞は、なぜ心に残るのか」(祥伝社新書)など。2016年4月から17年3月まで、ラジオ深夜便(NHKラジオ第一放送、毎月第3木曜深夜)のコーナー「暮らしの中のことば」に出演した。